太田述正コラム#3008(2009.1.1)
<イスラエルのガザ攻撃(続)>(2009.2.13公開)

1 始めに

 イスラエルは現在、戦術的岐路に立たされています。
 そのあたりのことをご説明しましょう。

2 戦況

 「・・・ハマスは、射程18.6から21.7マイル(30から35キロ)の<もともとはロシア製でイランや中国でつくられた、直径122ミリで22キロの弾薬を搭載可能な>カチューシャ(Katyusha)<別称>グラッド(Grad)ロケット・・・を使うに至っている。この新しいロケットはハマスの攻撃範囲を劇的に延伸している。
 <これまでは>ハマスは、より短射程の1.8マイル(3キロ)しか飛ばない自家製のカッサム(Qassam)にもっぱら依存してきた・・・
 以上のロケットは誘導システムがついていないので、標的など考えずに無差別に発射される。・・・
 ハマスのロケットの多くは、ガザ地区に<エジプトから>密輸された部品を用いて、過激派達によって原始的な方法で組み立てられたものが多い。・・・
 ガザの役人達によれば、イスラエルによる報復空爆により約390人が殺害され、約1,600人が負傷した。ハマスによれば、ハマス治安部隊の制服要員約200人が殺された。国連によれば、少なくとも60人のパレスティナ人の一般市民(注)が殺された。」
http://www.haaretz.com/hasen/spages/1051632.html
(1月1日アクセス。以下同じなお、
http://www.guardian.co.uk/world/2009/jan/01/rockets-hamas-israel-border
で補った)

 (注)ハマスは(学校経営等の)非軍事的活動も行っているので、一般住民(civilian)と軍事要員(militant)とを明確に区別することは困難だ。また、犠牲になった女性や年寄りや子供だってハマスの戦闘要員であった可能性だってある。よって、60人という数は、単なる目安以上の意味は持たない。
http://www.slate.com/id/2207637/
(12月31日アクセス)

 「・・・パレスティナのロケットと迫撃砲により、先週の土曜日にイスラエルが空爆を始めて以来、4人のイスラエル人が死亡した。これにより、この8年間でイスラエル人がガザからのロケット等によって20人殺された勘定になる。・・・
 あるエジプトの役人は、これまでイスラエルはトンネル200のうち約120を破壊したと述べたという。・・・」
 (ガーディアン上掲)

3 イスラエルの姿勢

 「・・・イスラエルは昨日、<フランス等の要請があったものの、>5日間続いてきたガザにおける空爆作戦を一時的に停止することを・・・拒絶した。・・・
 予備役の更なる招集が承認され、これで<侵攻待機状態の>兵力は合計9,000人となる。・・・」
http://www.guardian.co.uk/world/2009/jan/01/israelandthepalestinians-middleeast

 「・・・イスラエル軍は大きな、しかし相対的には短期間の陸上攻勢をガザ地峡にかけることを水曜日に推奨した。・・・
 ・・・一方で、イスラエルはケレム・シャロム(Kerem Shalom)を開けて106台の人道支援物資を積んだトラックが通ることを認めた。・・・」
http://www.haaretz.com/hasen/spages/1051682.html

4 アラブ側の内紛

 「・・・最も厳しいコメントが出たのはサウディアラビアの外相のサウド・アル・ファイサル王子からだった。彼はパレスティナ人達がファタのマハムード・アッバスの下に統一を保つことができないことを批判したのだ。
 これは、ファタとの短いけれど暴力的な内戦を経て2007年にガザを完全に奪取したハマスに対する実質的な非難だった。通常、イスラエルとパレスティナが戦っている時には、アラブの指導者達はイスラエルだけを非難するというのに・・。」
http://www.nytimes.com/2009/01/01/world/middleeast/01arab.html?ref=world&pagewanted=print

