太田述正コラム#2945(2008.11.30)
<米国の創世記(その2)>(2009.5.30公開)

3 忘れられた建国の父の一人

 (1)要旨

 凶作と混乱を極めた貨幣制度と最も富んだ者を優遇した税金の不公平・・・とが複合して18世紀において担保付き債券の無価値化がもたらされた。「カネがなくなり、農民と商人は、自分達の自宅と自由を二つながら喪失する脅威に晒され、破産と債務者入獄に直面した。・・・
 そこで彼らは再び戦争を始めた。ただし、今回は「愛郷家(patriots)」としてではなく、「叛乱者」として・・。彼らの叛乱はしぶしぶ指導者となったダニエル・シェイス(Daniel Shays)(注6)という40歳の農民の名をつけられることとなる。彼は<独立戦争の時の>バンカーヒルの戦いを経験した帰還兵だったが、債務を返済するためにラファイエット侯爵から与えられた儀礼刀を売らざるをえない羽目に陥っていた。こうしてシェイスは、数百人の男達を率いてマサチューセッツ州スプリングフィールドの連邦兵器廠襲った。武器を手に入れてボストンに向けて行進しようというのだ。

 (注6)1741〜1825年。シェイスの叛乱(Shays' Rebellion。1786年8月〜1787年3月)の指導者。(太田)

 革命の重鎮達は信じがたい思いだった。ジョージ・ワシントンはニューイングランドの友人に、「君の所の連中は気が狂ったのかね」と尋ねたものだ。・・・
 <この叛乱はあっけなく鎮圧されてしまうが、こういう背景の下で1787年5月からフィラデルフィアで米国憲法制定会議が行われたことから、>議論は、民主主義に関する高尚な原理原則や熱意によって進展することにはならなかった。議論をもっぱら支配していたのは群衆に対する恐怖だった。民主主義は結構なことのように見えるかもしれないけれど、憲法制定者の多くにとっては敬して遠ざけるべき代物だったのだ。彼らにとっては民主主義・・権力を人民へ・・は「群衆統治(mob-ocracy)」とほとんど同義語だったのだ。 この不安は、大統領を選ぶ方法についての議論の際に最も口にされた。直接選挙を恐れた彼らは、「選挙人」方式にたどりついた。後に「選挙人団(Electoral College)と呼ばれることになるところの、民主主義の行き過ぎへの制動機役を果たす、州によって代表達が選出され、その代表達が大統領を選ぶという方式に。・・・
 この妥協の産物は、ジェームス・ウィルソン(James Wilson)(注7)という、最も重要な農民にしてほとんどの人が知らない人物の頭脳の産物なのだ。革命の時に、ウィルソンは飢えたアメリカ人達がどんなことをやらかすかについての不愉快な経験を積んだ。彼は、フィラデルフィアで、同市の他の上流階級の仲間達と同様、自宅にいるところを、穀物の高騰とフィラデルフィアの商人達による買いだめに怒った武装した群衆によって襲われたことがあるのだ。・・・

http://www.huffingtonpost.com/kenneth-c-davis/it-wasnt-about-democracy_b_99821.html
(11月29日アクセス)

(注7)1742〜98年。スコットランド生まれの北米植民地/米国の法哲学者。初代の米最高裁裁判官の1人。(太田)

 (2)コメント

 ジェームス・ウィルソンを米国の「ほとんどの人が知らない」というのは本当なのでしょう。
 それはそれとして、ジェームス・ウィルソンへの言及が「選挙人団」についての英文ウィキペディアでなされておらず、
http://en.wikipedia.org/wiki/U.S._Electoral_College
(11月30日アクセス。以下同じ)
 一方で「選挙人団」への言及が「ジェームス・ウィルソン」についての英文ウィキペディアでなされていない
http://en.wikipedia.org/wiki/James_Wilson
のは、「選挙人団」が生まれた経緯・・その反民主主義的起源・・から米国人が目を背けようとしているからであるように思われます。
 James WilsonとElectoral Collegeの二つの言葉を入れて検索をかけて、ようやく
http://constitutionshow.us/electoral_college.htm
に到達できました。

 現在では、選挙人の選出は全州において、直接選挙で行われていますが、憲法上は、各州の議会が選挙人の選出方法を決めることができることになっており、そこがミソなのです。(上掲典拠)
 米国が、少なくとも建国当時にはいかに反民主主義的な国であったかをご理解いただけましたか。

 それにしても、現在のタイの状況
http://www.nytimes.com/2008/11/30/world/asia/30thai.html?ref=world&pagewanted=print
を見るにつけても、民主主義がいかに群衆統治に堕し易いものであるか・・ただし、タイの場合は、多数を占める貧者が政権を掌握しているために、少数の富者が群衆化して首相府やバンコック国際空港等を占拠している・・が分かりますね。

(完)