太田述正コラム#2933(2008.11.24)
<現在の金融危機と大恐慌の比較>(2009.1.1公開)

1 始めに

 これから、現在の金融危機と戦前の大恐慌とを比較する議論がどんどんなされると思いますが、その皮切りに、二つの論考のさわりをご紹介し、私のコメントを付しましょう。

2 ニューヨークタイムス掲載論考

 今年ノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマンの論考です。

 誰もが新しいニューディールについて語っている理由は明白だ。2008年は1932年同様、経済的、金融的危機に直面し、選挙民の目から見て、共和党の自由市場イデオロギーが信用をなくし、同時に共和党の能力への信頼感もなくなった結果、共和党の長い間の支配期が終焉を迎えたからだ。・・・
 もう一つのより気になる類似・・・がある。すなわち、危機のまっただ中における権力の空白期の到来だ。1932〜33年の、大統領選挙と実際の権力継承までの長い「国王不在期」は米国経済にとって破滅的だった。その理由の一つは、去りゆく政権への信頼性がなくなっている一方で、次の政権はまだ何の権威もなく、かつ、両政権間のイデオロギー的亀裂は余りに大きく、協調的行動をとることが不可能だったからだ。
 同じことが現在も起こりつつある。
 今回の「国王不在期」が短いことは確かだ。ローズベルトは3月まで大統領に就任できなかったが、オバマはホワイトハウスに1月20日に入る。しかし、今日の方が危機の進展は速い。・・・
 <ところで、>私がとりわけ心配しているのは、二つのDだ、デフレとデトロイトだ。
 デフレについてだが、1990年代の日本の「失われた10年」はエコノミスト達にインフレ期待が低くなりすぎると経済を前進させることが極めてむつかしくなるということを教えた。(人々が文字通り価格が低下すると思うかどうかは関係がない。)米国経済には明確にデフレ圧力が現在働いていて、回復の兆しが見えない月が続けば続くほど、われわれが日本型の罠に何年もはまってしまう可能性が増大する。・・・
http://www.nytimes.com/2008/11/21/opinion/21krugman.html?ref=opinion&pagewanted=print
(11月22日アクセス)

3 スレート誌掲載論考

 次は、コラムニストのダニエル・グロス(Daniel Gross)の論考です。

 ・・・2008年の信用収縮と大恐慌は類似の起源を持っているのかもしれない。どちらも金融危機が消費者需要の減少をもたらして始まった。
 しかし、この二つはかなり異なる。
 勤労者達が5時頃に「あんた、小銭をくれないか」と語りかける代わりに、今はきれいにひげを剃った金融産業の重鎮達が議員サン達に対し、1,000億米ドルを与えて欲しいと要請をしているのだから。もっと言えば、1930年代に米国民が経験させられた経済的苦悩に比べれば今日のそれは取るに足らない、ということだ。
 「3月3日の午後までには、米国で営業している銀行は皆無になった」とローズベルトは1933年3月12日の炉端会話(fireside chat)・・・で語った。1933年には約4,000の商業銀行が倒産し、預金者達は大損害を被った。・・・1929年8月に始まった不況は実に43ヶ月の長きにわたって続いた。その間、失業率は25%にも達し、所得は半分になった。
 これに対し、2008年11月中旬においては、倒産した銀行はまだわずか19行に過ぎない。連邦準備制度理事会は先週、失業率が2009年中に7.6%に達するだろうと述べた。エコノミスト達は・・・2008年4月に始まった不況は来年の夏までしか続かないだろうと述べている。(もっとも、今年の1月には同じ人物が、2008年と2009年に経済は順調に成長するだろうと予測したものだ。)・・・
 1929〜33年の世界は、社会保障とか預金保険のように人々を経済的災厄から隔離するショック緩衝装置を欠いていた。1930年代においては、ドイツ、ソ連、日本、イタリアといった世界最大の諸経済が市場資本主義に対して敵対的な指導者達によって舵取りをされていた。
 しかし今では、米国流の市場資本主義が自傷行為に苦しむ一方で、ドイツ、イタリア、そして日本(ただしロシアはちょっとだけ)が米国と共通の問題に対処すべく協働している。
 <大恐慌>当時は、われわれは弱体の連邦準備制度理事会とポール・メロン(Paul Mellon)という、不景気をいいことだとのたまうような金持ちの財務長官という疫病神を持っていた。彼は、「労働力を一掃(liquidate)せよ、株式を一掃せよ、農民を一掃せよ、不動産を一掃せよ、そうすれば人々はより懸命に働き、より道徳的な生活を送るだろう」と言ったのだ。
 これに対し、現在の連邦準備制度理事会議長のバーナンキは、大不況について熟知しており、金持ちの財務長官のポールソンは、流動性を株式、農民、そして不動産に供給することを欲している。
 違っている最後の点は、1929年の大不況入りの際、国民は3年以上も、その任にあらざる大統領が去るのを待たなければならなかったのに、今、われわれはわずかもう2ヶ月しか待つ必要がないことだ。
http://www.slate.com/id/2205186/
(11月23日アクセス)

4 終わりに

 クルーグマンもグロスもどちらも、最新の大恐慌研究を勉強していないようですね。

 ・・・大恐慌の神話のうちで、フーバーはバカだったというのも今、見直されていますね。例えば彼が作った「リコンストラクション・ファイナンシャル・コーポレーション(RFC)」という・・・不良債権の買い取りを仕切った・・・金融公庫の話があります。
 ・・・そこで不良債権の買い取りをしたり、銀行の貸し渋りが起こっている場合に直接貸し出したりした。これはフーバーがやったことですよね。それから公共事業を拡大して、失業者を救済したのもフーバー。彼はもっとやりたかった。
 フーバーの評価についても、ハロルド・ジェームズが非常にいいことを言っています。フーバーはもう一歩財政支出もやりたかったし、RFCももっと 拡大したかった。ところがオーストリアでクレジットアンシュタルト銀行の破綻が起こって、1931年に英国ポンドの金本位制離脱まであった。
 その流れを見ると、次は米国に危機が来る。ここで財政支出を増やす、あるいは金融拡張すると、米国の金準備にアタックがかかる。これを考えて方針 を転換し財政も縮小し増税する。RFCも拡大をやめなきゃいけなかった――。これが、ハロルド・ジェームズのフーバーに対する評価なんです。
 そうして見ると、実はルーズベルトはフーバーの決めた枠組みを継いだだけになる。といってもルーズベルトが偉かったのは、就任早々金本位制をやめた、というよりやめざるを得なくて、その路線をひた走ったことです。・・・
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20081120/177889/
(11月21日アクセス)

 私自身、フーバーを高く評価するコラム(#597〜599)を書いたことがあります。
 黄色人種差別意識を抱き続け、英国を世界的覇権国の地位から、そして日本を東アジアの覇権国の地位から引きずり下ろすことに執念を燃やし、ファシズムと共産主義には大甘であったというダメ大統領の極致のローズベルトが、こと国内の経済政策には力量を発揮したなんて、およそありえないことだと皆さん思われるでしょう。
 その通りなのです。