太田述正コラム#2958(2008.12.7)
<社会的存在としての人間>

1 始めに

 「人間は社会的動物である」と記したのはアリストテレス(注1)ですが、欧州において、とりわけデカルトやスピノザ以来、哲学や社会科学で徹底した個人主義的アプローチがとられるようになり、人間が社会的存在(注2)であることが忘れられがちになってしまいました。
http://findarticles.com/p/articles/mi_m0411/is_/ai_14234274
(12月7日アクセス)

 (注1)実際にはアリストテレスは、「人間はポリス的動物である」と『国家(Politics)』や『ニコマコス倫理学』で記し、英語では、"man is by nature a political animal"と訳される。だからなのか、日本語で「国家的動物」とか「政治的動物」と訳されることもある。しかし、「社会的動物」と訳すのが、原意に最も忠実だ。
http://findarticles.com/p/articles/mi_m0411/is_/ai_14234274
http://oll.libertyfund.org/index.php?Itemid=275&id=1183&option=com_content&task=view
(どちらも12月7日アクセス)
 (注2)人間(じんかん)的存在、と言ってもよい。コラム#113、114、1157(のQ&A)参照。

 アングロサクソン文明は個人主義文明であり、この文明を理想視したフランスのデカルトやオランダのスピノザらによって、アングロサクソンの本家であるイギリスにおいては見られないところの、徹底した個人主義的アプローチが欧州でとられるようになったところ、できそこないのアングロサクソンたる米国の哲学や社会科学もまた同様である、というのが私の考えです。
 
 こういう背景を頭に入れておくと、本日ご紹介する二つの研究の意義がお分かりになろうというものです。

2 禁煙の伝染性

 ハーバード大学医学大学院のニコラス・クリスタキス(Nicholas Christakis)とカリフォルニア大学サンディエゴ校のジェームス・ファウラー(James Fowler)<の研究によれば以下のとおり。>

 ・・・喫煙者は集団で禁煙する。
 つまり、禁煙プログラムは、個人ではなく集団に着目した方が効果を上げるということだ。同時にこれは、ある人が禁煙することで、自分だけでなく沢山の人が裨益するということでもある。1人が禁煙することは、さざ波のような効果で社会的ネットワーク全体の禁煙へと誘うということだ。
 「我々」は喫煙が自分の健康によくないことを知っている・・・が、それは自分の社会的健康にもよくない・・・<ということだ。>・・・
 教育程度が高い人ほど、友人達に影響される程度も高い・・・。・・・
 配偶者の禁煙は友人の禁煙より影響力が大きいし、友人の禁煙は自分の子供の禁煙より影響力が大きい。・・・
 我々は個人を原子化された単位と考えがちであり、政策を個人にとってよいか悪いかで判断しがちだ。・・・しかし、この研究は、我々がお互いに結びつき合っていることを思い起こさせてくれた。我々が何かをある人にすると、波及効果が生じるわけだ。・・・
 <昨年、この二人は、肥満についても、同じような研究を発表している。>
http://www.nytimes.com/2008/05/22/science/22smoke.html?ref=health&pagewanted=print
(12月6日アクセス)

3 幸せの伝染性

 <このクリスタキス(医師で社会科学者)とファウラー(政治学者)が、また研究を発表した。>

 ・・・感情は集合的存在か。感情は単なる個人的現象ではない。・・・
 もしあなたの友人の友人が幸福になれば、5,000米ドルもらうより大きな幸福(happiness)をあなたに与える。・・・
 配偶者の幸福は隣人の幸福ほどあなたを幸福にはしない。・・・これは人が同性の感情により注目していることのあらわれなのではないか・・・。 
 しかし、他人の不幸は蜜の味(schadenfreude)・・・ではなかったのか。
 友人が幸福になると不幸になる人がいないわけではないが、・・・幸福になる人の方が多いことが分かったということだ。・・・
 肥満と喫煙の研究では、友人は遠隔地に住んでいても影響を与えることが分かった。
 しかし、幸福の効果に関しては、友人、自分の子供、あるいは近くに住んでいる隣人による効果の方がはるかに大きいことが分かった。・・・実際に会ったり物理的に、そして暫定的にせよ、近くにいなきゃいけないわけだ。・・・
 しぐさ(body language)と感情表現(emotional signal)が大切なのだろう・・・。
 ビデオ会議が導入された頃には、飛行機で国中を駆け巡る人は誰もいなくなるだろうと思われたけれど、そうはならなかった。実際にその手をとることができるかどうかということも、ある人との信頼関係を構築するにあたって重要だということだ。
 ただし、・・・Eメールとウェブカメラによる通信が普及した場合に、遠隔地効果がやがては減少するのかどうかはまだ明確ではない。
 二人が行った1,700人のフェースブック加入者を対象とした別の研究によれば、笑顔の写真を載せている人は笑顔でない写真を載せている人よりフェースブック上の友人がたくさんできた。・・・
 悲しみ(sadness)も同じように伝達されるが、幸福ほど確実ではない。
 これは、人間が進化の過程で、「よいムードであり続けることができる状況を選択する」性向を身につけたからではないか・・・。
http://www.nytimes.com/2008/12/05/health/05happy.html?pagewanted=print
(12月5日アクセス)

4 終わりに

 人間主義の国である日本で、どうしてこの種の研究がどんどん出てこないのでしょうか。
 いずれにせよ、読者とのオフ会の機会を増やさなければ、と改めて思います。
 読者の皆さんも、お時間があれば、ぜひオフ会に参加されることをお勧めします。
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太田述正コラム#2959(2008.12.7)
<ムンバイでのテロ(続)(その3)>

→非公開