 「・・・アラブ連盟の22のメンバーのうち14が同意しなければ<同連盟の>首脳会議は開かれない。しかし、「エジプトは、自国の役割が明らかにされることを欲していない。だから、首脳会議の開催を欲していない」<という声がある>。
 欧米の外交官達は、<現時点で首脳会議が開かれると、>2002年に浮上し<、アラブ連盟によって>2007年に提唱されたところの、アラブ平和計画(Arab Peace Initiative)が撤回されかねないと懸念している。この計画は、・・・イスラエルが1967年<の戦争直前の>境界へ引き揚げるとともに、独立したパレスティナ国家の樹立に同意するならば、全アラブ諸国がイスラエルを国家承認するというものだ。・・・
 ・・・怒り狂ったハマスはアラブ連盟の姿勢を「病的だ」と攻撃した。<ハマスの>広報官・・・はパレスティナ当局の議長のマハムード・アッバスを攻撃した。イスラエルに教えるため、ガザのファタ要員に、ハマスの指導者達がどこにいるかの情報を集めるよう命じたというのだ。これはこの両派の間の溝がいかほどのものかを示す重大な嫌疑と言えよう。・・・」
http://www.guardian.co.uk/world/2009/jan/01/saudi-arabia-hamas-gaza

5 今後どうなる

 「爆撃初日に行われた世論調査によれば、イスラエル人の81%がこの軍事作戦を支持したものの、それがハマスによるロケットの発射を終わらせることにつながると考える者は6%しかいなかった。・・・
 連日の爆撃によって発生させた多数の死傷者によっても、イスラエルはハマスがイスラエルにロケットを発射する能力を決定的にくじいたとは考えていない。
 ただし、ハマスのガザでのガバナンスのための基本的インフラ・・警察署、政府ビル、大学、そしてハマスの指導者達の自宅に至るあらゆるもの・・を標的にすることで、イスラエルは継続的ロケット発射に対してハマスに著しい代価を支払わせようとしているのだ。・・・
 米国の国防省関係者達は、弊誌に対し、陸上侵攻は、何日も経ってからではなく、爆撃作戦の早い段階で決行された方が成功するチャンスはより高かったと語った。・・・
 ハマスは境界の関門の開放を求めているが、これはイスラエルに対してだけでなくエジプトにも向けられている。
 ハマスの第一のねらいは、実際のところ、ガザとエジプトの間のラファの関門を開放させることにある。この関門は、18ヶ月前に彼の部隊がハマスによってガザから追放されたところの、マハムード・アッバス議長の求めに応じてエジプトの手で閉鎖されたものだ。
 ラファは、パレスティナ人にとってイスラエルによって統制されていないところの、唯一の下界への入り口なのだ。ラファは、パレスティナ当局にとって主権の象徴に最も近い代物だ。だからこそ、ハマスはかくもラファを統制することにご執心なのであり、他方アッバスはそうさせることをかくもいやがっているわけだ。
 エジプトは、当然のことながら、ハマスに対する敵意をファタと共有している。そもそも、ハマスは、エジプトで禁止されているけれども人気があるイスラム同胞団(Muslim Brotherhood)が創り出したものだ。
 今年初め、ハマスはラファの壁に穴を開け、パレスティナ人をエジプトになだれ込ませて基本的物資の買い出しをさせたことで、エジプトの現体制を危機に陥れた。
 当惑し、かつ国内とアラブ諸国の圧力の下、ホスニ・ムバラク大統領は、一週間近くこの穴を開いたままに放置した上で、この穴を埋めたが、その際、エジプトのこれまでの主張、すなわち、アッバスの息のかかった人々にしかこの境界関門を開けるつもりはないことを、再度表明した。
 イスラエルによる虐殺に対するエジプトの黙認という印象が生じたことによる新たな政治的火嵐のただ中にあって、エジプトに対する圧力が現在再び高まっている。
 しかしなおムバラクは、火曜日に、ラファはパレスティナ当局がガザを掌握した時点でしか開放しない、と改めて語った。・・・」
http://www.time.com/time/world/article/0,8599,1869122,00.html

6 終わりに

 大胆に予想しましょう。
 私は、イスラエルは、ガザに対する波状攻撃的な陸上侵攻に乗り出す可能性が高く、空爆と陸上侵攻が平行して行われるという状態がかなり長期にわたって続く、と見ています。
 そしてその先に見えてくるのは、ハマスの実質的な敗北であり、パレスティナ当局によるガザの掌握、そしてイスラエルとパレスティナとの実質的和平の実現です。