太田述正コラム#2879(2008.10.29)
<皆さんとディスカッション(続x290)>

<SM> 

 大さん(コラム#2875)へ。

 本質をついた素晴らしい質問だと思います。とても考えさせられました。本当は過去の太田コラムを引用しつつ議論するのが一番よいと思いましたが、まずは自分の意見を中心に議論を展開しました。

 (以下、コラム#2877での議論を見ずに書いたことをお断りしておきます。)

 まず、独立の定義ですが、ここでは、自国の安全と繁栄を主体的に追求することだとしましょう。また、ここでいう繁栄とは、主に高い国際的地位と経済的繁栄です(これらは私の意見)。それを踏まえて、集団的自衛権と関係し独立のために必要な条件は、おおむね以下の5つに大別されると思います。少なくとも2-5に関しては国際法上、集団的自衛権の範囲に入るかどうかわかりませんが、集団的自衛権を第一段階として将来的には実現することが必要なことだと思います。質問の趣旨(独立における国際社会への軍事的貢献の重要性ととらえました)からして関係があると判断しました。

1.日米関係を対等にすること(国際社会における自立的地位の獲得)

wikipedia 「自衛権」の項目(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%86%E5%9B%A3%E7%9A%84%E8%87%AA%E8%A1%9B%E6%A8%A9)によると、

 「日本はアメリカに対して日米安全保障条約によらない軍事費負担(思いやり予算等)負っていることから、そういった予算の廃止等を前提に 日本独自の集団的自衛権として、ある国(アメリカ)が急迫不正の攻撃を、実際に受けた場合に限って、これと密接な関係にある国(日本)は、その急迫不正の攻撃に限り、共同して実力を持って阻止できる。といった一定の歯止めのある集団的自衛に関する法律を整備するべきだという意見も出ている。」(おおもとの典拠不明!)

 上記の意見の詳細(歯止めの意味など)はよくわかりませんが、米国との集団的自衛権を認めることで日米安保を相互的で対等なものにすることが、保護国の地位から脱却するための必要最小条件だと思います。

2. 在来型の脅威を軽減すること(安全の確保)

 現下日本は北朝鮮、中共の脅威から、韓国、海洋、在日米軍によって、三重に守られている(コラム#2777の太田さんのコメントを参考)。特に最前線である韓国は、日本にとっても非常に重要である。したがって、韓国軍、在韓米軍に一方的にたよらず、日本が主体的に自国の安全を追求するならば、韓国への日本の軍事的協力が必要である。

3. グローバル化したテロへ対応すること(安全の確保)

 現在におけるテロ活動はグローバル化している。例えば、1995年地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教は、1993年50万エーカーの土地をオーストラリアで購入し、1994年までにサリン神経ガスのテストを29匹の羊に対して行った証拠がある。また、同集団はロシアにおける多くの接触を通して、核兵器を買おうと試みてもいた。("How to build a nuclear bomb", Frank Barnaby, Granta Books, London, p134-136) これらの情報を、国際的な協力関係により事前に察知できなかったことが、地下鉄サリン事件につながったと考えられる。このように、グローバル化したテロを防ぐには諸外国と情報交換が不可欠である。情報交換に応じてもらうためには、多国間と軍事力の行使も含めた安全保障上の協力関係を築いておく必要がある。

4.経済活動を守ること(経済的繁栄の追及)

 現在、日本人は世界中で行っている経済活動を行っている。たとえば、海外における日本人の経済活動の指標の一つと考えられる海外在留邦人数(http://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/tokei/hojin/08/index.html)をみると、平成19年度の海外在留邦人は837,744人(前年度比2%増)、主には欧米、アジア、大洋州などだが、今まで少なかった中東、アフリカでも急増している(それぞれ前年度比15%増)。とくに後者の二地域のように紛争の多い地域での経済活動を守るためには、他国に対する侵害を排除するための行為を行う必要がある。

5.経済力にみあった軍事的国際貢献をすること(国際的地位の向上)

