太田述正コラム#3208(2009.4.11)
<イスラエルはイランの核施設を攻撃する(その2)>(2009.5.26公開)

5 イスラエルはなぜイランを攻撃するのか

 「・・・イランの最近の技術的大成功、例えば、今年初めのオミド(Omid)通信衛星の打ち上げやイランの核計画のねらいの明確さ、からすれば、そしてロシアがイランの核施設を守るためのS-300地対空ミサイルの供給について決断ができずにいる限り、来年末までに<イスラエルによる>攻撃が行われると考えることは決して黙示録的な(=途方もない)ことではない。・・・
 ほとんどの評論家があえて触れようとしないのは、米・イスラエル同盟の最も重要な事実は、イスラエルが中東における米国の第一の同盟国であるのは、イスラエルが中東で最も強力な国家であるからだ、という点だ。・・・
 イスラエルは地域的超大国になったが、それは、米国からさしたる手助けなく達成された。
 イスラエルの秘密裏の核兵器製造計画は、英国とフランスの手助けによって達成された。 
 そして英仏両国は、エジプトのデマゴーグたるガマル・アブデル・ナセルからスエズ運河を奪い返す所業をイスラエルとともに行い、ドワイト・D・アイゼンハワー<米大統領>によってそれを返すことを強いられたわけだ。
 この時、イスラエル空軍のパイロット達が地上にあったエジプト、シリア、そしてヨルダンの空軍を破壊したけれど、彼らは米国製のF-4ファントムではなくフランス製のミステール(Mystere)ジェット<戦闘機>で飛んだのだった。・・・
 米・イスラエル同盟が成功するためには、それぞれ、米国がイスラエルを叱責しているように見せかける一方で、イスラエルはダマスカスを爆撃したりユーフラテス川の一帯を占領することが米国の介入によってできないでいるかのように見せかける、といった、夥しい演技を伴う複雑な踊りを踊る積極的なパートナーでなければならないのだ。・・・
 この基本的な点から導き出されるのは、イスラエルが弱くなり、より<米国に>依存的になればなるほど、イスラエルの利害と米国の利害が乖離して行くことになる、ということだ。・・・
 このような戦略的微積分学のやっかいな性質は、イスラエルによる、ヒズボラとハマスに対する最近の諸戦争、イランの核科学者達と技術者達の暗殺、そして2007年のシリアの原子炉に対する攻撃、に関する理性的な学問的アナリストによるところの、必要なすべての説明を可能にする。
 イスラエルが、ゲームを一変させるような単独軍事行動を行いうるというイメージを回復しようとする、このような営みは、隣国に対するものであるとともに、<イスラエルの>パトロンである米国に対するものでもあるのだ。・・・
 イランに対する攻撃は、何ダースもの理由で危険が一杯かもしれない。
 しかし、それは、イスラエルがゲームを一変させる軍事行動をとる能力<を持っているというイメージ>を回復させるという奇跡をもたらすことは間違いない。
 イランがイスラエル<による攻撃>に対して在来兵器で有意味な報復を行うことができるという観念は、事実というよりは神話だ。
 核兵器など使わなくても、イスラエルはイランの経済を、その戦略的に重要な石油精製所をいくつか爆撃するだけで壊滅させることができる。だから、イランが有意の反撃を<イスラエルに対して>行う可能性は一見したほど大きくはないのだ。・・・
 仮に2006年のレバノン戦争がイスラエルが在来型の陸上戦争を戦う能力に欠陥がいくつかあることを露呈したとして、それは同時に、イスラエル空軍が地上にある長距離ミサイルを破壊する能力をも示した。
 イランとぶんなぐりあいの戦争をしている最中に、ヒズボラとハマスからミサイルを山のように浴びせかけられてきた場合のイスラエルの反応は、過去においてよりも、より抑制されないものとなることだろう。
 イスラエルが、イランの沙漠で小規模のイスラエルの戦術部隊が事故でぶっつぶれるといった<米カーター政権がしでかした>イラン人質救出作戦型のしくじりをおかしたり、<イランの主要核施設である>ナタンツ(Natanz)に向かう途中のイスラエルの航空機群を撃墜せよとオバマが大統領命令を発するようなことがない限り、イスラエルによるイラン空襲は、必ず、イランが10年にわたって莫大なカネと時間を費やして構築してきた精妙なる機器の一群を破壊することに成功することだろう。
 イランが、これにより失ったものを急速かつ容易に取り返すことができるとは信じがたい。・・・
 湾岸諸国とエジプトがイスラエルによるヒズボラとハマスに対する戦争を公然と支持したことを踏まえると、イスラエルに対する大衆の怒りの声が噴出するというのもフィクションだ。
 イランとその手先をやっつけることができる中東での唯一の軍事力を持っていることから、イスラエルが、米国が大好きな中東の常用酒である石油を守るという任務を課せられたところの、スンニ派アラブ諸国の練達の傭兵になって久しい。・・・
 イスラエルによるイラン攻撃の考えられる唯一のコストが何かは、<エジプトの政府系の新聞である>アル・アハラムや英ガーディアンの読者であれば、それがパレスティナ国家の樹立であることは明らかだろう。
 イスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相とエフード・バラク国防相が、何らかの形でのパレスティナ国家の樹立が不可避である一方で、その樹立がイスラエルにとって深刻な安全保障上の危険をもたらすと見ていることはほぼ間違いない。・・・
 <だからこそ、イスラエルはイランを攻撃する必要があるのだ。>
 アリエル・シャロンは、アラファトを敗北させ、かつ第二次インティファーダを粉砕したからこそ、ガザから撤退することができた<ことを想起せよ。>・・・」
http://www.slate.com/id/2215820/pagenum/all/#p2
(4月10日アクセス)

 こういう議論に対しては、次のようなささやかな反論がなされています。

 「・・・私は、サウディアラビアの役人達を含む人々と話をしたのだが、こんな発想は間違っており、イスラエルがかねてから行ってきた、アラブ諸国家の真の敵はイスラエルではなくイランであると<アラブ諸国を>説得する試みは、お門違いであるという感触を得た。・・・」
http://www.nytimes.com/2009/04/09/opinion/09iht-edcohen.html?ref=opinion&pagewanted=print前掲

6 終わりに

 私は、スレート誌に掲載された、上掲のデーヴィッド・サミュエルス(David Samuels)論考が正しいと考えています。
 そうです。ネタニヤフは、首相在任中に必ずイラン攻撃を決行することでしょう。

(完)