太田述正コラム#2814(2008.9.26)
<当分なくなった対イラン攻撃>(2008.11.12公開)

1 始めに

 イスラエルが米国に、イランの核施設爆撃の許可を求めたところ、拒否されていたことがこのたび明らかになりました。
 またまた英ガーディアンのスクープです。

2 ガーディアン報道の要約

 今年の5月14日、イスラエル建国60周年記念に同国を訪れていたブッシュ米大統領と当時のイスラエル首相のオルメルト(Ehud Olmert)の間で上記のやりとりがあったというのです。ブッシュ政権の間はまず認めることはない、というのがブッシュの回答だった由。
 その後でイスラエルを訪問した欧州の政府の長がイスラエルの指導者からこの話を聞き、更にこの政府の長がこの政府の高官達に伝え、この高官達がガーディアンに明かしたというわけです。

 イスラエルと米国の間で上記のやりとりがあってから3週間後の6月2日、100機以上のイスラエルのF-15、F-16等のジェット機、救難ヘリコプター、空中給油機がイスラエルから1,400km離れたクレタ島上空めがけて演習を行いました。この1,400kmというのは、イスラエルからイランがウラン濃縮を研究しているナタンツまでの距離と同じです(コラム#2623参照)。
 イラン同様、ギリシャは、キプロスから取得したロシア製のS-300防空ミサイルを持っており、ギリシャはイスラエルのジェット機がイランの防空ミサイルに妨害電波を照射するためのデータを提供したと伝えられています。
 更に1ヶ月後、米国とイスラエルはイスラエルのアロー2対弾道弾ミサイルの性能向上のための予備会談を開催しました。
 そして今月の初め、米国防省は米議会に対し、イスラエルに、90cmの厚さの鉄筋コンクリートを貫通することができる(1トン爆弾相当の)スマート爆弾GBU-39(=The guided bomb unit-39)を1,000個売却するつもりであることを通知しました。
 この三つの軍事に関わる出来事は、米国がイスラエルの求めを拒否したことへの代償であると考えられます。
 米国が方針転換をして、いざイスラエルがイラン核施設攻撃を行うこととなった暁には、イスラエルはより効果的かつ効率的に攻撃を実施できるようになったということです。

 ところで、ブッシュが拒否した理由は大きく分けて二つあり、一つはイランによる報復への懸念であり、もう一つは一回の攻撃ではイランの核計画を無能力化することに成功しないだろうという見通しでした。

 予想されるイランの報復としては、イラクとアフガニスタンにおける米国の軍人や非軍人に対する攻撃、ペルシャ湾における船舶への攻撃、ホルムズ海峡の封鎖が考えられます。
 (ホルムズ海峡の封鎖を止めさせるためには、ホルムズ海峡の要塞化されたいくつかの島を占領しなければなりませんが、これには大きな地上兵力が必要となります。)
 このほか、レバノンのヒズボラがイランの意向を受けて、イスラエル領内に向けてミサイルを発射する可能性もあります。また、ヒズボラはパレスティナ西岸に要員を潜伏させており、ここを拠点に外国を旅行しているイスラエルの官憲の誘拐を試みる虞もあります。更に、1990年代初めにヒズボラが、恐らくはイランの工作員の助けを借りて、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスのイスラエル大使館とユダヤ人コミュニティ・センターを爆破して85人を殺害したようなことを再び試みる虞もあります。湾岸アラブ諸国の石油施設や米軍基地もターゲットにされるのではないかとされています。

 一回の攻撃では成功しないということの問題点は、何波もの攻撃を何日間もかけておこなっていると全面戦争になりかねないということです。

 上記演習の数日後、当時のイスラエルの副首相、モファズ(Shaul Mofaz)は、「イランがその核兵器を開発する計画を続けるならば、われわれはこれを攻撃するだろう」と語ったところです。
 このモファズはイスラエルの政権与党であるカディマ(Kadima)党内での選挙に惜敗し、リヴニ(Tzipi Livni)女史がイスラエルの次期首相に就任することが決まりましたが、彼女は、モファズほどはタカ派的ではありません。
 米国の次期大統領候補の二人とも、イランの核施設を攻撃するオプションを否定はしていませんが、ここしばらくは、イスラエルないし米国がイランの核施設を攻撃することはなさそうです。

 (以上、
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2008/sep/26/iran.israelandthepalestinians
http://www.guardian.co.uk/world/2008/sep/25/iran.israelandthepalestinians1
http://www.guardian.co.uk/world/2008/sep/25/lebanon.iran
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2008/sep/26/georgebush.israelandthepalestinians
(いずれも9月26日アクセス)による。)