太田述正コラム#2862(2008.10.20)
<パウエルによるオバマ支持表明>(2008.12.8公開)

1 始めに

 パウエル前米国務長官がオバマ大統領候補の支持を表明したことは日本のメディアでもかなり大きくとりあげられていますが、大きなニュースですので、やはり触れざるをえません。

 (以下、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/10/19/AR2008101900598_pf.html
http://voices.washingtonpost.com/postpartisan/2008/10/the_powell_doctrine.html?hpid=topnews
http://www.nytimes.com/2008/10/20/us/politics/20campaign.html?_r=1&hp=&oref=slogin&pagewanted=print
http://thelede.blogs.nytimes.com/2008/10/19/more-on-the-soldier-kareem-r-khan/
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/michaeltomasky/2008/oct/19/colin-powell-endorses-barack-obama
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2008/oct/20/colin-powell-barack-obama
(いずれも10月20日アクセス)による。)

2 パウエルについて

 パウエル(Colin Luther Powell。1937年〜)は、ジャマイカ系の黒人でスコットランド人の血が混じっている人物ですが、レーガン大統領の下で安全保障担当補佐官を勤め、湾岸戦争の時に統合参謀会議議長を勤め、第一期のブッシュ息子大統領の下で国務長官を勤めました。
 パウエルは、1996年の大統領選挙に立候補を促されたけれど立ちませんでした。
 2000年の大統領選挙の時はマケイン・・共にベトナム戦争で戦った・・を推し、マケインは大統領になった暁にはパウエルを国務長官にすると公の場で語ったけれど、マケインは共和党候補者選びでブッシュに負けてしまいます。
 また、彼は現在もなお共和党員です。

3 パウエルによるオバマ支持表明

 パウエルは、19日朝(米国東部時間)の米NBCの"Meet The Press"という番組で、ホストのブロコー(Tom Brokaw)の質問に答え、次のように語りました。

 <米国が直面している経済の諸問題についてのマケイン氏の考えは確固としておらず、矛盾していることを言っているように見える。>

 <ジョセフ・バイデン上院議員を副大統領候補として選んだことは、オバマが>いつでも大統領になる準備の整っている<人物を選んだことを意味する。これに対し、マケインはアラスカ州知事のサラ・ペイリンという、>傑出した女性であり、かつ尊敬されるべき女性でもあるを選んだ。しかし、7週間にわたって彼女を観察したところ、私には彼女が大統領になる準備が整っているとは思えない。準備が整っていることは副大統領の要件だ。<こんな人物を大統領候補として選んだことは>マケイン氏の判断力に対する幾ばくかの疑問を私の心の中に呼び起こした。

 <オバマの人種が>自分の決定にあたっての決定的要素であったとすれば、私は意思決定を6、8、あるいは10ヶ月前に行うことができていただろう。<そうは言っても、>私はアフリカ系米国人が大統領になることが歴史的出来事であることを否定することはできないし、それが実現すれば、米国人全員が誇りに思って良い。それは単にわが米国を震撼させるのみならず、世界を震撼させることだろう。
 
 <ここ数週間というもの、マケイン氏のあら探し的なやり方、とりわけオバマ氏の過去におけるエイヤーズ(William Ayers)・・1960年代の過激派であり、「地下の天気(Weather Underground)」運動の創設者・・との関係に焦点をあてたやり方にいらだちを覚えてきた。マケイン氏の選挙運動は、オバマ氏がエイヤーズ氏と袖すり合う程度の関係しかないのに、マケイン氏の同伴者であるサラ・ペイリン知事が言うところの>「<オバマは>テロリスト達とほっつき歩いている(palling around with terrorists)」<という印象を振りまこうとしてきた。>マケイン氏は、エイヤーズは「足を洗ったテロリストだと述べている。そうだとしたら、どうして彼らはエイヤーズのことを話し続けているのか。

