太田述正コラム#3150(2009.3.13)
<海南島沖の米中こぜりあい>(2009.4.18公開)

1 始めに

 海上、というか海中で米中間で虚々実々のかけひき・・その実は死闘・・が繰り広げられています。
 その一端が、たまたまこのほど垣間見えました。
 海南島沖の米中艦船のこぜりあいです。
 今回はそのお話です。

2 最新の状況

 「・・・8日、5隻の中共の船が武装していない<米艦>インペッカブル(Impeccable)を取り囲んだ。
 これらの中共の船はインペッカブルに25フィートの近さまで近づき、その進路を木の棒で邪魔しようとした。・・・」
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/03/12/AR2009031203264_pf.html
(3月13日アクセス。以下同じ。)

 「・・・インペッカブル・・・(排水量約5400トン)・・・は、潜水艦の「指紋」にあたる音紋データの収集を任務として<いた。>・・・
・・・米海軍・・・は・・・、海南島沖の南シナ海で中国艦船から進路妨害などを受けた音響測定艦インペッカブル・・・を護衛するため、太平洋艦隊(司令部=真珠湾)に所属するイージス型駆逐艦チャンフーン(<Chung-Hoon(注1)。>同約9200トン)を現場海域に派遣した・・・。・・・」
http://sankei.jp.msn.com/world/america/090313/amr0903130921006-n1.htm

 (注1)第二次世界大戦の際、太平洋戦域で活躍した支那系米海軍少将。(太田)
http://en.wikipedia.org/wiki/Gordon_Pai%27ea_Chung-Hoon
 
 「・・・ハワイを母港とする<この>駆逐艦は、乗組員約275人で、現地海域に通常のスケジュールに基づく配備に就いていたところを、護衛任務に割かれたものだ・・・。
 米国政府は9日、この事件に関し中共に抗議した。しかし中共は、米国の艦艇が中共の排他的経済水域の一つの中で違法な調査活動を行っていたとして、その嫌疑を否定した。・・・」
(ワシントンポスト上掲)

3 事件の詳細

 「・・・米国防省はインペッカブルの乗組員達は軍海上輸送軍(Military Sealift Command)のために働いている非軍人であると言明し、中共側は中共側でこの小競り合いには当地の複数の魚船がからんでいたことを強調した。
 しかし、本当のところは、双方とも、決して起こって欲しくはないと願っているところの、戦争のための準備をしていた・・「戦場を形作っていた(shaping the battlefield)」と軍事俗語で言う・・からこそこの事件が発生したのだ。・・・
 今回の米中対峙は、インペッカブルが、中共の最新の潜水艦基地が存在するところの、海南島(Hainan)の南端の楡林(Yulin)<(三亜(Sanya)とも言う)>の南75マイルのところを航行している時に発生した。・・・
 中共の水夫達は棒を使ってインペッカブルの下にぶらさがっている曳航音響アレー・ソナー(towed acoustic array sonars)(注2)を引っかけようとしたのだ。・・・

 (注2)粗っぽく言えば、等間隔に聴音器をくっつけたケーブルを海底に固定して敷設するSOSUS(コラム#30)を、ちょん切って艦艇から水中を引っ張る形にしたもの。海上自衛隊も保有している。(太田)

 <上記基地では、>新しい商型(Shang-class)攻撃型原子力潜水艦(SSN)が何隻も最近見つけられている。・・・
 中共がいかに海南島とその周辺海域について神経質になっているかはよく知られている。
 まさに同じ海域で、2001年の初頭に中共のJ-8戦闘機が米海軍の諜報航空機と衝突し、戦闘機のパイロットは死亡し、米海軍のEP-3は大損傷を受け、その機体と24人の乗員達は海南島への着陸を余儀なくされた。乗員達はそこに、外交上の厳しいにらみ合いが続く間、11日にわたってとどめ置かれた。
 この時も今回も、中共は、米国が国連海洋法条約に言うところの200海里の「排他的経済水域」の中で違法に運航を行っていると述べた。
 しかし、中共はこの条約に調印しているが、米国は調印していない。・・・
 米国は戦争遂行に関連するところの海中のデータを収集していたわけだが、これは経済水域の資源の利用に関するこの条約の条文では禁止されていないことだ。・・・
 <だから、仮に米国がこの条約に加入していたとしても、米国がやったことに違法性はない。>
 インペッカブルは、最終的には中共の艦船群をふりほどいて自由に航行することができた。
 米国防省の係官達によれば、この艦船群は中共海軍の諜報収集船、海上漁業局(Bureau of Maritime Fisheries)の哨戒艦、国家海洋管理庁(State Oceanographic Administration)の哨戒艦、そして2隻の小さな中共旗を掲げたトロール船からなっていた。
 ただし、・・・ここに登場した2隻のトロール漁船は、米国政府が保有するところの諜報船が「非軍人的」である程度にしか「非軍人的」ではない。
 (米国防省がでっち上げたお話であるところの「非軍人たる人々がこの船に乗り組んでいる」、が世界中の弊誌以外のあらゆるメディアで繰り返し報じられているが、本当のところは、約50人の乗組員のうち約半数は軍人なのだ。)
 なお、中共では、北朝鮮、インド、そしてソ連<(ママ)>がそうであるように、漁船は<軍によって>積極的に管理されており、漁船は有事には軍の管轄下に入る。・・・」
http://www.time.com/time/world/article/0,8599,1884724,00.html

3 終わりに

 このような米音響測定艦が収集した音紋が、有事に中共の原子力潜水艦を発見し、認識し、攻撃するにあたって決定的な役割を果たすことになるわけです。
 スパイ防止法が存在せず、米国との包括的秘密保全協定も結んでいない日本には、米国が収集した音紋は提供されていないと思われます。
 そうだとして、有事には提供されるのでしょうか。
 される、と信じたいところです。