太田述正コラム#2872(2008.10.25)
<欧州・アジアにおけるオバマ・マケイン人気>(2008.12.9公開)

1 始めに

 欧州においては米大統領候補のオバマとマケインの人気が地域によってはっきり分かれるのに対し、アジアにおいてはマケイン人気が圧倒的なのですが、それぞれについて、それがどうしてかを分析したコラムが2本出ました。
 それぞれをご紹介することにしましょう。

2 欧州について

 最初は、米ウィークリースタンダード誌に掲載されたシズ・クロプシー(Seth Cropsey)の論考です。

 欧州の<EUへの加盟時期で見た>「古い欧州」と「新しい欧州」への分裂は、米国の選挙政治における<共和党支持者の多いいわゆる>赤い州と<民主党支持者の多いいわゆる>青い州への分裂と対応関係にある。・・・ 欧州は、深刻な外からの脅威に直面しているかどうか・・<によって>分裂している。・・・<これは、>西欧の諸国は、<直接的な軍事的脅威などないと考えており、>・・・米国の選挙民の神経症的な強迫観念を多角的国際機関が抑制することさえできればそれでよしとしているのに対し、中欧と東欧の諸国は、・・・ロシアがエネルギーの供給と攻撃的外交政策を結合させていることから、ロシアの脅威が増大している・・・と感じているからだ。・・・

 ロシアがドイツの石油の40%近くと天然ガスの43%を供給している<こともあって>・・今年ドイツで行われた世論調査によれば、70%がドイツ軍のアフガニスタンにおけるNATOの任務に非戦闘部門において参加していることに反対だった。私はドイツの政治通と8月に話しをしたが、彼は、もしベルリンの人気が高い市長であるクラウス・ヴォヴァライト(Klaus Wowereit)と彼の党との連合勢力が次の国政選挙で勝利を収めれば、ドイツはアフガニスタンから撤退するかもしれないと語っていた。・・・

 6月にニコラス・サルコジがフランスのNATO<軍事機構>への復帰を声明したが、これは、NATOの「任務が参加国を決める」という新しい取り決め、つまり、NATOの加盟国はNATOの任務に参加するかどうかを自由に決めることができるという取り決めがなされたからこそ出てきた話なのだ。振り返れば、これぞまさしく、ドゴールが望み、かなえられなかったからこそ、彼が1966年にNATO<の軍事機構>から脱退した理由だった。
 フランスは既に縮小していた軍事力を更に縮小しつつある。そしてフランスの国民はフランスが軍事的任務を遂行することにはいい顔をしない。・・・

 (以上、
http://www.weeklystandard.com/Utilities/printer_preview.asp?idArticle=15726&R=13
(10月22日アクセス)による。)

3 アジアについて

 次は、フランス国際関係研究所(IFRI)の創設者であり現在ワルシャワの欧州大学の教授であるドミニク・モワシ(Dominique Moisi)のアジアタイムスに掲載された論考です。

