太田述正コラム#2949(2008.12.2)
<田母神問題と「諸君」>(2009.1.9公開)

1 始めに

 昨日、塩田潮氏による記事が掲載された「諸君」(2009年1月号)が送られてきたので、この記事を中心に同誌を斜め読みしました。
 以下、その感想です。

2 感想

 コラム#2923で「さあ、<塩田潮氏による「諸君」掲載記事が>実際にどんな紙面になるのか、皆さんとともに注目しましょうね。」と記したところですが、結局、一切修正はなされていませんでした。
 塩田氏には、私の修正提案内容が理解できなかったのかもしれません。
 しかし、そうだとすれば、せっかくの機会ですから、私に電話なりして、理解しようと努めて欲しかったですね。
 塩田氏は、文藝春秋社出身ということもあり、社の執筆方針に従わざるをえなかったのかもしれない、とここはあえて好意的に解釈しておきましょうか。
 記事の中でインタビュー相手として登場するのは、元防衛大臣ないし防衛庁長官であったところの、石破茂、大野功統、及び小池百合子、そして元防衛担当主計官であった片山さつき、の各自民党代議士達とこの私、太田だけで、しかも、私の場合。『実名告発防衛省』の宣伝までしてもらった(136頁)のですから、文藝春秋社と塩田氏にはむしろ感謝すべきかもしれませんね。
 ただ、「防衛省大研究--自衛隊は「暴走」する」という記事なのに、自衛官OBが1人もインタビュー相手として登場しないのは、文官OBと違ってインタビューを断る人ばかりではないはずなのに、奇異な感じを受けました。
 これぞまさに、自衛官の「日陰者」扱いではないでしょうか。
 塩田氏が、

 「・・・「自衛隊・防衛問題に関する世論調査」・・・の「自衛隊に対する印象」によると、97年の調査以降、一貫して「良い」という解答は80%を超えている・・・。・・・ すでに防衛省と自衛隊は社会的に認知された存在といっていい。「集団的自衛権の不行使」など、いくつかの制限はあるものの、「日陰者」という扱いではない。
 ところが、その一方で、その現実を軽視して、いまだに「日陰者」意識を払拭できず、「シビリアン・コントロール、専守防衛、海外派兵禁止、非軍事大国などの枠内での防衛省・自衛隊」を求めるという国民の総意を認めたがらない空気の潮流が、防衛省・自衛隊の内部に根強く残っている。」(139〜140頁)

と書いているからこそ、皮肉の一つも言いたくなるのです。
 いずれにせよ、塩田氏は、「「・・・専守防衛、海外派兵禁止、・・・の枠内での防衛省・自衛隊」を求め」られても、それは論理的に不可能であること、従って、「集団的自衛権の不行使」イコール「「日陰者」という扱い」、であることが分かっていないわけです。
 太田コラムの読者の方なら先刻ご承知のように、専守防衛にして海外派兵禁止の自衛隊なら、やや極端に言えば、日米安保体制の下では、軍事的には全く不必要であり、全廃すべきだからです。

 ところで、この「諸君」に、防衛大学校名誉教授の佐瀬昌盛氏が「田母神論文には、秘められた「救い」がある」と題する小論を寄せておられます。
 私は防大総務部長だった当時から佐瀬さんはよく存じ上げているのですが、「田母神論文・・・には、「石」がやたらと多いが、二つ三つ「玉」もあるではないかという感想<だ>」(28頁)と記しておられるところ、この点は私の受け止め方と全く同じだな、と思いました。
 ただ、それに続く箇所で、同氏が田母神論文の戦前の歴史認識だけについて批判されている点には違和感を覚えました。まさか、戦後は歴史ではないとお考えではないでしょうに・・。
 また、村山談話なる政治的文書に対し、これをあたかも歴史認識に関する小論のように受け止めて批判を加えておられる点(34頁)にも違和感を覚えました。
 しかし、「ナチス・ドイツはシヴィリアン・コントロールに立っていた。政治が軍を統制したのである。」と書いておられるところ(36頁)は、「文民統制」論の虚妄性を見事に笑い飛ばしておられるわけで、痛快な思いがしました。
 一番重要なのは、「9月3日・・・自衛隊高級幹部会同・・・<に>福田康夫首相が欠席した。・・・総理大臣訓辞<が>なかったのである。総理・・・は・・・職務を・・・理由説明なく放棄したのだ。・・・国会の与野党<も>この件にまったく無反応だった・・・。・・・河野洋平衆議院議長は・・・防大卒業式を5年連続して欠席という新記録を樹立した。立法府の長の不出席という新しい「慣行」が定着しつつあるのか。憂慮している。」(39〜40頁)という部分です。
 塩田氏の、もはや自衛隊は日陰者でない、という認識がいかに誤っているか、お分かりでしょう。
 どうやら文藝春秋社は、吉田ドクトリンを社是としている、ということのようです。

3 終わりに

 同じ「諸君」に、保坂正康氏が連載の欄を持っておられ、その中で、やはり田母神論文を取り上げ、批判を加えておられます(194〜195頁)が、何がおっしゃりたいのか全く意味不明な文章に呆れ果てました。
 とにかく、これでしばらくは「諸君」を、いや、日本の「右」の総合雑誌を斜め読みするという苦行に従事する機会もなかろう、と思っただけで、安堵しました。