太田述正コラム#2894(2008.11.5)
<皆さんとディスカッション(続x298)>

<OS>

 太田先生の田母神幕僚長批判は私には今ひとつわかりません。
 前幕僚長がKYなのはわかります。また、職務を十分果たさなかったことも太田先生のご指摘ですから、その通りだと思います(自分の意見としてそう思うのではなく、太田先生の方に札を入れるという意味です)。
 しかし、知人としての予備知識は一旦棚上げにして、一国民の書いた文章として批判していただきたいのです。読者はそれを期待していると思います。
 私も読みましたが、過去の戦争において日本を弁護する文としては、簡潔で良い文章だと思いました。英語で発表され、多くの外国の方に読んでいただき、英語で反論が貰えたら、有意義なdiscussionができると思います。

<太田>

 田母神氏の歴史認識批判は(コラム#2888、2891で)ざっと既にやったところですが、KYでかつ無責任な人物(失礼)の「歴史認識」などに、なおご関心のある奇特な方がいらっしゃるのですね。

 私自身の歴史認識は、『属国の防衛革命』の第1章で簡単にまとめられているので、ご覧いただければ幸いですが、田母神氏の「論文」(
http://www.apa.co.jp/book_report/images/2008jyusyou_saiyuusyu.pdf
)を読むと、彼が米国による戦前の反日政策と戦後の日本属国化政策にわだかまりを持っていて、強い反米意識を抱いていることが分かります。
 まさに、「日本人の潜在意識の中には、米国に対するはげしい怒りが残っている」(前掲拙著29頁)ことの一証左です。
 田母神氏の場合、反米意識が顕在化したのは、私同様、日本が米国の属国であることを日々自覚させられる職場・・防衛省/自衛隊・・に彼が勤務してきたからでしょうね。
 しかし、彼が属国化を米国のせいにしているところは、理由は繰り返しませんが、完全な事実誤認です。
 このためだと思います。戦後、より正確には朝鮮戦争勃発時以降、についての氏の歴史認識に誤りが目立つのは。
 どうして、氏がこんな基本的な事実誤認を犯したかですが、安全保障/防衛をめぐるぎりぎりの交渉・・実態は、属国が宗主国にゴネているだけですが・・の場から、自衛官幹部が閉め出されていて、米国のホンネに接したことがないのが原因でしょう。
 こういう意味からも、自衛官幹部を内局で課長、局長として勤務させる必要があります。

 なお、田母神問題をとりあげた以東乾氏のコラム
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20081104/176177/
(11月5日アクセス)
によれば、田母神「論文」の英訳が既に存在し、インターネットで読むことができるようですよ。
 伊東氏ならずとも、こんな「論文」が世界の人々の目に触れるなんて、恥ずかしい限りです。
 なお、伊東氏のコラムは、田母神「論文」の典拠の付け方の不十分さ・・伊東氏に私が乗り移ったか?・・や文章の脇の甘さを指摘するとともに、田母神氏のKYぶりを糾弾したものであり、私と見解の異なるところは多々あるものの、その論調の冷静さに好感が持てました。

<じゅん>

≫田母神氏の戦前についての歴史認識は、9割方、私の認識と一致している。≪(コラム#2888。太田)

とのことですが、論文の核心部分である「侵略国家であったか」という点に関しても、一致しているのでしょうか?

 「侵略国家」の定義は分かりませんが、仮に、「日本が侵略を行ったか」と言い換えれば、先の大戦は侵略だったのではないでしょうか。

 戦後にできたものではありますが、「侵略の定義に関する決議」に照らしても、武力行使に対する反撃(=自衛戦争)でない以上は、侵略戦争だといえます。
 辞書的な意味であっても、他国に侵入してその領土を奪い取っている以上、侵略だといえます。

 たとえ追い込められて、自存自衛のために開戦したのであっても、アジア諸国を解放するためであっても、当時は一般的な行動だったとしても、侵略は侵略に変わりはないと思います。

 田母神論文では、

 もし日本が侵略国家であったというのならば、当時の列強といわれる国で侵略国家でなかった国はどこかと問いたい。・・・・・・日本だけが侵略国家だといわれる筋合いもない。