 軍事力を一種の国際公共財ととらえるならば、世界のGDPの8-9%をしめる日本の経済力にみあっただけの軍事的公共財を、国際社会に提供する必要がある。(国内総生産: http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E5%86%85%E7%B7%8F%E7%94%9F%E7%94%A3)しかし残念ながら、現在の日本は海外での戦闘行為が禁じられており、少なくとも日本領土以外では軍事的公共財を提供できていない。諸外国にしてみれば、日本は脱税している金持ちのようなものに見えているに違いなく、これでは国際的地位が上がるはずがない。早急に国際的な安全保障活動に本格的に参加するべきだ。集団的自衛権を認めることはその第一段階に当たる。ちなみに、現在、日本の軍事力への支出は、全世界の4.7%(2001年、上記参考文献"Nuclear ..."より)なので、すくなくともこれを倍程度にしないと、経済規模にあわない。

 以上のそれぞれの条件は、はじめに述べました私の独立の定義から現実的な範囲で導かれる必要条件です。理論的には鎖国して重武装してしまえば集団的自衛権の行使を含む諸外国との軍事的な協力なしに独立できますが、経済、人口規模を縮小しない限りは無理だと思います。永世中立国という手もあるかもしれませんが、それらの国は非常に少数で、かつ特殊な国が多いようです。傾向としては経済的には恵まれている人口の比較的少ない国(スイス、リヒテンシュタイン)、独裁国家(トルクメニスタン)などがあるようです。したがって、やはり日本のような人口、経済規模の自由主義国家で永世中立国をめざすというのは非現実的だと思います。仮にそうしたとしても、上記条件の2,3,4,5は満たせなくなります。そうすると、2,4を米国がある程度保証してくれている保護国の方がよいということになり、結局保護国に逆戻りするのではないでしょうか?しかし、そのときに米国が宗主国を引き受けてくれるとは限りません。永世中立国になることでそのような不安定な状況を選ぶよりは、もっと積極的に国際社会に軍事的な地位を築く方がよっぽど安定的だと思います。 

 最後に、仮に日本が現在の経済規模で安全な永世中立国になれたとしても、結局それは吉田ドクトリンを日本人のちっぽけな自尊心を満足させるために修正したに過ぎず、経済的繁栄のみを追い求め、国際社会で主体的な役割を果たすことを拒否していることには変わりありません。このような退廃的で自主性のない政策を推し進めることで、日本の指導者の資質が劣化し、ひいては国民の精神も退廃する可能性があります。

(永世中立国:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B0%B8%E4%B8%96%E4%B8%AD%E7%AB%8B%E5%9B%BD

<太田>

 大変重厚かつ目配りの効いたお答えですね。
 ありがとうございました。

<michisuzu>

 現代では最終兵器である核兵器も持っていない非核兵器所持国には自衛権を云々する資格すらありません。
 日本が自衛権とか集団的自衛権とかを国際社会でのたまうのであればまず最初に宗主国のアメリカ様と相談の上、核兵器の所持を公式に許可してもらい日本国から直接大陸間弾道弾を設置してからにすべきでしょう。
 盾(核防衛システム)も矛(核兵器搭載ミサイル)も持たないで国際社会で自衛権について演説するのはまるで狂気の沙汰でしょう。
 何故にそれを無視した防衛論議を一生懸命なさっているのか?私にはそれこそ平和ボケとしか映りませんが。
 ちなみに私は民主党支持者ですが、核兵器所有支持者です。

<太田>

 あなたとは、コラム#2168(2007.11.9)で一度、日本の核保有の是非について議論をしていますが、ご納得いただいてなかったようですね。
 今回は、ちょっと角度を変えてお答えしましょう。
 私は、核を管理する主体が増えれば増えるほど、核弾頭の盗難・紛失や核事故や偶発核戦争が起きる可能性が増えることから、核拡散はできるだけ避けるべきだという意見です。

