太田述正コラム#3034(2009.1.14)
<イスラエルのガザ攻撃(続x11)>(2009.2.27公開)

1 始めに

 イスラエル国民の大部分が、ガザ・ミニ戦争の完遂に関して、諸手を挙げて賛成しているという話を前回(コラム#3030で)行ったところですが、イスラエル国民の大部分が、深刻な安全保障上の危機意識を共有していることについて敷衍するとともに、彼らがどうしてガザの一般住民に多数の死傷者が出ていることを問題視していないのか、改めて考えてみましょう。

2 安全保障上の危機意識

 「一番最近の・・・調査によれば、ユダヤ系イスラエル人の90%以上は今次侵攻を支持している。もっとも、アラブ系イスラエル人では数字が逆だが・・。
 イスラエル人の姿勢は非常に強硬であり、80%が、仮にハマスがロケットをイスラエル南部の都市・・・に向けて発射するのを止めたとしても、イスラエルがガザへの関門を開放することに反対している。・・・
 過去3年間のイスラエル人の政治家への姿勢を特徴付けるところの不信の念も今次戦争が始まったことでほとんど解消してしまった。・・・
 ・・・昨年4月の調査によれば、<パレスティナ人に>土地を与えることによって平和を「購う」ことへの賛成意見はほとんどなくなってしまっていた。また、パレスティナ人との紛争について心配している人は・・・12%と・・・一番少なかった。
 28%のイスラエル人が感じているところの一番の脅威は、イランの核能力だった。それに次いで20%の人々が感じている脅威は、軍が次の紛争を戦う準備ができていないかもしれないという点だった。」
http://www.guardian.co.uk/world/2009/jan/14/gaza-israel-palestine
(1月14日アクセス)

3 至上緊急事態

 「これは包囲されている国民の物の見方だ」と・・・テルアビブ大学の<教授は>・・・言った。戦争に直面した国の国民の態度はみなこんなものだというのだ。
 英国と米国ががナチスドイツとの戦争を終わらせる必要性を感じた時、彼らがドレスデンに対して何をやったかを思い出すがよい。何万人もの無辜のドイツの一般住民が殺害されたのだ。・・・」(ガーディアン上掲)

 「<米国の政治哲学者の>マイケル・ウォルザー(Michael Walzer<。1935年〜>)は、・・・「至上緊急事態(supreme emergency)」なる観念を提起した。
 この観念は、第二次世界大戦においてナチスドイツによる敗北の可能性に直面した連合諸国がドイツの諸都市に火炎爆弾を投下したという事実を踏まえた、いかなる場合に国家によるテロが許されるかについての枠組みなのだ。
 当時、一般住民は標的にされるべきではないという一般的見解に反して<連合諸国はドイツの>一般住民を標的にしたわけだ。
 ウォルザー自身はこの観念を適用することには否定的だろうが、イスラエルによるガザの経済封鎖は、至上緊急事態の観念に近い観念に基づいて実施されてきたものだ。(同じようにイスラエルは、今次ガザ地峡への攻撃を正当化していきている。)・・・

 <なぜ「近い」がつくかと言うと、イスラエルは、ガザの一般住民をもっぱら標的にした攻撃を行っているわけではないからだ。(太田)>

 英LSEの人道法の教授であるコナー・ギアティ(Conor Gearty)は、この問題は更に訳が分からなくなってきていると指摘している。
 というのは、テロは、政治的目的を追求するための身の毛がよだつものであるところの「技術(technique)」であるとは次第にみなされなくなってきつつあるからだという。
 その代わり、テロは、諸国家によって意図的に「人間類型」として再定義されるようになりつつある。これは、<かかる人間類型が行う>行為にもっぱら着目することによって、テロの背景にある諸原因を無視することを容易にするからだ。・・・」
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2009/jan/12/gaza-palestine-israel-peter-beaumont
(1月12日アクセス)

4 感想

 この中に出てくるウォルザーの「至上緊急事態」という観念・・「超法規的措置」を言い換えただけのように私には見える・・は興味深いですね。
 どこが興味深いか?
 人種差別的腐臭がするからです。
 ウォルザーの考え方を引用内容だけで判断してはいけないのでしょうが、引用内容で見る限りはウォルザーは、そしてまた引用者たるオブザーバー紙の編集者も、日本の東京等の都市への火炎爆弾の投下、更には広島、長崎への原爆の投下よりも、ドイツのドレスデン等への火炎爆弾の投下の方により良心の呵責を感じているらしいという点が第一点。
 第二点は、少なくとも英国はナチスドイツに敗北する懼れがあったかもしれないけれど、米国は日本帝国に敗北する懼れなど皆無に等しかったという点が第二点です。
 要するにこういうことです。
 「至上緊急事態」でも何でもないのに、米国が、もっぱら一般住民を殺戮する目的で日本の諸都市を火炎爆弾ないし原爆で攻撃したことは、申し開きができない犯罪行為だ、ということをウォルザーにしてもオブザーバー紙の編集者も暗黙裏に認めているのです。
 それにしても、日本の哲学者や法学者達は一体何をしているのでしょうか。