太田述正コラム#2818(2008.9.28)
<タリバンとの秘密交渉>(2008.11.16公開)

1 始めに

 このところ、連日のように英ガーディアン(系列のオブザーバー紙を含む)が特ダネを掲載しています。
 本日は、タリバンとの秘密平和交渉の話です。

 (以下、
http://www.guardian.co.uk/world/2008/sep/28/afghanistan.terrorism
http://www.guardian.co.uk/world/2008/sep/28/afghanistan.defence
(9月28日アクセス)による。)

2 タリバンとの秘密交渉

 アフガニスタンのカルザイ政権は、タテマエ上はタリバンとは、タリバンが暴力を放棄するか放棄する用意がない限り交渉しないとしてきましたが、実は、アフガニスタン政府とタリバンとの秘密平和交渉が、サウディアラビアが仲介役となり、英国が兵站面と外交面でこの交渉を支援する形で続いています。
 使者となってカブール、パキスタン内のタリバン最高指導部、サウディアラビア、英国・欧州の諸都市を行き来しているのはかつてのタリバンの一幹部です。

 先週、フランスのフィロン(Francois Fillon)首相がこの交渉に間接的に言及しました。「われわれは<アルカーイダ等の>国際ジハード主義者達を民族的・部族的動機に基づいて行動している人々から引き離す算段を模索しなければならない。この方向での努力がサウディアラビア等のスンニ派イスラム諸国がリードする形で行われている」と。
 
 これまでは、アフガニスタンの地方レベルで個別のタリバンの指揮官達と低レベルの接触がなされてきており、若干の中堅指揮官達と約5,000人の末端の戦闘員達がアフガニスタン政府に帰順しましたが、ほとんどタリバンの力を削ぐことにつながってはいません。
 パキスタン南西部の都市に所在するクェッタ・シューラ(Quetta Shura)と称されるタリバンの指導評議会(leadership council)との対話が試みられるのは初めてのことです。
 対話が始まったのは今年の夏であり、アフガニスタン政府がサウディアラビアに仲介を依頼したものです。
 ちなみに、サウディアラビアは、パキスタン、アラブ首長国連邦とともに、かつてアフガニスタンのタリバン政権を承認していた、ただ三つの国であったという経緯があります。
 このような対話がとにもかくにも始まったということは、少なくともタリバンの上級幹部の中に7年間の寧日ない戦いに疲れを覚えている者がいることを示しています。

 タリバン側からは、主要省庁を担当させることや欧米の部隊を計画的に撤退させることを含む10いくつもの条件が提出されています。
 アフガニスタン政府では、カルザイ(Hamid Karzai)大統領の国家安全保障顧問のラスル(Zalmay Rasul)がこの交渉を担当しています。欧米政府の関係者の中には、カルザイ大統領がこのタリバン側からの条件提示に対しなかなか公式回答を行おうとしないことにいらだちを示しているむきもあります。
 問題は、タリバン側の条件が必ずしも一定していないことと、仮に合意ができたとしても、果たしてタリバン側がそれをきちんと守るのか確信が持てないことです。
 それだけではありません。
 シャリア法の厳格な適用などといった条件で合意ができたとしても、米国等の欧米諸国の中にはそんな合意について同意しない、という虞もあります。
 それに、パシュトゥーン人を中心とするタリバン政権時代にひどい目にあわされた、アフガニスタンの他の民族の中からも異議が出る虞だってあるのです。
 もう一つ、根本的な問題があります。
 これまでの交渉では、上記の使者がタリバンの最高指導者であるオマル師(Mullah Omar)と直接話すことができていないことです。

 こういう状況下、夏にタリバンとの間で激しい戦いが行われたこともあり、ここ何週か、この交渉は中だるみ状態であるようです。

3 終わりに

 国際情勢は常に複雑怪奇であり、ある日突然、カルザイ政権とタリバンとの間で交渉が成立し、アフガニスタンに平和が戻り、アルカーイダが孤立する、ということが起きるかもしれませんね。
 それにしても、英国は、アフガニスタンに派兵し、タリバンと対決しつつ、他方でアフガニスタン政府のタリバンとの秘密交渉も支援しているわけですが、一体いつ日本が米国の保護国の地位を脱し、英国のような活躍ができるようになるのでしょうね。