太田述正コラム#3278(2009.5.16)
<開城工業団地閉鎖へ?>(2009.6.24公開)

1 始めに

 表記について、本当にそうなる可能性もあり、そうなると、北朝鮮経済はいよいよ窮迫の度を加えることになり、朝鮮半島情勢は全く予断を許さなくなるでしょう。
 そこで、本日の関連記事を整理してみました。
 いつものことですが、日本の主要マスコミが、このような本件に寄せる関心の低さが気になります。

2 開城工業団地閉鎖へ?

 (1)北朝鮮の最後通告

 「北朝鮮の中央特区開発指導総局は15日、韓国政府に南北経済協力事業の開城(ケソン)工業団地について制度的な特恵措置やこれまでの契約の無効を宣言する通知文を送った。・・・
  北朝鮮側は通知文で土地使用料や労働賃金の改定などの「無条件受け入れ」を求め、「(韓国側に)応じる意思がないなら工業団地から出て行っても構わない」とした。・・・」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2009051602000064.html

 「・・・<韓国政府部内では、北朝鮮は、>開城工業団地を閉鎖すると決心した上で、その責任を韓国に転嫁するため、無理な要求を突き付けてきたのではないか、との疑いが指摘されている。
 韓国政府は4月の第1回南北接触に続き、第2次接触を行い、北朝鮮が47日間にわたり面会も認めずに抑留している現代峨山職員の問題に応じるよう求めてきた。・・・」
http://www.chosunonline.com/news/20090516000014

 「・・・<韓国の>中央大学のイ・ジョウォン教授も「開城工団から得られる経済的な利益よりも、“資本主義の風潮”という政治的なリスクの方が大きいと判断したのかもしれない」と述べた。金正日・・・総書記の健康問題や後継者問題に注目が集まる中、北朝鮮にとっては「体制の引き締め」が最大の関心事だが、開城工団はそれに対してプラスに作用しないということだ。実際に3万9000人以上の工団労働者に2個から4個ずつ支給される菓子「チョコパイ」は、闇市場を通じて北朝鮮の全域に広まっているという。・・・
  北朝鮮の消息筋は「金剛山や開城観光などがすべて途絶え、その上3万9000人以上の労働者が年間3200万ドル(約30億円)を稼ぎ出す開城工団までを放棄するのは、北朝鮮にとっても簡単なことではない。交渉の主導権を握るための、まさに“崖っぷち戦略”だ」と述べた。・・・」
http://www.chosunonline.com/news/20090516000018

 「・・・北朝鮮がかかる要求を通じて開城<工業団地>の閉鎖を強いようという意図なのか、それともこの閉鎖国家が、北朝鮮が4月5日にロケットを発射したことで国連が<同国に対する>より厳しい経済制裁を追求しているのでカネをせしめようとしているだけなのか、定かではない。
 北朝鮮の指導者達が、開城<工業団地>から資本主義的影響がその厳重な統制下にある社会全体に広まりつつあることに警戒心を高めつつあったことも事実だ。・・・」
http://www.nytimes.com/2009/05/16/world/asia/16korea.html?ref=world&pagewanted=print

 (2)開城工業団地

 「開城工業団地の開発事業は、金大中・・・政権下の2000年8月、北朝鮮の金正日・・・総書記が現代グループの鄭夢憲(チョン・モンホン)会長(故人)に提案したのが最初だった。当時、現代グループと北朝鮮の「朝鮮アジア太平洋平和委員会」は、計6600万平方メートル(約2000万坪)を区域で開発事業を行うことで合意した。韓国土地公社が03年6月、敷地の造成工事に着手し、06年5月には第1期地区として330万平方メートルの造成工事が完了した。・・・」
http://www.chosunonline.com/news/20090516000027

 「・・・開城工業団地には現在93社の韓国企業が進出しており、北朝鮮の労働者3万9000人が働いている。労働者一人当たり月平均73ドル(約7000円)の賃金は、北朝鮮当局が米ドルで受け取った後、北朝鮮の労働者に物品や自国通貨で支給している。北朝鮮当局がこうした形で得ている資金は年間3400万ドル(約32億4000万円)以上に上る。北朝鮮の対外貿易規模が年間30億ドル(約2860億円)前後であることから考えれば、決して少なくない額だ。その上、北朝鮮は50年分の用地賃貸料1600万ドル(約15億2000万円)も先払いで受け取っている。」
http://www.chosunonline.com/news/20090516000013

 「・・・北朝鮮は08年3月、「北朝鮮の核問題が解決できなければ、開城工業団地のさらなる拡大は難しい」という金夏中(キム・ハジュン)統一部長官(当時)の発言を問題視し、韓国政府の要員の退去を求めた。さらに同年12月には、開城工業団地に常駐する韓国人の数を880人以内に制限するという一方的な措置を講じた。今年3月には、韓米合同軍事演習の実施を理由に、陸路の通行を<一時>全面的に遮断し、さらに現代峨山の社員が北朝鮮側に身柄を拘束されるという事件まで起こった。・・・」
http://www.chosunonline.com/news/20090516000027上掲