 私は、『実名告発 防衛省』の217〜218頁で、次のように記しているところです。

 「仮に日本が米国からの自立を選択するのであれば、いの一番にやるべきことは、・・・集団的自衛権の行使ができるように・・・<す>ることだ。・・・そうなった暁には、準理論的に言って、日本人はもう一つの選択を突き付けられることになる。核武装を選択するか否かだ。仮に日本が米国とだけ同盟関係を維持するとすれば、日本<人>・・・の命を一つの外国に委ねることはできないから・・・論理的には日本は核武装すべきだろう。・・・しかし、日本が米国を含む多数の自由民主主義国が加盟する同盟に加盟することができれば、日本は必ずしも核武装をする必要はない。それはNATOに加盟しているドイツやスペインが核武装をする必要がないことと同じことだ」と。

 (ここには書いてないことを補足しておこう。
 核武装をした潜在敵国と対峙している状況下において、スウェーデンやフィンランドのように、同盟にすら入らず、核武装もしていない国が存在する。これは、回りに同じ自由民主主義諸国(その中には核武装国が3カ国もある)が加盟する同盟が存在しているので、この同盟に、いわばただ乗りしているわけだ。)

 あなたは冷戦下の例えばトルコやノルウェーに対し、あるいは現在の例えばポーランドに対し、「核を持っていない、ないしは持とうとしていないからお前の国は自国防衛(自衛権)を云々する資格はない」と言い放てますか?
 (なお、ミサイル防衛システムは、現状においては、ロシアや中共の核に対しては、まだほとんど物の役にはたちません(コラム#1135)。また、カナダは米国のミサイル防衛網には入らない決定を下しています(コラム#641)。)

 なお、こういう意見投稿をする時も、できれば典拠をつけてくださいね。
 でもまあ、そんなことはともかく、またの投稿をお待ちしています。

<衆愚>

 <大学のランキングについてですが、>なんだか、サブプライム以降のブラックエブリデイ(笑)の根本原因が格付け機関でそれを利用した金融機関のモラルハザードが問題を大きくした事を考えると金融面以外でも『国際的な格付け』とやらに果たして信用がおけるのかと疑ってしまいたくなります。

<太田>

 ランキングの算出の仕方を理解した上で、うのみにせず、参考にすればよいのだと思います。
 大学のランキングについては、理科系にウェートを置いた学術面だけで算出している上海交通大学のものもありますよ。

 (▲ノーベル賞とフィールズ賞(Fields Medal、数学のノーベル賞)を受賞した卒業生の数(10%) ▲ノーベル賞とフィールズ賞を受賞した教授の数(20%) ▲生命科学、医学、物理学、 工学、社会科学で頻繁に引用される優秀研究者の数(20%) ▲ネイチャーとサイエンスに掲載された論文の数(20%) ▲SCI論文(20%) ▲上記の評価基準をそれぞれの教授陣の数で割った点数の合計(10%)という6つの基準。)
http://www.chosunonline.com/article/20041203000066

 今年9月に発表された2008年版では、日本でベスト100入りしたのは東大(19位)、京大(23位)、大阪大(68位)と東北大(79位)であり、101〜151位に九州大、名古屋大、東京工業大、152〜200位に北海道大、筑波大、201〜302位に広島大、慶應大、神戸大、303〜401位に金沢大、新潟大、岡山大、東京医科歯科大、早稲田大、山口大が入りました。
 なお、私のもう一つの母校であるスタンフォード大学はハーバード大学に次ぐ2位となっています。
http://www.asahi.com/edu/news/TKY200809100287.html
(9月11日アクセス)

 ノーベル賞(とフィールド賞)のウェートが高すぎるという点はさておき、客観的ランキングだと言えるでしょう。
 慶應と早稲田の惨状がよりはっきり露呈していますね。
 
<bbkz>

≫artは、芸術と技術を括った概念だけど、芸術の方にウェートのある概念だと私は思います。≪(コラム#2875。太田)

 現在の一般的な用法に限るならば、その点に異論はまったくありませんが、すべての用法において、常に芸術のほうにウェイトが置かれているわけではないと思います。
 (例えば、派生語である、artifactやartificeには芸術というニュアンスはありません。)

 仮にビスマルクが、政治は芸術だと言ったとするならば、ビスマルクは自身のことを芸術家だと考えていたのでしょうか?
 それよりはむしろ、自らの意図することを実現させるための技術だと考えていたのではないでしょうか?