 ・・・仮にあなたが、米国は模範を示す力で世界を指導して欲しいのなら、あなたは民主党上院議員のバラク・オバマを好むはずだ。他方、あなたが、伝統的安全保障の感覚で米国の力が継続することで安心感を得たいのであれば、あなたは共和党上院議員のジョン・マケインを好むことだろう。
 欧州の人々の多数は、歴史的地理的理由で「ロシアの熊」の逆襲を恐れる人々を除き、オバマを支持している。他方、アジアの人々の多数は、特にそのエリート達は、マケインを支持しているように見える。この違いは何と言っても戦略的考慮から来ているわけだが、恐らく文化的要因もあることだろう。・・・
 例えば、日本のエリートは変化よりも継続性を好む。彼らの頭の中では、米国の<ジョセフ・ナイ氏が言うところの>ハードパワーがソフトパワーよりも重要なのだ。そして、彼らの抱く「さっそうと指導する(bound to lead)」米国像はほとんど変化していないのだ。彼らにとっては、米国は何よりも、中国へのバランスをとるための戦略的な重しなのだ。
 しかし、それとは反対の理由で、中国人もまた、恐らくマケインを好んでいる可能性が極めて高い。米国が世界におけるイメージと影響力を減少させることは、彼らを悩ませはしない。アジアの指導的権力として、中国は「希望」という外套を米国から既に奪っている。米国は、オバマの下でそれを回復することができるが、マケインの下ではできない。継続が中国にとってこんなに都合がいいのに、どうして変化を好むことがあろうか、というわけだ。
 インドのエリート達は同じ結論に異なった理由で到達している。ブッシュ政権時代を彼らは好意的に見ている。というのは、その間に、インドが米国のアジアにおける枢要な外国上のパートナーになったことで、インドは国際的な地位と存在感の増大を確保できたからだ。
 シンガポールでは、イデオロギー的考慮が戦略的利害を補強している。シンガポールの極めて保守的な体制が、共和党の候補者の方を民主党の候補者よりも好むのはごく自然なことだからだ。・・・
 欧米に追いつき追い越したアジア諸国の人々は、米国でその歴史上初めて大統領に白人以外が就くという観念に適応することに困難があるかもしれない。欧米がめざましくかつ顕示的にその外見・・本質ではないにせよ・・を変えた時、彼らはどうやって自分達自身を欧米との関係で規定できるのか、という問題だ。

4 再び欧州について

 欧州では、その反対が真実だ。オバマの複雑な本質は絶対的にプラスなのだ。というのは、欧州諸国はかつての植民地宗主国であるけれどオバマに相当する<首相等の>者が出現していない。だから、オバマを全面的に支持することは、罪の購いとまでは言えなくても、一種の悪魔払いと言えるのだ。米国は、欧州諸国がいつの日か自分達の少数民族に関して達成することができなければならないことについて、ここでも先鞭をつけようとしているわけだ。<米国は>希望の地だからこそそんなことが可能となったのだ。より古典的な感覚で言うと、欧州における反ブッシュ感情の深さは、親オバマ感覚の深さと欧州の人々のマケイン候補への心理的距離感を説明している。
 欧州の人々は米国のハードパワーの過度の示威によって押しつぶされているように感じてきた。彼らは米国が外国でより謙虚となり、国内でより大志を抱くことを期待している。実際のところ、彼らはこのように厳しい経済状況の下で、オバマが輪廻的に体現しているところの「希望の文化」が、その少なくとも一部でよいから彼らの間で共鳴を起こし、彼らをよりよい方向へと変容(transform)させてくれることを密かに願っているのだ。彼らは米国が彼らを守ってくれるだけでなく、変容させてくれることを欲しているのだ。
 <欧州における、>オバマが、米国と欧米における自分達自身に係る物の見方を変容させてくれることができるという認識は、米国の大統領選直前の現在、アジアと欧州との間に存在している可能性のある感情的な懸隔における重要な要素なのだ。
 このような点について、アジアは現状維持志向の大陸であるのに対し、欧州は修正主義志向の大陸なのだ。

 (以上、
http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2008/10/25/2003426893
(10月25日アクセス)による。)

4 終わりに

 明治に脱亜したはずの日本は、いつの間にか、アジアの一員になっていたという皮肉な事実を一欧州人たるモワシからつきつけられた感がありますね。
 ただ、より精緻に日本のスタンスを見て行くと、日本は中東欧諸国や日本以外のアジア諸国とは違って、自らの国益(シンガポールの場合はこれに加えてイデオロギー)に即したスタンスをとっていないことが分かります。
 それもそのはずであり、日本は米国の保護国(属国)であって、国益観念があってなきがごとしだからです。
 (それにしても、このように見てくると、コラム#2871で私が言及した、日本の軍事愛好家のスタンスは、モワシ言うところの日本のエリートのスタンスそのものであることを痛感させられますね。)