太田述正コラム#2926(2008.11.21)
<皆さんとディスカッション(続x313)>

<知足常楽人>

 いつも感心させられながら拝読しています。とくにアインシュタインの宗教観(コラム#2545)についての記述には長年の疑問が氷解しました。ありがとうございます。
 ところで記述内容について気になったことがあります。学力テスト公表問題が喧しい今、「頭が悪い人」という表現は、いわゆる一般庶民あるいは「公平・平等」を叫ぶ組織などには受け入れ難いものがあるように思えます。おっしゃる内容は理解できますが、みなさんに受け入れてもらえるようにしていただければ支持も激増すると確信します。

<太田>

 「頭が悪い」=「学力が低い」、という風に受け止めている方がそんなにいらっしゃるのでしょうかね。
 私が「頭が悪い」で念頭に置いているのは、例えば「ハト」派では加藤紘一元自民党幹事長、「タカ」派では前原前民主党代表ですよ。
 加藤氏は「頭がおかしい」わけでも、恐らく「不誠実」でもないけれど、一貫してハト派的言辞を弄しているだけでなく、防衛庁の内輪の会でトンデモ発言をした(コラム#28)り、斡旋利得業に精を出していた地元事務所長が所得税法違反で逮捕された責任を取って議員辞職に追い込まれて総裁候補としての地位を失ったり(コラム#11)していることから、私は彼が「頭が悪い」と思っているのです。
 その加藤氏は、私の中学、高校、大学の先輩で、大学入試で1浪しており(ただし、1回目は理1受験、翌年文1合格)、外交官試験にも1回落ちて、法学部を1年留年(学士入学)して外務省に入っています
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8A%A0%E8%97%A4%E7%B4%98%E4%B8%80
が、決して「学力が低い」とは言えないでしょう。
 また、前原氏は、無学で軍事半可通だ、軍事半可通だから中共は軍事的脅威だなどと言って中共に辱めを受ける羽目になり(コラム#1001〜1003)、無学だから偽メール事件で代表の座を降りる羽目になった(コラム#1156、1158)、つまり、「頭が悪い」と私は思っているのです。
 その前原氏は、一浪して京大法学部に入り、1科目単位を落としたため、1年留年して法学部を卒業し、松下政経塾に入塾しています
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%89%8D%E5%8E%9F%E8%AA%A0%E5%8F%B8
が、彼もまた、決して「学力が低い」とは言えないでしょう。

<ファン>

 浅羽さんが書いた「左翼と右翼」って新書出てるよ。<皆さん>読んで参考にしたら?

<遠江人>

≫遠江人さんの「ナショナリズム」と「郷土愛」と「命をかけて公のために働くということ」の区別についてお教え願えませんか?≪(コラム#2924。moshika)

 コラム#2145を参照していただきたいのですが、世界共通の文化として「命をかけて公のために働いている人々である軍人が尊敬の対象になるのは当たり前」ではないでしょうか。それこそナショナリズムとは無縁な国があったとしても、このような尊敬は別種の話であり、太田さんの仰るように次元の違うものであると思います。日本ではこの文化が失われていて、そのことを保守派が嘆くのはよく分かります。しかしこれを嘆くのは保守派だけの専売特許ではもちろんありません。
 自民党議員の保守的言動や靖国参拝にいちいち転んで支持をして属国体制を存続させてきたのは保守派です。これだけ見ても保守派はナショナリズムと素朴な郷土愛をまったく混同していると言えるのではないでしょうか。

<海驢>

 太田様、コラム#2924にて、さっそくご返答いただきまして有難うございます。

≫・・・現在の日本では大部分の人々が革新側を支持するか革新側にシンパシーを抱いてしかるべきだと思っているのです。≪(コラム#2924 太田)

 この部分を拝読して、(ご迷惑かもしれませんが)自分の考えは非常に近いと思いました。
 前回の投稿で説明不足だったと反省しておりますが、現代の日本における「右=保守」・「左=革新」には、主に大戦後(一部、明治維新後)の混乱(転向?)に起因する問題があると考えています。

 例えば、現在の「保守」は、一般的には大東亜戦争後のGHQによる「改革」後の体制(「ヘイワ」憲法、自民党、吉田ドクトリン含む)を(公にせよ裏にせよ)保守していて、それは本来の保守(=日本で歴史的に培われてきた社会体制や価値観の維持・発展)と異なるものと思います。
 かつては、(一部欠陥があったとはいえ)自前の憲法、政友会と民政党の政権交代、独立した外交・安全保障政策、国軍および大英帝国との同盟等々があったのですから(それでも明治以前の価値が一部毀損されているが)、それらに代表される「まともな独立国」に立ち戻るため、(本来の)保守であれば現状打破・抜本的改革を希求するはずだと思われるのです。
 したがって、語義矛盾のようですがこと現代日本においては、保守が「革新側を支持(ないしはシンパシーを抱く)」のが当然ではないかと。

