太田述正コラム#2905(2008.11.10)
<改めて田母神前空幕長更迭について(続)>(2008.12.18公開)

1 フリップ支援グループとのやりとりの続き

≪US→太田・SM≫

 私は、「無能」についてのフリップは省略した方がいいような気がします。こちらが伝えたいメッセージは、KYであることおよび吉田ドクトリンが悪であること、であり、彼の論文の幼稚さはどうでもいいような気がします。他の方が十分酷評しているので、番組の雰囲気が、論文の稚拙さを論じるのではなく、書かれている内容についての是非を問うべきという展開になりそうなときにこのフリップを持ち出すのは太田さまに対する無用な反感を司会者、他パネリストに与えてしまうと思います。
 SMさん、太田史観についてフリップ2枚の案ををつくっていただいて本当にありがとうございます。2枚目の一番最後のメッセージ “田母神史観からの脱却ができるか!?” は、“我々は吉田ドクトリンと決別できるか!?” の方がよくないでしょうか?
 メインで主張したいのは、吉田ドクトリンと決別し、真の独立国家となること、だと思います。番組も田母神氏更迭問題といいながら、田母神氏が提起した歴史史観の方にいく可能性があるので、それにのっかる形で、当方の主張を伝えられる資料もあったほうがよいと思います。案として、SMさまのフリップ案をもとに、フリップ案を作成しました。

≪太田→US(CC:SM)≫

 「無能」のフリップについては、私も若干の躊躇はあるのですが、ショックと怒りを与えるのが太田のやり口、と諦めていただき、残してください。

 「太田史観」のフリップ案の2枚目については、そりゃそうですね。
 ご指摘、大変結構だと思います。

 なお、「今度は米国が未曾有の自信喪失に・・・」は、「今度は米国が深刻な自信喪失に・・・」に変えてください。
 米国の現在の自信喪失は、日本の敗戦による「深刻な自信喪失」とは比べものにならないし、大恐慌時の米国の自信喪失に比べても軽いと思いますので。

≪SM→太田・US≫

 確かに訂正後のほうが正確なのですが、「田母神史観から・・・」のほうが、吉田ドクトリンから脱却できない原因を、米国のマインドコントロールのせいにして誤魔化している一部の保守派に対する問題提起に用いる際には、適切な表現ではないでしょうか?

≪太田→SM(CC:US)≫

 了解。そうしましょう。
 (キャッチコピーの善し悪しは、私が判断しない方がよさそうです。)
 USさんがこだわられれば別ですが・・。

2 確定した田母神問題フリップ集

 その後も若干のやりとりがあり、結局、田母神問題フリップ集は以下に落ち着きました。

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[フリップ1] 
      KY(空気が読めない)

 確信犯 or not?

 ・確信犯の場合
   →とんでもないKY(はた迷惑の限り)
 ・確信犯でない場合
   →究極のKY


[フリップ2] 
      職務怠慢

 「修身斉家治国平天下」を知らず?

 自らのパワハラ止める
 →空自の腐敗・退廃を無くす
 →天下りを無くす
 →国民の信頼を醸成する
 →集団自衛権行使できるようにする
 →自主独立国家になる
 →歴史認識が自ずと「是正」される
 の順序なのに逆走
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田母神幕僚長は、順序に逆走


[フリップ3] 
      無能

 将校以上の軍人の平時の最も重要な仕事は
 訓練/演習と歴史(戦史)研究

 田母神論文
 プロの仕事(歴史研究)とは思えぬ雑な「論文」


[フリップ4]
      ドンキホーテ

 悪いのは他人
  ・・米国による
    マインドコントロール(=風車) ×
 悪いのは自分
  ・・吉田ドクトリン         ○


[フリップ5] 

      史観の違い

----------------------------------------------------------------------------- 
 | 田母神史観(=対米怨念史観)  | 太田史観(=親アングロサクソン史観)
__|__________________________________|_____________________________________
戦|                 |
 |                 |米国は、ファシズム/共産主義音痴でか
 |                 |つ有色人種差別意識
 |日本だけが侵略国家ではない    |
 |                 |「自由民主主義」日本に敵対し、日本
 |                 |帝国を瓦解させることで東アジアに未
前|                 |曾有の大災厄をもたらした
__|__________________________________|_____________________________________
戦|                 | 
 |                 |吉田ドクトリンが諸悪の根源
 |                 |
 |米国によるマインドコントロール説 |日本は深刻な自信喪失を引きずった
 |                 |まま、「吉田ドクトリン」の下、自ら
後|                 |米国の保護国の地位に安住している
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[フリップ6]

