太田述正コラム#3250(2009.5.2)
<新型インフルエンザ(その2)>(2009.6.13公開)

3 各国の状況

 (1)メキシコ

 2000年から2006年にかけてメキシコで保健相を務め、現在ハーバード大学公衆衛生スクールの学長をしているジュリオ・フレンク(Julio Frenk)が、次のように記しています。

 「毎年約10,000人のメキシコ人が季節的インフルエンザがらみで死亡する。
 彼らは通常、免疫システムがウィルスを駆逐することができるほど十全ではないところの、高齢者か未成年者だ。しかし、今年は違っていた。・・・
 メキシコは人口1億1,000万人だが、若い成人達が若干数、明らかにインフルエンザによって死亡したのだ。・・・
 どうして、メキシコだけにおいて、このインフルエンザがかくも致死性が高いのか、いまだ明らかになっていない。
 <医者達が、通常の季節的インフルエンザだと考えて、対ウィルス製剤を患者に与えなかった可能性がある。>・・・」
http://www.nytimes.com/2009/05/01/opinion/01frenk.html?ref=opinion&pagewanted=print

 「メキシコのGDPの8%を閉める観光業が、<今回のインフルエンザによって>最も大きな打撃を受けることは必至だ。・・・
 ・・・今後2週間でおさまれば、年間GDPが0.2%減るだけで済むが、2ヶ月続けば、0.8%減るだろうという推計が出されている。
 これ以上悪いタイミングはない。
 メキシコは、既に複雑怪奇で社会を混乱させているところの対麻薬戦争のただ中にあり、かつ、世界不況によって大打撃を受けつつあるところだからだ。
 豚インフルエンザを勘定に入れなくても、メキシコの・・・今年のGDPの予測は、マイナス4.8%の伸びだ。・・・」
http://news.bbc.co.uk/2/hi/americas/8026113.stm

 「・・・観光業は、メキシコでは石油と外国からの送金に次ぐ収入源だ。
 しかし、豚インフルエンザの恐怖が観光部門をぶちのめし、同部門は最初の経済的被害者となった。・・・
 4月28日に政府は、事実上すべてのレストランを休業させ、顧客達にレストラン内ですわって食事をすることを禁じ、持ち帰りだけを認めた。
 それ以前に政府は、学校、運動施設(gym)、バー、劇場、博物館、プール、映画館、競技場、考古学サイトをすべて休業させた。
 メーデーのデモも中止された。
 ただし、教会と雑貨店はまだ開いており、バスと地下鉄は引き続き営業を続けている。・・・」
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/04/29/AR2009042904650_pf.html
(5月1日アクセス)

 (2)エジプト

 エジプト議会は、4月29日に同国内のすべての豚を殺す決定を下したと報じられています。
http://www.csmonitor.com/2009/0501/p02s01-usgn.html前掲

 今回のインフルエンザから「豚」という冠がはずされた(コラム#3249)ことに伴い、この決定が撤回されることを、エジプトの(豚関係業者を含む)コプト教徒を始めとするキリスト教徒等の非イスラム教徒の人々のために願わざるをえません。

 (3)台湾

 「台湾政府は、4月29日、翌5月からWHOの会議にオブザーバーを派遣すると表明した。これは1971年に、国連が台湾(中華民国)中共(中華人民共和国)へと承認対象を変更して以来、台湾にとっては初めとなる国連の公式活動への参加だ。・・・
 <台湾と中共の間で密かに行われてきた交渉がまとまったわけだ。>
 ・・・2003年のSARS禍の時、WHOから閉め出されているため、台湾は適切な対処ができないと不満を唱えたものだ。・・・」
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/04/29/AR2009042904666_pf.html
(5月1日アクセス)

 (4)香港

 「中共における最初の確認豚インフルエンザ患者<(メキシコ人)>が出た香港では、<その患者が泊まった>ホテルの約300人の人々が隔離された状況下に置かれている。・・・」
http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/8029871.stm
(5月2日アクセス)

 (5)韓国

 「・・・韓国でも最初の確認患者が出た。最近メキシコから帰国したばかりの51歳の女性だ・・・。・・・」(同上)
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<補注:最新全般状況>

 「・・・WHOは、<この新インフルエンザの>H1N1ウィルスに対しては既存のワクチンは無効らしいと述べた。そして、製薬会社達に対し、新しいワクチンをつくるように促しているが、それには4から6ヶ月かかるという。・・・
 メキシコの保健関係者達は、30日、同国における広範な休業の実施によって、この疾病の拡大が減速しているように見えると述べた。・・・
 <また、米国の>疾病対策センター(Centers for Disease Control and Prevention=CDC)は、<この新インフルエンザは、>これまでの種類のインフルエンザ<ウィルス>に比べて、罹っても回復が早い<との見解だ。>・・・
 <ただ、>H1N1<は、>新しい種であるだけに科学者達は心配しているのだ。・・・
 「米国人を始めとする世界の人々は、彼らにとってお馴染みの季節的インフルエンザと同じようには免疫を構築していない」と。・・・」
http://www.nytimes.com/2009/05/02/health/02flu.html?_r=1&hp=&pagewanted=print
(5月2日アクセス)

 毎日新聞の電子版が、WHOのマーガレット・チャン事務局長(61)とケイジ・フクダ事務局長補代理(53)の人となりを紹介しています。
 タイムリーな記事と言えるでしょう。

 「・・・ チャン氏は・・・中国への返還をはさむ94〜03年に香港政府衛生署長を務めた経歴が、政治センスをみがいたらしい。・・・06年、元WHO西太平洋地域事務局長の尾身茂・自治医科大教授(59)と選挙を争い、事務局長のポストを得た。この2人、新型肺炎(SARS)騒動で対策に奔走した「戦友」でもある。・・・
 <フクダ氏は>日本で生まれ子供時代に渡米、今は米国籍をもつインフルエンザ専門家だ。05年に米疾病対策センター・・・からWHOに移った。WHOのインフルエンザ対策の責任者で事務局長と事務局次長に次ぐポストにいる。米国は感染症対策を重視しており、フクダ氏のポストは事実上、米国の指定席となっている。・・・」
http://news.livedoor.com/article/detail/4137737/
(5月2日アクセス)

(完)