<太田>

 最初からそうすべきだったのですが、われわれは、英語のartではなく、ドイツ語のKunst(コラム#2873)なる概念について考察すべきでしょう。
 ドイツ語ウィキペディアによれば、Kunstのジャンルとして、

視覚Kunst:Grafik(絵画)、 Bildhauerei(彫刻)、Architektur(建築)
舞台Kunst:Theater(演劇)、Tanz(舞踊)、 Filmkunst(映画)
音楽   :Vokalmusik(歌唱音楽)、Instrumentalmusik(楽器音楽)
  文学 :Epic(物語)、 Drama(戯曲)、Lyrik(詩)

があげられているので、Kunst はまさに日本語の「芸術」とほぼイコールであることが分かりますよ。
http://de.wikipedia.org/wiki/Kunst

<SF>

 コラム#2869における<太田さんの>コメント、ありがとうございました。遅くなりすみません。
 まず優先順位についてですが、すみません、やはり私には何に対する優先順位なのか理解できませんでした。私は優先順位とは施策に対するものかと思っておりましたが、太田さんは不良債権の買い取りと金融機関への資本注入とを同列視する考え方を指しているように読めました。どうにも鈍くてすみません。
 後段の大前氏の基本的認識については、よく納得できました。彼の専門外だから見えていない(気にしていない)のかどうなのかはわかりませんが、なるほどお示しの観点からの検討が尽くされていない提言だったわけですね。
 また、挙げられていた東京新聞の記事は確かに面白いですね。一方で、国内の景気対策関連のニュースを見ると、国益の観点から論じたものをなかなか見つけられずにいます。業界益や既得権者益、特定団体益がすけてみえる提言はよく見かけるのですが。
長々と門外漢の書き込みにコメントいただきありがとうございました。

<SATO>

 今頃名乗りを上げるのは、遅いでしょうか。
 もしよろしければ、<今度のオフ会で>以下のテーマで発表させていただけますか?
「日本アニメの独創性について」
 いささか、場違いな話題のように思えるかもしれませんが、その内容は、太田さんが追求しているところと、深いところで重なりあっているものだと考えてます。
 日本のアニメが、作家が意図しているところとは別に、無意識に前提にしてしまっているものを分析してみた試みです。

<太田>

 それは面白い。MSさん、恐縮ですが、予定の組み替えをお願いします。
 当日の質疑応答等を踏まえ、後日、コラムにしていただけるとありがたいですね。
 なお、オフ会出席予定者数は、1次会:15〜16名、2次会が14名(いずれも私を含む)ですが、もう出席希望者はいらっしゃいませんか?

--オフ会次第--

 1次会: 11月1日(土) 午後1時から5時
     会費500円
     於 「日本橋公会堂」第一洋室※
      http://www.city.chuo.lg.jp/sisetugaido/horu/nihonbasikokaido/
      アクセス:http://www.usknet.com/seminar/nihonbashi_kokaido.htm
      (東京駅からだと、東京メトロ丸ノ内線で大手町、大手町か
       ら東京メトロ半蔵門線にのりかえ水天宮前でおり、乗車と
       徒歩を入れて全15分程度です。)
      ※ 出版されたばかりの拙著(共著を含む)をお持ちの方は
       持参されることをお勧めします。

 2次会: 同日 午後5時過ぎから2時間半
     会費2,800円(食事+生ビール1杯※)
     於 「居酒屋 せっつ」(東京メトロ銀座線日本橋駅徒歩1分)
      http://g.pia.co.jp/shop/23362

      ※:1. 追加注文は自己負担です。
        2. サワー(一杯200円)ソフトドリンク(ウーロン茶
         一杯220円)の選択も可能です。
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太田述正コラム#2880(2008.10.29)
<米軍最高司令官としてのリンカーン(その1)>

→非公開