太田述正コラム#3192(2009.4.3)
<タックスヘイヴン物語(その1)>(2009.5.16公開)

1 始めに

 現在の世界不況のひきがねとなった金融危機の犯人捜しのからみで、タックスヘイヴン(tax haven)がやり玉にあがっています。
 どんな議論が出ているのかご紹介しがてら、スイスの国民性やらアングロサクソン世界の懐の深さやらに思いを馳せたいと思います。

2 タックスヘイヴン論議

 (1)スイス

 「・・・<スイスに対して、タックスヘイヴンになっている現状を改めよとの要求が米英独仏等から突きつけられている。しかし、スイス政府としては、>同国に預けられている2兆ドルとも推定されている外国の資産のいくばくかが、恐慌を来した投資家達によって引き出されてしまい、このアルプスの国の経済にガタが来ることを恐れている。・・・
 大部分の国とは違って、税金逃れ(Tax evasion)はスイスでは犯罪ではない。
 金融取引の秘密は厳格に保護されており、米国における弁護士と顧客との関係におけるように、銀行はその顧客に関する情報を守る義務が課されている。
 <スイス人にとって銀行の秘密は、米国人にとっての銃保持の権利同様、絶対に蹂躙されてはならないものなのだ。>・・・
 <しかし、>3月13日にスイス政府は、・・・圧力に屈して、・・・OECDの租税条約のひな型を採用することとした。
 この条約ひな型によれば、個人がその国籍のある国から税金逃れの嫌疑がかけられた場合、銀行の取引記録を当該国に開示しなければならないものとされている。・・・
 税金逃れ・・所得または資産の申告漏れ・・は、<現在、>スイスでは民事上の違法行為(civil offense)に過ぎない。それは、道路の横断禁止の箇所を歩行者が横断する(jaywalking)程度のこととみなされている。つまり、普通は見逃されているが、運悪く捕まった場合には罰金を科される場合がある程度のことなのだ。
 スイスでは、税金詐欺(tax fraud)の場合を除き、他国に対して銀行の取引記録を開示することはなかった。税金詐欺とは、単に所得の申告を怠ったのではなく、<税>当局に対して積極的にウソをついたケースだ。
 <しかし、>この二つを区別している国はごくわずかしかない・・・。・・・
 <ところが、そのごくわずかの諸国であったところの、>シンガポール、ルクセンブルグ、そしてリヒテンシュタイン・・いずれも長きにわたってタックスヘイヴンとみなされてきた・・も<、ついに申告漏れについても開示をすることに同意するに至った。>・・・
 スイスは、現在の銀行秘密法をを1934年に採択した。
 当時の欧州は政治的激動期であり、多くの投資家達は自分達の資産を隠す安全で身元がばれない場所を必要としていた。
 スイスの銀行は道徳を排除した。預金はナチスからのものも、迫害から逃れてきたユダヤ人のものも受け入れたのだ。・・・
 とはいえ、スイスが本当に変わるかどうかは定かではない。
 スイス政府は、米国と日本を皮切りに70カ国と租税条約について交渉する必要があり、税金逃れをした人のデータを開示するのはそれからだ、と言っている。
 <いや、交渉が妥結しただけではダメなのであり、>少なくともいくつかの<租税>条約は国民投票に付されることになるというのだ。これはスイスの政治制度の下ではよくあることだが、おびただしく時間がかかる話だ。・・・
 <しかも、>新しい租税合意<ができたとしても、その合意>の下で、スイス側は、米国の内国歳入庁や他の外国の税当局から、税金逃れの容疑をかけられた人の氏素性、<カネを預けた>銀行の名前、そして犯行の具体的証拠が提供されて初めて記録の開示を行うこになろう。
 そんなことはほとんどありえない・・・。投資家が怒った配偶者達やビジネス・パートナー達によって裏切られでもしない限り・・。・・・」
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/03/28/AR2009032801801_pf.html
(3月31日アクセス)

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 ≪太田のコメント≫

 私は、イギリスをアングロサクソン文明の祖、スイスを欧州文明の祖、と見ています(コラム#61)。
 アングロサクソンにおいては税金逃れは犯罪として白い目で見られるのに、欧州においては税金逃れを黙認する風潮がある(少なくともスイス以外にイタリアには当てはまりそうだが、独仏等ではどうなのか、今後検証が必要)、という違いは、それぞれイギリスが個人主義発祥、スイスが全体主義発祥の社会であったことに由来するのでないかと私は考えています。
 個人主義なら、国は自分達の福祉増進のための重要かつ不可欠な手段であることから、国の運営のための応分の負担から逃げる者は犯罪者ということになる一方で、全体主義なら、国は個人を抑圧する必要悪的な存在に他ならないことから、国の運営のための負担などできるだけ回避しようとするのは当たり前だということになるのではないか、と思うのです。
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 「・・・<しかし、>米国と英国が<このようにスイス等をぶったたいているのは>偽善的ないじめだと<いう声も強い。>
 米国はデラウェア州<等で>企業に高度の秘密を確保してやっているではないか、また、英国は<ドーバー>海峡諸島やカリブ海の海外諸領において自前のタックスヘイヴン・・・を持っていて、これら地域における<低い>非居住者税とあいまって、世界の超金持ち達に、その所得のかなりの部分について税金逃れを合法的に行うことを認めてやっているではないかというのだ。・・・」
http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2009/03/31/2003439793

 それでは、英国と米国の順に見ていくことにしましょう。

(続)