 ただ、一方では現在の「革新」がやはり本来の革新ではなく(例:共産党が革新ではなく現状維持=護憲を唱える等)、かつ未だに革命思想(歴史・伝統の破壊、無防備都市宣言の推進等)を唱えるので、こちらも全くアテにならないと感じます(図らずもコラム#2925でご指摘されておりましたが)。

 このへんの保守・革新の混乱とその解きほぐし方について、取り上げて頂きたく思った次第です。

<太田>

 ご案内のように、私は、日本の歴史は、「平和」「鎖国」「国風文化」の縄文モードと「戦争」「開国」「輸入文化」の弥生モードが切り替わりつつ推移してきた歴史である、と見ているわけですが、そうだとすると、モード切替はまだだと考える人が保守=「右」、そろそろモード切替をすべきだと考える人が革新=「左」、ということになります。
 私は、日本は、戦前、「15」年戦争が始まった頃から縄文モードに回帰し、現在に至っているところ、今や、自衛隊の国軍化、カネと人の世界からの大幅な受け入れ、全面的再アングロサクソン化が課題となっている、と考えています、
 ただ、現在は縄文モードだとは言うものの、日本が米国の属国であるという点で従来の縄文モード時代とは違った特殊事情があり、弥生モードへの切り替えが、宗主国米国からの指示に日本側がしぶしぶ部分的に従う形で進んでいるのが実状です。
 小泉「改革」とは、上で列挙したうち、全面的再アングロサクソン化だけに特化した歪な「改革」であったと言えるでしょう。
 私自身は、これは今まで余り明確に申し上げたことはなかったと思いますが、日本は、そろそろモード切り替えのこれまでの歴史そのものを弁証法的に止揚し、日本(縄文)の顔をしたアングロサクソン・モデルを構築し、実践することで、日本のモード切り替えの歴史にピリオドを打って欲しいと願っており、その願いの実現に向けて努力してきたつもりです。

<遠江人>

≫太田さんは「」付きでお書きなので、例によってご承知の上だと思いますが(意識している読者がどのくらいおいでか・・・)、ナショナリスティックに勇ましく吠えているのが右翼・保守だと思われているような懸念を感じます。≪(コラム#2924。海驢さん)

 これは単純な話で、私が対象としたのはあくまで「日本の」保守派です。言い方を変えれば、属国の保守派です。それこそ英国にも保守派はいるわけで、そのようなまっとうな保守派なら、むしろいてもらわなければ困ります。(同様にまっとうな左派もいてもらわなければ困るという話です)
 想像していただきたいのですが、かつては独立国だったけれど現在は属国となっている国に保守派と呼ばれる知識人がいるとしたら、伝統と文化は大切だなどとのんきに言っている暇があったら、まず何を置いても自主独立を目指すものではないでしょうか。武力で押さえつけられているのならまだしも、独立する権利も力もある(宗主国から独立しろといわれている)のなら、なおさらです。その国の独立を妨げている根本的な構造の原因を探り出し、とにかく独立することを第一義とし、文化伝統はその次でいいのではないでしょうか。
 これだけ長い時間が経っても、日本の独立を妨げる根源は自民党であると確信して、権力から引きずり落とすために堂々と攻撃している日本の保守派は見たことがありません。もし日本の保守派のホンネが、とりあえずアメリカに守られていれば自主独立は無くとも今のままの伝統文化は維持できる(移民を受け入れなくてもいいし)から、むしろ今のままでいるのがベストだ、国民とアメリカ向けのエクスキューズに自衛隊を見せ金としておけばよい、ということだとしたら、なんと「しょぼい」保守派でしょうか。「自主独立」より「他国に守られた後ろ向きな伝統文化」を優先する保守派ですよ?(保守派が何と言おうと、そういうことになってしまっていると思います)
 あらゆる国益より自己満足的な伝統文化を「優先」する存在とは、国民にとって何なのか。最近そんなふうに考えています。

≫ちなみに、当方は自分で「右」だと思っていますが、決して自民党支持ではない(国政選挙で自民党に投票したことは19年間で一度もない)ですし、一方で共産党に投票したこともあります(ただし、「皇室廃止」テーゼは支持できないので国政選挙では入れない。もちろん、公明党にも入れない)。≪(海驢さん)

 とにかく海驢さんのように、日本では稀有な存在である、真に日本を愛する真の保守派といえる人がもっと世に出てくるようになれば、日本は変わると思います。

<コバ>

ソマリア沖の海賊問題ですが、貧村が「海賊の町」となるほど海賊景気に湧いているそうです(
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081120-00000586-san-int
)。
 歴史音痴なので知りたいのですが、英国が行っていた拿捕(私拿捕船への援助)とソマリア沖における海賊行為(政府の黙認)は似たようなテロ行為、海賊行為なのでしょうか?

