太田述正コラム#3204(2009.4.9)
<不況と米国のカップル達>(2009.5.24公開)

1 始めに

 大不況の艱難辛苦(観念上のものを含む)は人間、とりわけカップルにいかなる影響を及ぼすのでしょうか。
 ニューヨークタイムスが特集を組んだので、そのさわりをご紹介しましょう。
 これは、特定のカップルがたまたま経済的困難に直面した場合にもあてはまると思います。

2 ニューヨークタイムスの特集より

 「<大不況の米国で恋愛小説がバカ売れしている(コラム#3195)。>・・・ハーレクィーン・エンタープライズは、恋愛小説の世界の女王だが、昨年の第4四半期の売り上げが前年同期に比べて32%アップしたと発表した。・・・
 成人向けフィクション全体の売り上げは基本的に伸びなかったというのに、書籍の小売りの約70%をカバーしている・・・統計によると、それまでの4年間はほぼ変わらなかった恋愛小説の売り上げが昨年は7%も伸びている。・・・
 <戦前の>大不況の時代にマーガレット・ミッチェルの『風とともに去りぬ』がバカ売れしたように、今日の読者達も、レイオフ・倒産・縮小する401(K)残高といった厳しい現実から逃避できる<心ときめくハッピーエンドの>小説を求めているのだ。・・・
 <ちなみに、サイエンスフィクションやファンタジー小説も売れている。>・・・
 恋愛小説は、電子書籍の形でも、他の分野の本よりも大きい割合で売れている。
 大抵の出版社は、売り上げの約1%が電子書籍だと言っているが、ハーレクィーンは、自分の社では、電子版の売り上げが3.4%も占めていると言っている。・・・
 ・・・恋愛小説の読者は貪欲な読者であり、即時にダウンロードして読み始めることができることが彼らにとっては他の分野の読者に比べて、無意識的にせよ、はるかに重要なのだ。・・・」
http://www.nytimes.com/2009/04/08/books/08roma.html?hpw=&pagewanted=print
(4月9日アクセス。以下同じ。)

 「・・・不安、鬱とストレスが、その多くは顕著な経済的損失を被っているわけではないけれど、そうなるかもしれないと心配するため、あるいは全般的に不確実となっている現状への反応として、ありとあらゆる人々を苦しめている。・・・
 <心理セラピストのところに、>「ひどい不安に陥ったり、夫婦げんかが増えたり、若干の家庭内暴力や若干のゆゆしい虐待<に苦しんだり、>といった問題を抱え、以前よりたくさんの人々がやってくるようになった。」・・・
 <心理セラピストを対象にした昨年>9月の調査によれば、80%が、経済が大きなストレスを自分にもたらしていると答えたが、4月当時にはそのように答えたのは66%にとどまっていた。
 <別の昨年秋の調査によれば、>27%の人が経済的不安から睡眠障害に陥っているということだ。
 全米自殺防止ライフラインへの電話も、多くの場合経済的ストレスを「主因として」、2008年1月には39,465件だったところ、2009年1月には50,158件にはねあがった。・・・
 影響は子供にまで及んでいる。
 ・・・<すなわち、>「より多くの家族が危機に陥っている」ため、子供達において、「不安と鬱の徴候が増え」、「悪夢を見る者が増え」、「行動に異常をきたしている者が増えている」。・・・
 「失うべきものを余り持っていない人々はむしろうまく対処している部分がある。というのは、彼らのアイデンティティは、どれだけカネを持っているかに、それほどとらわれてはいないからだ。」・・・
http://www.nytimes.com/2009/04/09/health/09stress.html?hp=&pagewanted=print

 「歴史は興味深い様相を呈している。
 職と収入が失われると夫婦けんか、別居、離婚が増えると思うだろうが、大不況の時は経済的困難が余りに巨大であったため、多くのカップルは離婚などできなかったのだ。
 もっとも、離婚率は減ったけれど、家庭内暴力や別居は増えた。
 しかも、失業した男達は、彼らの妻達が仕事にでかけた時に家事と育児をやるのを拒否した。彼らは、「稼ぎ手」としての役割の喪失を、「女の仕事」など行わないという男性的大権に固執することで補償しようとしたのだ。・・・
 <女性が働くのが当たり前になった現在では、さすがにそんなことはなくなったが・・。>
 <こういう時に>大切なことは、カップルがお互いについて尊敬していた事柄を思い出し、それを口にするかどうかだ。
 ストレスの下にある人は、往々にしてパートナーや子供が自分のためにやってくれたことを感知し認めることを止めてしまい、彼らが自分をいらつかせたことにしか反応しなくなってしまう。
 こうなってしまうと、健康な家族内の相互信頼と相互義務を維持するところの「感謝の経済(economy of gratitude)」が掘り崩されてしまい、カネ詰まり(credit crunch)と心理的同等物をつくりだしてしまう。・・・
 <既に触れたように、不況になると離婚が増えるというものではない。>
 婚姻率と離婚率は、マクロ経済的変化よりは劇的な社会的変化によって変化するものなのだ。
 経済の好況、不況というより、戦争やセックス革命や結婚の意味の変化のせいにすべきなのだ。
 離婚率は、1960年代と70年代に急速に上昇したけれど、爾来・・・27年間にわたって・・・下降し続けている。・・・2009年においてもその傾向は続くのではないか。
 これはそう驚くべきことではない。
 厳しい経済という嵐をやり過ごすのに、よかれあしかれ絆を交わした(committed)人と家庭を共にすること以上に良い方法があろうか。・・・
 ・・・大卒<以上>のカップルは、<高卒以下のカップルに比べて、>財政的辛苦に耐えるためのより大きな社会的経済的資源を持っているので、困難な時が結婚生活に及ぼす感情的試練を和らげることができる。・・・
 厳しい時が人々に及ぼす打撃は一様ではない。
 脆弱な結婚生活にとっては、とりわけ収入と地位がカップルの一方または双方にとって中心的な価値であれば、失業は<このカップルへの>最後の一撃になってしまうだろう。
 こんなケースにおいては、愛は崩壊し侮蔑が生まれるかもしれない。そして二人の関係は弱められ、通常は終焉を迎える。
 もとより、困難な時は、真剣な議論を促すことで、時には一層の緊密さを構築する場合だってある。
 すなわち、艱難によって結婚生活や内縁関係が強化される場合があるのだ。・・・
 カップルは普段、それぞれが心の奥底で抱いている価値観・・自己犠牲についての思い、仕事より二人の関係を重視するかどうか、子育てについては、等々・・について十分話し合いをしていないことが往々にしてある。
 とりわけ、カネのことについてはそうだ。<いざというとき、>どうやってやりくりをするかとか、「幸せ」であるためにはどれだけカネがあればよいのかといったことだ。
 経済状況の悪化は、人々をして、このようなむつかしい会話をやらざるをえないようにしむけることがある。
 カップルが、互いに誠実で思いやりがあって、一つのチームとして対処することを学べば、二人はよりよい関係を構築することができるかもしれないのだ。・・・
 (・・・<ちなみに、こういう時には>男女関係の構築が、そもそも促進されるものだ。
 パーフェクトマッチ・コム(Perfectmatch.com)のような出会い系サイトは・・・去年の12月以来、会員数が大幅に増えている。・・・)
http://roomfordebate.blogs.nytimes.com/2009/04/08/husbands-wives-and-hard-times/?pagemode=print

3 終わりに

 日本も大不況のはずなのに、日本の主要メディアの電子版には、この種の記事が出ませんね。
 読者の皆さんでパートナーのいらっしゃる方々は、このコラムを読んでどのような印象を持たれましたか。