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太田述正コラム#3056(2009.1.25)
<性科学の最新状況(続x3)>(2009.3.8公開)

1 始めに

 本日新たに公開したコラムに引きずられて、「ディスカッション」で性科学の話が出たところで、また表記のようなコラムを読まされるなんて食傷気味だとクレームがつきそうですが、本日目にしたニューヨークタイムス記事
http://www.nytimes.com/2009/01/25/magazine/25desire-t.html?ref=magazine&pagewanted=print
(1月25日アクセス)の内容は、人類に関する最大の謎の一つに迫ったものであり、何をおいてもお伝えすべきだと思いました。

2 女性の性的欲望について

 (1)分かっていたこと

 今まで女性と性については、女性がイクことがあるのは、クリトリス、Gスポット、あるいは子宮頸部(cervix)を刺激された場合であるところ、ごくわずかの女性は何の刺激も加えられなくても空想だけでイク場合があることが分かっています。
 また、バイアグラ等は男性には有効だけれど、女性の膣の血液の循環を活発化し愛液を分泌させはしても女性の性的欲望を喚起はしないために、女性には有効でないことも分かっています。
 更に、性的幻想、自慰、性的活動の頻度から見て、女性の方が男性より性的衝動は少なく、また、長期間の関係において、女性の方が男性より性交への関心を失いがちであることも分かっています。

 (2)新たな発見

 男性と女性に、散歩している男性、美容体操をしている女性、男性のマスターベーション、女性のオナニー、異性間の性交、男性同士の「性交」、女性同士の「性交」、ボノボの性交を見せた場合の、男性器及び女性器の反応、及び男性と女性の性的欲望の自覚について実験したところ、以下のことが分かりました。
 
 「・・・男性は、平均的に言って、・・・同性愛の気がない場合、異性間の性交または女性同士の「性交」、マスターベーション、オナニーを見せられると性器が膨張した。大部分は散歩している男を見せられても反応がなかった。同性愛の気のある男性はその逆だった。・・・ ボノボの性交では、同性愛の気のない男性も気のある男性も反応がなかった。
 また、男性の被験者に関しては、性器膨張と性的欲望の自覚は合致していた。男性の気持ちと性器は合致していたわけだ。
 女性の場合は全く違った結果が出た。
 同性愛の気のあるなしについての申し出いかんにかかわらず、全般的に言って、男性同士、女性同士、異性間の性交ないし「性交」を見せられると、強力かつ迅速に性器の興奮が起こったのだ。<興奮が起こらなかったのは、ボノボの性交を見せられた時だけだった。>・・・
 そして女性の場合、特に同性愛の気のない女性の場合、気持ちと性器は同じ人物のものとは思えない結果が出た。性器の興奮度と性的欲望の自覚とは乖離していたのだ。・・・」

 (3)仮説
 
 第一の仮説は、この実験を行った学者による仮説です。
 男性器は外に露出しており、その反応は容易に感知でき意識に影響を及ぼすのに対し、女性の場合は、体の構造と文化により、このあたりが曖昧模糊としており、自分達の性器のエロティックなメッセージについてぼんやりした意識しか生じないのではないか、というのです。
 そもそも男性の場合、状況的手がかりに依存しがちな女性に比べて、ストレスが高まった時の心臓の鼓動の増加を感知して自分達の感情の状態を把握し易いのではないか、とも。
 性的なきっかけ(cue)に対して自動的にヴァギナを反応させなかった女性の先祖達は、欲さざるヴァギナ貫通により負傷し、その結果病気、不妊、そして悪くすると死に至る可能性が高く、このような性向を子孫に伝えることができなかったと考えられるというわけです。
 つまり、進化の結果、女性は防御的意味合いからも、自分達の回りの性的ヒントを感知した時に濡れやすくなったというわけです。
 上記実験において、同性愛の気のない女性の性器が、美容体操をしている女性を見せられた時の方が散歩している男性を見せられた時よりも興奮したところ、これは恐らく、美容体操中の女性の陰部の傾き具合(tilt)が性の信号と受け止められたのに対し、男性の勃起していないペニスはそう受け止められなかったということではないかというのです。

 第二の仮説は、女性の性的欲望は、一般に考えられている以上に、緊密な関係、つまりは感情的紐帯によって決まるというものです。
 仮にそうだとすると、女性の性的欲望は、変幻自在であり、惹かれる対象は、相手が人間であれば、男性と女性とを問わないということになります。
 エストロゲンがらみのオキストチンは女性の脳の中に男性の脳の中よりもたくさん存在していますが、これが女性の性的欲望と緊密な関係との関わりを説明するというのです。

 第三の仮説は、性的欲望の対象となること、すなわちナルシシズムが女性の性的欲望を喚起するというものです。
 女性の場合、緊密な関係でないからといって性的欲望が喚起されないということはないし、緊密な関係だからといって性的欲望の喚起が保証されているわけではないというのです。
 エロティックな憧憬と性的欲求の対象になりたいという欲求、つまりは自己愛への渇望が女性の性的欲望喚起の鍵だというわけです。
 女性のリビドーをかき立てるためには、男性の場合に比して大きな刺激が必要なのに、固定的関係の中では、もはや男性に選ばれ、捕らえられる対象ではなくなってしまったことから、欲望の対象にされるという観点からの刺激が顕著に減少してしまうというのです。
 女性は壁の前に追い詰められることを望むと同時に本当に危険に瀕することは望んでいないという困った存在だというのです。
 暴力的に、あるいは脅迫の下に、あるいは眠っている時に、あるいはまた酔った時に無理矢理性的行為を強いられるという幻想に、3分の1から半数以上の女性は、しばしば性交の最中にふけるし、少なくとも女性のうち10人に1人は、少なくとも1ヶ月に1回は性的攻撃を受ける幻想に嬉々としてふけっているのだと。

3 感想

 まだまだ先は長いけれど、ここまで分かってきたというのは感動ですね。

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