太田述正コラム#2937(2008.11.26)
<自省する米国(その2)>(2009.1.5公開)

4 米国は有色人種差別的帝国主義国だった

 ジョージ・ヘリング(George C. Herring)は、著書『植民地から超大国へ--1776年以降の米国の外交関係(FROM COLONY TO SUPERPOWER--U.S. Foreign Relations Since 1776)』の中で・・・米国がしばしば孤立主義的大国となった、という広く受け入れられている観念を拒否することから始めて、沢山の考えを展開している。
 ヘリング氏に言わせると、歴代の米国建国の父達は、最初から対外志向であり外交に腐心した。更に言えば、最初は原初の13植民地を超えて、それからカリブ海と太平洋に、そして究極的には世界にまたがる政治的経済的領域へと至る拡張主義は、ほとんど常に米国の指導者達を活気づけた(animated)。
 1787年のフィラデルフィアでの憲法制定会議の際に、既にジェームス・マディソンでさえ「大帝国の基礎を築く」ことについて語っている。
 1821年までには、ジョン・クインシー・アダムスは、駆け足で膨張する大英帝国を嘲って、「私にはあんた達が何を手に入れようとし、何を手に入れようとしていないのか分からない」と述べたものだが、彼の英国の相手方は、皮肉っぽく、「月の一片かもね」と答えている。これに対し、アダムスは、北米について、「あんた達が獲得したものはやるから、北米大陸の残りはわれわれの自由にさせろ」と警告を発した。
 それから10年経たないうちに、アンドリュー・ジャクソン大統領は、東アジアへの軍艦外交と南極探検を夢見、「文明化した人々と野蛮な人々にわれわれが持っている力について正しい印象を与えるために地球のあらゆる箇所に」星条旗を見せつけることについて語った。
  このような姿勢は、急速に増大する人口、世界中の羨望の的になった経済、そしてトーマス・ジェファーソンの言葉の中にその根っこを既に見いだすことができるのところの米国例外主義、によって次第に強められて行った。
 ジェファーソンは、米国の「高い道徳的目的」と「他国を突き動かしている力と便宜性の低劣な動機」とを明確に区別した。しかし、ヘリング氏に言わせれば、当時の米国の人口の5分の1は奴隷だったのだ。・・・
 ヘリング氏は、米国の行動の重要でかつしばしば中心的動機であったところの、人種差別(race)の役割についての潜在的図式を描き出す。
 この長い話は、完全従属(subjugation)に至るまでの間、自分達自身で、ワシントンの政府、欧州の列強、そして南部連合とさえ、外交関係を活発にとり行ったところの、インディアンを壊滅(annihilation)させたところから始まる。
 ヘリング氏の話は、黒人の奴隷的束縛の政治へと続く。米国というできたばかりの国は西方に押し出して行き、奴隷制の辺境を拡大して行き、南北戦争へと真っ逆さまに落ちて行く。
 ヘリング氏が頻繁に用いるところの、「あからさまな人種差別主義(racism)」の話題は、利他主義よりも人種的優越性のイデオロギーとの関連性の方が強いところの、明白な使命(Manifest Destiny)についての議論の中で勢いを増して行く。例えば米国の、19世紀におけるハイチ、キューバ、ニカラグアといった北米大陸での隣人達との接し方は頻繁だったが、それは常に痛ましい形をとった。
 常に標的とされたのはメキシコだった。メキシコは、米国の拡張主義によってその領土の巨大な部分を失った。「米国人達は、メキシコ人達は混血種であって、「低脳で臆病な人種」であるとして、解放奴隷やインディアンよりも蔑んだ」とヘリング氏は記している。彼はその数頁後に、「米国をメキシコ領へと駆り立てた人種差別主義が、メキシコの征服に限界を画せしめた」と追記している。
 ヘリング氏は、元大統領の甥のアンドリュー・ジャクソン・ドネルソン(Andrew Jackson Donelson)の言、「われわれは黒人ども(negroes)と混淆(amalgamate)できないのと同様、<メキシコ人の>連中とも混淆できない」をひいている。ずっと後の話だが、同じ発想がプエルトリコが米国の州になることを妨げた。
 
 20世紀のところまで来ると、ヘリング氏は、ウッドロー・ウィルソンを「近代米外交政策の風景の中に屹立する塔」と描くことに精力を費やす。しかし、ヘリング氏に言わせれば、フランクリン・D・ローズベルトこそ最大の感銘(impression)を<後世に>残したのだ。・・・
 <ヘリング氏は、結論的に、>かつてアンドリュー・ジャクソンの使節達が本国に報告したところの、「世界中で最も汚い人々」が住んでいる所<(支那)>において、米国は、ついにその<拡張の>限界を見いだすことになったのだ、と記している。
 ヘリング氏は最後に、米国人達に、自分達の相対的没落に備えよと助言する。「彼らは、何世紀も前から引きずっているところの 、自分達自身を神の選民とする観念を捨て去らなければならない。今日の世界では、このように思い込むことで、他の人々を必ず遠ざけてしまうことになるからだ」と。
http://www.nytimes.com/2008/11/24/books/24fren.html?_r=1&oref=slogin&pagewanted=print

5 終わりに代えて

 米国が、ある時期から領土的拡張をせず、軍事力だけを遠隔地に展開する形で次々に勢力圏を広げて行ったのはなぜか、をヘリングは、米国は人種差別的帝国主義国だから、とコロンブスの卵的簡明さで説明してくれています。
 これ以上、領土を拡張すれば人種的混淆が避けられなくなる、と考えて米国は拡張を止めた、そしてその分水嶺となったのが、1899年の米西戦争であったというわけです。
 米国は、この時スペインから奪取したプエルトリコを永久に属領の地位にとどめるとともに、同じくスペインから奪取したフィリピンは、早期に手放す(独立させる)ことにしたのは、まさにそのためだったのですね。
 これぞまさしく、米国が発明したポスト植民地主義的帝国主義の正体だったのです。

 ここまで米国自身が自省してくれれば、最後の介錯は日本がやってやらなければなりますまい。
 それは、ローズベルト崇敬という米国にとって残された最後の神話を粉砕することです。
 しかし、ヘリング自身、まだそこまではふっきれていないことに皆さんはお気づきのことと思います。

 問題はオバマ次期米大統領です。
 彼がライト師に私淑していた以上、その論理的帰結として、ローズベルト否定に至っているはずなのですが、本当のところは果たしてどうなのでしょうか。
 少なくとも、英米の評論家達は、オバマの尊敬する人物としてローズベルトを挙げないと気がすまないようです。

 「オバマの・・・知的先達は・・・リンカーン、ローズベルト、そしてキング<牧師>だ」(シャルロッテ・ヒギンズ(Charlotte Higgins))
http://www.guardian.co.uk/world/2008/nov/26/barack-obama-usa1
(11月26日アクセス)

 「エイブラハム・リンカーンはバラク・オバマお好みの大統領だ。しかし、オバマがフランクリン・D・ローズベルトについて書かれた本を読んでいることに何の不思議もない。1932〜33年と2008〜09年の類似性は気味が悪い位だからだ。そして、大統領移行期における基本的諸問題については、76年前にそうであったのと同じだからだ。」(ジョナサン・オルター(Jonathan Alter))
http://www.newsweek.com/id/170363
(同上)

 私は、ローズベルトの轍を踏まないためにこそ、オバマはローズベルトについて書かれた本を読んでいる、と信じているのですがね。

(完)