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太田述正コラム#3220(2009.4.17)
<生まれか育ちか>(2009.5.31公開)

1 始めに

 生まれ(nature)か育ち(nurture)かという議論は尽きることがありません(コラム#2765、2798、3178)。
 今回は、知的能力にしぼり、最近の米国での議論をご紹介しましょう。

2 学力

 「勉強について行くのにアップアップしていた7学年の一定部分が、<自分に対する>自信を醸成するような作文をやらされた後、目に見えて成績が上がり、しかもその効果が8学年の期間中持続した、と研究者達が・・・発表した。
 この研究によれば、一番トクをした学生は成績が振るわなかった黒人達だった。他方、白人の学生達や、前から成績の良かった黒人学生達には何の変化も起きなかった。
 専門家達は、この研究成果はそれほど大きな話ではないと指摘する。
 というのも、トクをした学生達は、中学校を卒業する時に、かろうじて平均でCの成績をとった程度にとどまったからだ。
 それでおなお、この研究成果は驚くべきものであると言える。なぜなら、学校を良くする試みの効果は、大抵は短期間にとどまるものであるし、やらせた作文は、わずか15分間の短いものだったからだ。
 トクをした学生達は、別の作文をやらされた学生達に比べて、8学年の終わりに、平均点で0.5点近く上回った。・・・
 その作文というのは、学生達に自分にとって最も重要な価値を、運動能力、ユーモアのセンス、創造力、頭が良いこと、の4つのうちから選ばせ、どうしてその価値がそんなに重要なのかについて書かせるというものだ。
 学生達は各クラスの中で無差別に選ばれ、上述の作文をやらされるか、または対照群(control group)として、自分の価値とは無関係の作文をやらされた。・・・
 黒人の学生達が白人よりもトクをしたのは、前者が人種的ステレオタイプにより、学業成績について、より大きな不安を抱いていたからではないかと考えられている。・・・」
http://www.nytimes.com/2009/04/17/science/17esteem.html?_r=1&hpw=&pagewanted=print
(4月17日アクセス)

3 知力

 学業成績全般をちょっとしたきっかけで上げることができる、ということは、学業成績全般を支えるところの、知力そのものを人為的に上げることもできるのではないか、ということを推測させます。

 「・・・結局のところ、一連の研究が示すように見えるのは、知能指数(IQ)は基本的に遺伝するということだ。
 例えば、一卵性双生児を引き離して育てても、目を見張るほど同じくらいのIQを持つに至る。
 二卵性双生児で一緒に育てた場合よりも、平均的に見て、より近似したIQを持つに至るのだ。・・・
 ・・・より高いIQは、人生におけるより大きな成功と相関度が高い。
 <ところで、>知力は中産階級の家庭において特に遺伝される度合いが高いのだが、だからこそ、双子の研究からこのような結論が得られたのだ。貧しい家庭の子供達はこれらの研究の対象にはほとんどなってこなかったからだ。
 しかし、・・・更なる研究がなされた結果、貧しく乱れた家庭では、IQは遺伝の結果とは言えないことが分かった。全員が知的発達を阻害されているためだ。
 「悪しき環境は、子供達のIQを抑圧する」というわけだ。・・・
 実際、同じ研究によれば、貧しい家庭の子供達が中産階級上位の家庭の養子になると、そのIQが12〜18も上昇することが分かったのだ。・・・
 IQの可塑性を示すもう一つ根拠は、IQが時代とともに急激に上昇してきたことだ。
 実に、1917年の人の平均IQは今日の知能テストに置き換えれば、73でしかなかった。・・・
 良い学校に通うこともIQを高めることと相関度が高い。・・・
 だから、・・・IQを高め、当人にとっての長期的福祉を向上させるためには、子供時代における早期の教育の必要性が力説されなければならない・・・。・・・」
http://www.nytimes.com/2009/04/16/opinion/16kristof.html?pagewanted=print
(4月16日アクセス)

4 終わりに

 なんだ、当たり前のことばかりじゃないか、と思われました?
 しかし、以上のことは、知力が遺伝すること、民族間に有意の平均的知力差があること、家庭環境や教育環境の改善によって知力を向上させることには限界があること、を否定するものではありません。
 もちろん、知力を学力に置き換えても、事情は基本的に変わりません。

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