 <また、オバマ氏がイスラム教徒かと聞かれたら、彼はずっとキリスト教徒であるので違う、というのが正解だ。>しかし、本当に正しい答えは、彼がそうだったとしてどうだというのか、だ。米国でイスラム教徒であることに何か問題があるというのか。答えは否だ。米国ではそんなことが問題であるはずがないのだ。7歳かなんかのイスラム教徒の米国人たる子供が将来大統領になろうと思ったとして、一体どこに問題があるのか。
 <私は、ある雑誌で、イラクで亡くなった兵士たる息子の墓石のところで嘆き悲しんでいる母親の写真を見た。その墓石には彼の年齢と受けた表彰が記述されていたが、一番上には>十字架はなかったし、ダビデの星もなかった。イスラム教信仰を示す三日月と星があった。<この兵士>は、2006年7月にイラクに到着し、そこで一年ちょっと勤務した。彼は家族の所にイラクの子供達とサッカーをしている写真やバグダッドでイラク人の幼い微笑する少年を抱きしめている写真を送ってきていた。・・・マケインが差別主義的な人物ではないことは私はよく知っている。しかし、共和党内でこの種の差別的表現が用いられていることに私はいらだちを覚えている。

 <私はマケイン氏が大好きだ。マケイン氏は普通の共和党員とは言えず、彼は良い大統領になることだろうが、問題は、共和党が>私がそうあるべきだと思うより<右に行きすぎたことだ。>しかも、この数週間というもの、共和党とマケイン氏のやり方は>どんどん狭く狭くなってきている。

 オバマは大統領たる資格を備えている。彼は、この世に、そして米国という舞台に現れた新しい世代の、世の中を転換させることができ、<包摂的な選挙運動を通して米国のすべての人々に>着実さ、知的好奇心、そして知識の深さを印象づけた人物だ。しかるがゆえに、私はバラク・オバマ上院議員に投票するだろう。

4 記者やコラムニストの反応

 A:パウエルは、プラグマティストであり、ブッシュ政権の戦争のやり方に一貫して批判的だったが、彼の友人達によると、この数ヶ月というもの、パウエルは、大統領選挙運動におけるマケインの外交政策顧問達のうちの何人かのネオコンの存在に心穏やかならぬものがあったという。マケイン陣営の外交政策補佐のトップは、元上院議員のロット(Trent Lott)やドール(Bob Dole)の外交政策顧問であったところの、ネオコンと長期にわたる結びつきがある、シューネマン(Randy Scheunemann)だ。シューネマンは、タカ派の「イラク解放委員会(Committee for the Liberation of Iraq)の創設者であり、チャラビ(Ahmad Chalabi)(コラム#266)の熱狂的な支援者だった。チャラビはイラク人亡命者であり、パウエルが長官であったところの国務省が疑惑の目で見、嫌っていたにもかかわらず、国防省のお気に入りだった人物だ。

 B:パウエルのイスラム教徒云々の発言は、誰かが発言すべきだったが、発言するとすればパウエルが最適任だった。というのは、民主党員が発言しても単なるポリティカル・コレクトネス的発言がもう一つ行われたと見られてしまっただろうが、それが共和党員でかつ兵士によってなされたとなると全く違ってくるからだ。パウエルによるオバマ支持は、パウエル将軍の声望が高いワシントンの政治のプロや学者の重鎮の間では大きな影響を持つことだろう。

 C:無党派層や共和党のリベラル派が選挙の帰趨にいつも決定的な役割を果たすが、パウエルの支持表明はこれらの人々に影響を及ぼすだろう。
 
 D:常に十分過ぎるくらいの兵力でもって戦争を遂行するというパウエルドクトリンの提唱者は、今回の大統領選挙にもこのドクトリンを適用した。<これで勝負は決まりだ。>

5 マケインの反応

 <パウエルは私の友人で良く知っているので、彼がオバマ支持を表明したことは驚きではない。しかし>私は、キッシンジャー(Henry A. Kissinger)、ベーカー(James A. Baker 3)、イーグルバーガー(Lawrence Eagleburger)、ヘイグ(Alexander M. Haig)という4人の元国務長官の支持を得ていることにとても満足している。そして私は、200人を超える退役将軍や提督達の支持を得ていることを誇りに思っている。

6 終わりに

 さすがにこれでオバマの大統領当選は間違いないでしょう。
 日本では、誰か今度の総選挙で民主党を勝たせるために、パウエル的役割を果たす人物は現れないものでしょうか。
 せめて、有識者グループが賛同者を募り、民主党に投票を、と呼びかけて欲しいものです。
 それにしても、小沢と小沢一派が民主党を牛耳っている現状が歯がゆいですね。