太田述正コラム#3293(2009.5.24)
<日進月歩の人間科学(続x5)(その1)>(2009.7.2公開)

1 始めに

 コラムを書く材料が不足気味である上に、本日のように時間も不足気味である場合に、これを凌ぐ方法の一つは、表記のシリーズに係る材料のストックを活用することです。
 だからといって、コラムの中身も薄いと決めてかかってもらっては困ります。
 ではさっそく始めましょうか。

2 人が不幸であると感ずる時

 (1)ギルバート教授のコラム

 ハーバード大学の心理学教授のダニエル・ギルバート(Daniel Gilbert)は、以下のようなコラムをニューヨークタイムスに寄せています。

 「・・・<世論調査によれば、米国人達は、>昨年よりも微笑まなくなり、心配性になり、幸せ度は下がり悲しみ度が上がっており、睡眠不足気味になっており、タバコを吸う本数が増えており、鬱状態が増えている。・・・
 <確かに米国は現在不況のまっただ中だ。>
 <しかし、>結局のところ、我々の大部分は、インフレ分を取り除いても、我々の祖父母の時代よりたくさんドルを持っているし、我々の祖父母が恒常的恐怖の下で生活していたわけでもない。
 中流の米国人達は、依然として、1世紀前の上流の米国人達よりも贅沢を享受しているし、そもそも<19>世紀末は特段陰鬱な時代でもなかった。・・・
 <そうだとすると、一体全体、どうして現在の米国人達はかくも不幸せなのだろうか。>

 ・・・20回の電気ショックを被験者に与える実験<が行われたことがある。>
 被験者には、毎回強いショックが与えられることを知らされた者と、17回の弱いショックと3回の強いショックが与えられることは知らされたが、全20回のうちいつ強いショックが与えられるかは知らされない者とがいた。
 その結果分かったことは、強いショックが与えられる場合が少ししかない被験者の方が、常に強いショックが与えられることを知らされていた被験者に比べ、より恐れ、より激しく発汗し、心拍数がより増すということだ。
 これは、人間は、何か悪いことが起きるという場合よりも、何か悪いことが起きるかもしれないと思う場合の方がいやだと感じるものだからだ。・・・

 <他の例をあげよう。>
 人工肛門をつけて、排泄物を腹に開けた穴から出すようにすることは、誰にとっても愉快なことではない。
 永久に人工肛門生活になる患者と将来通常の排泄生活に戻れる可能性がある患者を対象に行った・・・調査がある。
 手術を行ってから6ヶ月後、永久に人工肛門生活になった患者の方が、将来通常の排泄生活に戻れる可能性がある患者よりも幸せであることが分かった。・・・
 同様に、・・・神経が冒される症状を呈するところのハンチントン病(Huntington’s disease)を発病するリスクを判定する遺伝子検査を受けた人々を対象に行った・・・研究がある。
 発病する可能性が非常に高いことを知らされた人は、どれくらい発病する可能性があるか知らされなかった人より幸せであることが分かった。

 どうして我々は、最悪の事態が起きることを知ることをそのような事態が起きる疑いがあることよりも好むのだろうか。
 それは、我々が悪い知らせを受けるとちょっとの間は泣くけれど、それからそれに最善の対処をしようと忙しく立ち働くからだ。
 我々は、行動を変え、態度も変える。
 我々は、意識レベルを上げ、<期待>水準を下げる。
 我々は、靴紐に手を伸ばし締め直す。
 しかし、我々は、状況(terms)がどうなるのかまだ分からない場合には、その状況と折り合いをつけることができないのだ。
 不確かな将来は、我々を、なすすべもなくただ待つという不幸せな現在に立ち往生させてしまうのだ。・・・
 <そこで、冒頭の問題提起への答えだが、>米国人達は、かつて我々の大部分が現在持っている富よりもはるかに少ない富で完璧に幸せだったところ、我々だってすみやかにかつての米国人のようになることができるけれど、そのためには、我々がいつそういう境遇になるかを知る必要がある、ということなのだ。」
http://happydays.blogs.nytimes.com/2009/05/20/what-you-dont-know-makes-you-nervous/
(5月22日アクセス)

 (2)感想

 この傳で行くと、特攻隊の隊員達は、その他の当時の日本軍の兵士達に比べて幸せだったということになるはずですし、今の日本の死刑制度の運用ではそうはなっていないけれど、あらかじめ絞首刑が執行される期日が伝達される運用であれば、死刑囚は、全くいつ死期がやってくるか分からない我々よりも幸せだ、ということにもなるはずですが、そんなものですかねえ。

(続く)