<太田>

 かつての英国や米国の私掠船は、国が与えた捕獲免許状に基づき、掠奪行為を行った(コラム#41)のであり、国の正式の許可なき私掠船である海賊とは区別されるべきです。
 アングロサクソン自体やイギリスに来襲したバイキングは、まさに海賊でしたがね。
 現在、国際的に話題になっているソマリアを根拠地とする海賊達は、無政府状態に近いソマリアに割拠するいくつかの軍閥が取り仕切っており、今後無政府状態の「国」が増えていくという見通しもある
http://www.guardian.co.uk/world/2008/nov/21/nic-report-america-china
ことから、海賊的な国際犯罪組織の問題が、今後全世界的に広がって行く虞もなきにしもあらずです。
 (ちなみに、この見通しを提示した米国政府のレポートは、2005年現在の実勢経済力は、米国、EU、中共、インド、日本、ロシア、ブラジルの順番であるところ、それが2025年には、米国、中共、EU、インド、日本、ロシア、ブラジルの順番になると予測しています。要するに、今後20年間で相対的に順位を上げるのは中共だけってわけです。ホントかな?)

<コバ>
 
 今回のソマリアの海賊問題に対して、国際社会や日本が対策を打ち出すことは出来るのでしょうか?
 やはり、この問題には集団的自衛権が必須だと思うのですが…。

<太田>

 先月、国連安保理で、全会一致で世界各国にソマリア沖海域(アデン湾)に艦艇や航空機を派遣するよう求める決議が採択されました。
 既に米国、英国、フランスの艦艇等のほか、ロシア、インドの艦艇も同海域を哨戒中であり、韓国も艦艇を派遣する決定をしました。
 日本でも、自衛艦を派遣するための法律の整備が検討されています。
 (以上、典拠省略)
 数日前、インドのフリゲート艦が同海域で海賊の母船を1隻撃沈したところです。

 おかげで、ソマリア沖での海賊による攻撃は増えていますが、乗っ取り成功率はこの2〜3ヶ月で約5分の3に低下しています。
 ちなみに、今年に入ってから、95隻の船舶が攻撃され、39隻が乗っ取られています
 しかし、この海域を通航する船舶の保険料は10倍にはねあがっており、今年に入ってからだけで支払われた身代金の金額は3,000万米ドルにのぼっています。
 また、今現在、まだサウディアラビアのスーパータンカーを含む計14隻、計243人の乗組員が人質になったままです。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/11/19/AR2008111900364_pf.html
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/11/18/AR2008111801167_pf.html
 なお、このあおりで、スエズ運河の通航量が劇的に減少しており、喜望峰回りの船舶が増えています。エジプトは通行料の減少に頭を痛めています。
http://www.ft.com/cms/s/0/4c9f428e-b734-11dd-8e01-0000779fd18c.html?nclick_check=1

 仮に集団的自衛権行使ができない日本が自衛艦を派遣した場合、海賊行為の抑止と取り締まりには役に立っても、彼らの根拠地のソマリアは戦闘地域であり、海賊がソマリアの港に向けて逃走したり、乗っ取った船舶を持ち去ろうとした場合に、追跡できても、ソマリアに近いところまでで追跡を断念せざるをえない、ということになるでしょうね。
 また、それ以前に、何か新しいことを自衛隊にやらせる時に、その都度法律をつくる必要がある、ということ自体が問題です。

<コバ>

 海自が迎撃ミサイル発射実験に失敗してしまいました(
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081120-00000031-yom-soci
)。
 ミサイル防衛計画について、太田さんはどう考えられていますか? 該当コラムがすでにあったら申し訳ないです…。

<太田>

 「・・・迎撃数秒前に弾頭が模擬弾を見失い、実験は失敗した。SM3は標的に接近すると、弾頭の赤外線センサーが標的を発見し、迎撃する仕組みになっている。同省は「イージス艦のシステムに問題はなかった。SM3の弾頭に何らかの不具合が発生したと考えられる」としている。」
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20081121-OYT1T00018.htm

ということのようですが、SM3システムそのものは、搭載艦艇「近傍」を飛行する弾道弾にはそれなりに有効でしょう。
 私の考えは「<米国が構築しようとしている何重ものミサイル防衛網は、>ロシアや中共がおとり弾頭を併用しつつ一斉核攻撃を米国に仕掛けてきた時には対処しきれない。しかし、だからといって、ミサイル防衛が無意味であるとか、ミサイル防衛はならず者国家やテロリストの核にだけ備えるものである、と結論づけるのは早計だ。ミサイル防衛は、ロシアや中共に対して核先制攻撃をした場合に生き残ったわずかな核が発射されたときにこれをたたき落とすためにも用いうるからだ」(コラム#1135)ということですが、日本で予定されているのは、この艦艇搭載SM3と陸上配備のパトリオットPAC3形態
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%88%E3%83%AA%E3%82%AA%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%9F%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%AB
だけの、しかも数量的に極めて限定的な配備であり、多くを期待することはできません。
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太田述正コラム#2927(2008.11.21)
<オバマ・米国・英国・日本>

→非公開