太田述正コラム#2812(2008.9.25)
<英国王位継承法改正へ?>(2008.11.11 公開)

1 始めに

 もう一年以上、ほぼ完全に一日2篇のコラムの配信を続けていますが、吾ながらよく続いているなと思います。
 例えば、コラム#2808「現在の私自身のこと」なんて、いかにもあの日に書きたい気持ちが抑えられなくなって書いた、と誤解されるむきもあろうかと推察されますが、実はそうではなくて、通常のコラムを書く材料がどうしても見つからず、仕方がないからまた自分のことでも書こうかと腹を決め、じゃ何を書くかと思案した結果が、ああなったものです。
 「ディスカッション」シリーズの方は読者に書いてもらっているようなもんじゃないかという声があがりそうですが、あれはあれで、読者の投稿やメールを整理、アレンジして所々に私のコメントや回答をさしはさむ、というのは結構手間がかかるものなのですよ。
 例の躁鬱病の疑いのある私の知人の話(コラム#2805)だって、読者の投稿・メールが少なく、他方、私が適宜トピックスを探してきて書き綴るだけの材料もなく、増量のために、これまた苦し紛れに思いついたものです。
 これらの経験を活かした『コラム書きのノウハウ』なんて本ならいつでも書けそうですが、コラムを書こうなんて人がそんなにたくさんいるはずもないので、売れないでしょうね。
 
 さて、本題です。
 本日は、英ガーディアン紙が報じた、英国王位継承法を改正する案を英国政府が固めたとのスクープについてお話をしましょう。

2 英国王位継承法改正へ?

 1701年に制定された王位継承法(Act of Settlement)で、ジェームス1世の外孫のハノーバー選帝侯妃ゾフィー(ソフィア)及びその子孫にして、英国教会信徒にして、カトリック教徒と結婚した者でなくして(注1)、養子でもなくして、その者が受胎した時点で両親が結婚している場合に限る、と定められています。

 (注1)憲法でそれぞれ国王は、スウェーデンではルター派、オランダではプロテスタントたるオレンジ家の者、スペインとベルギーではカトリック教徒、でなければならないと定められている。

 この王位継承法は、1588年の名誉革命で「追放」された、カトリック教徒たるジェームス2世及びその息子たるジェームズ老僣王(James Francis Edward)やルイサ・マリア・テレサ・スチュアート(Louisa Maria Teresa Stuart)の英国王就任を阻止することを直接的なねらいとして制定されたものです(注2)。

 (注2)トマス・ホッブス(Thomas Hobbes。1588〜1679年)は、「法王制は、滅亡したローマ帝国のの亡霊である」と記している。

 王位継承法ではまた、継承は男子が女子より優先されることとされています。(男長子相続制=male primogeniture)

 8年前から、これでは宗教差別であり男女差別であるとして(注3)(注4)(注5)、英国王位継承制度の改正に向けて論陣を張ってきたガーディアンによれば、このたび英国政府は、王位継承法で規定された上記諸制限を撤廃する案を固めたというのです。

 (注3)EUの欧州人権規約(European convention on human rights)に基づいて英国人権法(Human Rights Act)を解釈すべきところ、王位継承法は同規約第9条にいう思想と良心の自由の権利、付属議定書(protocol)1の第1条にいう継承順位等の平和的享受の権利、そして第14条にいう、あらゆる慣習的権利(convention right)に関する差別の禁止、に抵触すると指摘されてきた。
 (注4)2005年の総選挙の際、保守党の党首マイケル・ハワード(Michael Howard)は、保守党が下院で多数を占めれば、王位継承法で課された上記制限を撤廃すると公約したが、労働党が勝利を収め、トニー・ブレア(首相辞任後カトリックに改宗)政権は何もしなかった。
 (注5)カナダでも、カトリックが一番信徒の多い宗教であることもあり、同国の元首でもある英国王の継承制度・・カナだ憲法に規定あり・・への反対論がある。2002年には差別であるとして訴訟が提起されたが、原告が敗訴した。

 この改正案が通れば、不可避的に英国教会は英国の国教的地位を失うことになるとの見方も有力です。
 ただし、この改正案が通るためには、1931年のウェストミンスター法(Statute of Westminster)に則り、英連邦諸国全ての同意が必要です。

 なお、英国王は、首相任命権と議会解散拒否権という、国王大権の残滓をいまだ形式的には保持していますが、これを撤廃する動きは今のところありません。

 (以上、
http://www.guardian.co.uk/world/2008/sep/25/anglicanism.catholicism1
http://www.guardian.co.uk/world/2008/sep/25/anglicanism.catholicism2
http://www.guardian.co.uk/politics/2008/sep/25/constitution.monarchy
http://en.wikipedia.org/wiki/Act_of_Settlement_1701
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8E%8B%E4%BD%8D%E7%B6%99%E6%89%BF%E6%B3%95
(いずれも9月25日アクセス)による。)

3 終わりに

 日本では、皇位継承問題がなりをひそめてしまいましたが、われわれは時代に柔軟に対応していこうとする英国の保守党や労働党に学ぶべきところが大いにありそうですね。