      現状認識
---
現|  現在、米国は、深刻な自信喪失に陥っている
 |  が、他方では、有色人差別という業病を克
在|  服しつつある
---
  →  一方の日本人(特に"保守"は)、
      対米怨念史観からの脱却ができるか!? 
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3 若干の補足

 自衛官は、歴史の専門家(プロ)ではない、という認識をお持ちかもしれませんが、その認識は改めていただく必要があります。
 自衛官幹部は、何度も教育を受けますが、防衛大卒業者は防衛大時代を含め、教育を受ける都度、戦史教育を受けます。
 戦後の米国ですら、常に戦争をしているわけではありませんし、戦争だからと言って将校すべてが戦争に従事するわけでもありません。
 では、戦争に従事していない時の将校の最も重要な仕事は何なのでしょうか。
 それは、訓練/演習であり、戦史研究なのです。
 ですから、まともな将校であれば、プロの歴史家とまではいかなくても、プロの歴史書読みになっていなければおかしいのです。

 ところが、田母神氏の「論文」は典拠の付け方一つとっても、アマチュアの域を超えていません。
 私が1988年に英国のRoyal College of Defence Studies (RCDS)(最近は、在日英国大使館は、「王立防衛研究所」と訳している)に留学した時の校長(Commandant)は空軍大将でしたが、彼が何かの雑誌用に執筆した論文・・確か、戦争における欺騙の歴史がテーマ・・をわれわれ学生に配布したことがあります。
 それは、体裁と言い、内容と言い、大変質の高いものでした。
 それにひきかえ、空軍大将相当である田母神氏の「論文」は余りにも雑です。
 こんな「論文」が英訳されて、アパ・グループのホームページに掲げられていることは、防衛省に勤務した人間として、恥ずかしくてなりません。
 自衛隊の将官のトップクラスがこの程度か、と見られてしまうからです。
 ところで、募集に応じて集まった「論文」の審査を行った渡部昇一氏と花岡信昭氏はどちらもプロの歴史家ではありません。他にも審査員がいたのか、それは誰なのかは明らかにされていませんが、仮に他にもいたとしても推して知るべしです。
 一体これらの人々に審査能力があるのか、疑問なしとしません。
 とはいえ、一定の基準で審査した結果、田母神氏の「論文」が最優秀だった、ということは、他に航空自衛隊から「論文」を提出した94人の「論文」は、ことごとく田母神氏のよりも劣っていたというわけです。
 それどころか、この中から優秀賞(2人)、佳作(10人)に入った人すら1人もいません。
http://www.apa.co.jp/book_report/index.html
(11月10日アクセス)
 これでは、少なくとも航空自衛隊員の中では、田母神氏程度でも、群を抜いて優れている、と世界中の軍関係者から見られても仕方がないのです。
 これは、恥ずかしいなんてものではありません。
 古くさい言葉ですが、まさに国辱ものです。
 
 私自身、防衛庁の教育課長(1年間)や防衛大の総務部長(2年間)をやっていることもあり、責任は免れません。。
 例えば、防衛大の防衛学の教官(大部分は自衛官)の大半は戦史の教官ですが、能力的、資格的にそれにふさわしい人物が発令されることはほとんどありませんでした。
 それを是正すると言っても、各自衛隊のトップも人事担当部局も、そして防衛庁(当時)のトップも人事担当部局も、幕僚監部や花形部隊への配置を優先視しており、戦史教官には余った人間を回す、という感覚でしたから、どうにもならなかったのです。
 このような状況は、各自衛隊のすべての学校に関しても同じだったはずです。
 恐らく、今でもこのような状況に変化はないはずです。
 もちろん、自衛隊に対して国民が具体的な任務を与えていない中で、戦争のことを真剣に考え、真剣に学べ、と言ったところで限界があることは確かです。
 しかし、田母神氏は歴史研究の重要性は理解していたはずです。
 さもなきゃ、今まで部内誌に自分の歴史認識について執筆したり、今回の募集に応じたりするはずがありません。
 では彼は、せめて空幕長になってから、航空自衛官の戦史研究体制の充実のために何かやったのでしょうか。
 やったことは、(結果として、)パワハラ的に、94人もの航空自衛官に今回の募集に応じさせただけではないか、と私は勘ぐっているのです。