 「・・・北朝鮮は4月21日に開城で行った南北接触で、北朝鮮側労働者の賃金を中国レベルに引き上げることに加え、土地の租借期間を当初合意した50年から25年に短縮し、当初2014年から進出企業が支払うことになっていた土地使用料を来年から支払うことを要求した。・・・」
http://www.chosunonline.com/news/20090516000014上掲

 「・・・北朝鮮による先月の要求通りならば、月平均74ドル(約7000円)前後の労働者一人当たりの賃金を最低2倍に引き上げなければなら・・・ない。
 これに対し、進出企業は「開城工業団地に三通(通行・通信・通関)問題をはじめとする産業インフラが整っていない状況で、北朝鮮の要求を無条件で受け入れることはできない」との立場だ。・・・」
http://www.chosunonline.com/news/20090516000022

 「・・・仮に開城工業団地が事実上閉鎖状態となれば、・・・開城工業団地の閉鎖に伴う下請け業者の損失を含めると、直接損失は6兆ウォン(約4560億円)以上に達する・・・
 進出企業は北朝鮮側に責任が帰する理由で投資分に対する損失が生じた場合には、南北交易・経済協力保険による損失補助を受けられる。保険に加入した企業は万一の場合、最大50億ウォン(約3億8000万円)の範囲内で、土地、建物、機械など設備投資にかかる損失の90%まで補てんされる。保険金は韓国政府が創設した南北経済協力基金から支払われる。統一部関係者は「進出予定企業を含む121社が保険に加入している。一部企業は保険に加入していないため、投資資金が全く回収できないケースもあり得る・・・」
http://www.chosunonline.com/news/20090516000023

 (3)背景

 「・・・北朝鮮が4月5日に<テポドン2>ロケットを発射してから、朝鮮半島の緊張は高まっている。
 国連安保理がこの発射を批判したのに対し、北朝鮮は核廃棄に関する6カ国協議から退出すると述べ、国際監視員達を追放し、ヨンビョンにおける核施設を再起動させつつある。
 北朝鮮は特に韓国に腹を立てている。
 というのは、韓国は、米国主導の、大量破壊兵器の海上輸送を防止するためのPSI(Proliferation Security Initiative)に参加する意思があると表明したからだ。」
http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/8051447.stm

 「・・・韓国の保守派の大統領である李明博(Lee Myung-bak)は、昨年2月に就任したが、もうこれ以上、無条件での北朝鮮への経済援助は行わないと主張した。
 <同大統領>は、<韓国が>これ以上<南北経済>協力を行うかどうかは、平壌政府の核兵器を放棄する意図の有無にかかっているとも述べた。
 <それ以来、北朝鮮は、開城工業団地との物資輸送に用いられてきた>南との貨物鉄道路線を遮断した。・・・
 <そして、>北朝鮮は、西海岸沖の長く係争対象となってきたところの、南との海上境界線関連の諸合意に特に言及しつつ、もはやこれまでの諸合意には拘束されないと主張した。・・・
 ・・・
 <海上境界線とは、以下のとおり。>
 北方限界線(Northern Limit Line)と呼ばれる。
 黄海上において、国連が1953年に宣言した。
 北朝鮮はこの線を認めていない。
 この線沿いで、1999年と2002年に、死者の出た小競り合いが<南北海軍間で>あった。
 北朝鮮の漁師達によって<この線は>継続的に侵されている
 ・・・
http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/7861114.stm

 「・・・北朝鮮は、李明博・・・政権発足当初の昨年3月から、開城工<業>団<地>の経済協力協議事務所内の韓国側担当者を追放し、韓国に対して圧力を加える手段として同工<業>団<地>を利用してきた。昨年11月には、北朝鮮の最高権力機関である国防委員会の金英徹(キム・ヨンチョル)政策室長(中将)を送って工<業>団<地>内で事業を行う企業を脅迫し、12月1日からは工<業>団<地>に出入りする関係者と車を厳しく制限する措置を取った。
 今年3月に行われた韓米合同軍事演習期間には3回も陸路の通行を遮断し、数百人の韓国人関係者を事実上、人質として抑留した。・・・」
http://www.chosunonline.com/news/20090516000017

3 終わりに

 我々が考えるべきは、16日付の朝鮮日報が日本語版をほとんど、本件の関連記事で埋め尽くしながら、英語版ではほとんど本件に触れていないことです。
 オバマ政権下の米国にとって北朝鮮問題の優先順位が極めて低いのに対し、日本にとっては北朝鮮問題は重大な関心対象だ、という認識が朝鮮日報にはあるのでしょうね。
 しかし、日本の主要マスコミの関心は、新インフルエンザと民主党新代表選出で持ちきりであり、冒頭でも触れたように、本件はほとんど取り上げていません。
 全く困ったものです。