とありますが、

「当時の列強といわれる国で侵略国家でなかった国は無い」
「列強と同じく、日本“も”侵略国家だ」

ということではないでしょうか。

 田母神氏のいうように「条約があったから侵略ではない」という理屈が通るなら、チベットへの人民解放軍の侵略も「条約があるから」という理由で正当化されそうですし、「追い込まれて開戦したから侵略ではない」のであれば、今経済制裁で圧力をかけられている北朝鮮が、ついに軍隊を日本に派遣してきても「追い込まれたから」という理由で正当化されそうです。

<太田>

 ひょっとして兵頭門下生の方でしょうか。

 最初に、戦後も含めた田母神氏の歴史認識全体については、私は全く同意いたしかねる、ということを念のために申し上げておきます。

 さて、戦前についての、氏の見解、
 「もし日本が侵略国家であったというのならば、当時の列強といわれる国で侵略国家でなかった国はどこかと問いたい。・・・・・・日本だけが侵略国家だといわれる筋合いもない。」は、その通りでしょう。
 当時の米国は、一方的にふっかけた米西戦争でスペインから奪ったフィリピンを、原住民の意思を蹂躙して植民地にし(てまだ独立させていなかっ)た国でしたし、英国はアヘン戦争で支那から奪った香港を領有していた国でしたし、ロシア(ソ連)は清崩壊後の混乱に乗じて支那から外蒙古を奪って事実上領有していた国でしたからね。

 そんなのすべて過去の話じゃないかって?
 いや、ソ連については、田母神氏も言っているように、傀儡の中国共産党をつくった上に中国国民党に容共分子を浸透させて支那の侵略を図り、蒋介石が一族郎党の私利私欲を図るために国民党から容共分子を一掃するとともに国民党をファシスト政党化した後も、蒋介石に国共合作を飲ませることで支那間接侵略を続けるべく画策を続けました。
 やがてソ連が国共合作に成功すると、ソ連による支那間接侵略に抵抗を続けていた「自由民主主義国」日本の影響力を支那から排除すべく、共産主義/ファシズム音痴で有色人種差別の米国と提携し、合作した国民党/共産党を手先に使って対日戦争・・日中戦争・・をしかけました。
 まさにソ連こそ、当時のアジアにおける最も悪質なる侵略国家だったのです。
 日本は、このソ連による間接侵略に応戦したけれど、対米開戦に追い込まれ、日中戦争は大東亜戦争へと拡大し、最終場面ではいよいよ黒幕だったソ連自身が対日戦に乗りだします。
 結局、日中戦争-大東亜戦争は、ソ連の勝利、日本の敗北に終わり、支那はソ連の手中に帰することになります。

 ところで、ここから先は私見です。
 ソ連が戦後、米国の影響力を朝鮮半島から排除しようとして金日成に朝鮮戦争をしかけさせたのに対し、米国はこれに応戦し、一時北朝鮮を席巻するも、結局引き分けに終わりました。
 私は、日中戦争-大東亜戦争-朝鮮戦争、は一つながりの戦争であったという認識を持っています。
 日中戦争-大東亜戦争ではソ連側についた米国が、朝鮮戦争では日本の代理として戦ったという点が違うだけです。
 日本も米国も、どちらも自分の領域防衛のために戦ったわけではありませんし、どちらも攻勢作戦を展開しました。
 だからと言って、果たして日本や米国の行ったことは侵略だったでしょうか。
 
 話が飛ぶようですが、米国の南北戦争で、北部側は北部諸州の領域防衛のために戦ったわけではありません。北部の指導者であったリンカーンは、南部諸州の黒人奴隷解放のために戦ったのです。果たしてそれは侵略戦争だったでしょうか。
 また、NATOはコソボのアルバニア系住民がセルビア人による民族浄化に遭っているのを救うべくコソボに人道的介入を行いましたが、果たしてそれは侵略戦争だったのでしょうか。
 私は、20世紀以降においては、形式的(法的)要件だけで侵略かどうかを論じても不毛だと思うのです。
 人権や自由民主主義を守るための戦争であったかどうかが、より重要だと思うのです。
 (以上、すべてコラム(一部未公開)で既に論じていることであり、いちいちコラム#は挙げない。)