太田述正コラム#2545(2008.5.13)
<アインシュタインとイスラエル>(2008.11.15公開)

1 始めに

 アインシュタインとイスラエルに関し、それぞれ興味深い記事を発見したので、ご紹介しましょう。

2 アインシュタインの宗教観

 アインシュタインの宗教観については、以前(コラム#498で)触れたことがありますが、最近新たに発掘された彼の手紙が、彼のアブラハム系宗教に対する厳しい見方を示すものとして注目されています。
 アインシュタインは次のように記しています。

 「私にとっては、神という言葉は人間の弱さの表現かつ産物、聖書は尊敬すべきだが同時に極めて子供っぽい原始的な伝説、以上の何物でもない。(私に関する限り、)どんなに精妙などんな解釈もこのことを変えることはできない。」
 「私にとっては、ユダヤ教は他の全ての宗教と同様、最も子供っぽい迷信の化身だ。また、私が、その一員であることを喜んでおり、またその心性(mentality)に大いに親縁性を覚えるところのユダヤ人は、私にとっては、他のすべての人々と異なった質を有しているものではない。私の経験によれば、ユダヤ人は他の人間の集団よりも優れているわけではない。ただし、権力を持っていないが故に最も悪質な癌に冒されることがないだけだ。彼らが選民だなんて全く思わない。」

 ちなみにアインシュタインは、イスラエルの第二代大統領に推されたのですがこれを固辞しています。

 (以上、
http://www.guardian.co.uk/science/2008/may/12/peopleinscience.religion
(5月13日アクセス)による。)

3 世界一幸せなイスラエル国民

 そのユダヤ人が権力を持つに至ったイスラエルは、今年建国60周年を迎えましたが、いかなる悪質な癌に冒されているでしょうか。
 いや、癌に冒されるどころか、イスラエルのユダヤ人は、世界一幸せな民らしい、とスペングラー(仮名)がアジアタイムスに論考を寄せています。
 彼は要旨次のように記しています。

 イスラエルは、世界で最も古い国(nation)だ。いや、古いだけなら、例えばバスクだって古い。だけど、3,000年前と(無理矢理復活したものだが、)同じ言語をしゃべり、おおむね同じ地域を占め、その全歴史を通じて文字による記録を継続的に残している、つまりは、中断することなき国家意識を持ち続けたのはこの国だけだ。
 さて、伝統的社会の桎梏を逃れ、社会が近代化して自由になると、ほとんどの人々は子供を持とうとしなくなる。
 この結果、先進国では軒並み人口が減少し、それぞれ滅亡への道を歩みつつある。
 例外はイスラエルと米国だけだ。
 (以上、移民を除いた話だ。)
 といっても、米国の出生率はぎりぎり人口が維持できる2.1に過ぎないのに対し、イスラエルは2.77もある。ロシアを含む欧州30カ国と米加日、それにシンガポールと香港の35カ国中、ダントツのトップだ。
 私は、これはイスラエルのユダヤ人が生を愛し、自分達を幸せだと思っているからだと考える。
 このことを裏付けるのが、イスラエルの10万人当たり自殺者数が6.2人と、これまた、この35カ国ないし地域中、ギリシャの3.2人に次ぐ第2位の低さであるという事実だ。
 このように出生率が高く自殺率が低いことは、イスラエル人の4分の3は敬虔な信徒とは言えないものの、3分の2が神の存在を信じているだけでなく、彼らが全員初等中等教育の12年間にわたって聖書教育を受けていること、つまりは、イスラエルのユダヤ人が宗教的であることと無縁であるとは思えない。
 というのは、一般に先進国でも後進国でも宗教的な人々の出生率は、世俗的な人々の出生率より高いからだ。
 現にイスラエルでは、超正統派ユダヤ教徒の夫婦は平均で9人も子供をつくる。
 だから、キリスト教が形骸化した欧州では出生率が下がり、自殺率が高いのだ。
 なお、上述したように米国の出生率は高いけれど、米国のユダヤ人の出生率は低い。これはイスラエルのユダヤ人と違って、彼らの大部分が世俗的だからだ。道理で、ベロー(Saul Bellow)やロス(Philip Roth)のようなユダヤ系米国人たる小説家や、アレン(Woody Allen)のようなユダヤ系米国人たる俳優から、ユダヤ人は不安にかられた神経症患者ばかりだ、という印象を一般の人々が抱くわけだ。
 (なお、宗教的なユダヤ人と原理主義的キリスト教徒の共通点は、彼らが共に選民思想を抱いているところだ。選民だと信じておれば、自分達を特に幸せだと思うのも当然だろう。)
 もちろん、(同じアブラハム系の宗教を信じているとはいえ、)イスラム教徒たるアラブ人の出生率が高い理由は、彼らが伝統的社会の桎梏の下で生きているからだ。
 彼らは世界中で、最も自由でなく、最も教育程度の低い、(産油国を除き)最も貧しい人々だが、私に言わせれば、産油国の人々を含め、世界中で最も自分達を不幸だと思っている人々でもある。
 これは、同じアブラハム系の宗教ではあっても、ユダヤ教とキリスト教の神は愛の神であって神と信者は信頼関係で結ばれているのに対し、イスラム教の神は気まぐれの神であり、成功も失敗も神の思し召し次第であると受け止められていることから、アラブ世界が失敗続きであることが、イスラム教徒たるアラブ人にとって耐え難いからだ。しかも、アラブ世界の真っ只中に出現した、異教徒のイスラエルが成功続きであることが、アラブ人のこの耐え難い思いを一層募らせるのだ。
 だからこそ、不幸なアラブ人は、自爆テロを行ってまで、幸せなイスラエルのユダヤ人を殺戮しようとする。これがパレスティナ問題の本質であり、しかるがゆえにパレスティナ問題は永久に解決しないのだ。

 (以上、
http://www.atimes.com/atimes/Middle_East/JE13Ak01.html
(5月13日アクセス)による。

 終わりの方はともかくとして、なかなか鋭い論考であると思いませんか。

4 感想

 アインシュタインもイスラエルも、どちらもホントに面白いですね。