太田述正コラム#2768(2008.9.3)
<読者によるコラム:あるコサックの死/付:読者の声>

 (これは、消印所沢さんによるコラムです。)

 どうも最近,当方の「コサック・スイッチ」がonに
なったようで,コサック関連の本ばかり読んでいる.

 このスイッチonのきっかけとなった酒井裕著『コサックの
旅路』(朝日新聞社)だが,その中に,「エレーナ」という
タイトルの1章があって,これが興味深い.
 少々アレンジを加えて紹介してみたい.

 エレーナはごく平凡なロシア人主婦.
 夫の名前はゲンナジー・コトフ.
 空挺軍リャザン軍事大学を中退後,原発機器工場従業員.
 工場内の共産党新聞の記者であり,コムソモール
(共産主義青年同盟)のリーダーとして,市の代議士に
なったこともある.
 2人の生活は,ソ連という枠の中では順調であるかに
見えた.

 だが,1993/2/9,彼は死亡する.
 彼が死んだのは,エレーナが新聞でしか聞いたことのない,
ボスニア・ヘルツェゴビナという場所だった.

 なぜそんな場所で?


 その頃ゲンナジーが,工場をやめ,フリーの
ジャーナリストとして戦場を渡り歩いていたことは,
エレーナも知っていた.
 不在がちな夫と,そのことで口論したりもした.
 でも,まさかボスニアとは……

 やがてその地域のコサックの本部から情報がもたらされた.
 ゲンナジーは,90年になってコサックの復古運動が
始まると,彼はその運動に没頭するようになっていた.
 その情報によれば,ゲンナジーは狙撃されて死亡し,
その地で埋葬されたという.

 エレーナは大変な苦労をして,その地,
ヴィシェグラードに向かった.
 自分のその目で遺体を見るまでは,彼の死を信じることが
できなかったからだ.

 ヴィシェグラードのセルビア人たちは,彼女を暖かく
迎えた.
 彼らは言った.
 ゲンナジーは,セルビアのために命を落とした英雄だ,
と.
 セルビア兵たちは言った.
 ゲンナジーの戦闘能力の高さはズバ抜けていた,と.
 ゲンナジーのボスニア・ヘルツェゴビナ紛争での「顔」が
ようやく明らかになってきた.
 彼はコサック義勇兵を指揮する小隊長だった.

 それはどうやら,それ以前のナゴルノ・カラバフ紛争など
でも同じだったようだ.
 いつからそうなったのかは分からない.
 しかし間違いなく,ある時期から彼は
戦場ジャーナリストではなく,義勇兵として参戦していた.
 他の多くのコサックが義勇兵として参戦していたのと
同じように.
 でも,なぜ?

 参戦中,彼らに払われる給料は僅かなものだったという.
 コサックたちは,金が動機ではないことを強調する.
 彼らにとってはロシアを守る戦いこそが
アイデンティティなのだという.

 コサックは冷戦時代,弾圧の対象だった.
 コミュニティは解体され,コサック指導者は抹殺され,
歴史資料は焼却された.
 ロシア革命に協力したコサックもいたにかかわらずである.
 その自由な気風をソ連当局は恐れたのだろうと,同書では
推測している.
 ゲンナジーも,自分がコサックの血統であったことを
それまで知らなかったという.

 冷戦後,コサックはようやく復活したが,抹殺期間が
長かったため,伝統は完全に途絶えており,欧米に残る
資料を頼りに,幾多の試行錯誤が続いているという.
 ゲンナジーにとっては,そして他のコサックたちに
とっても,戦いはあいまいなアイデンティティーを強固な
ものにする,唯一の手段だったのかもしれない.

 チェチェンでも,そして2008年の
グルジア・ロシア紛争でも,コサックは参戦したという.
 これからも,多くの「ゲンナジー」たちが戦い続けるに
違いない.
 コサックとは何か?
 アイデンティティーとは何か?
 この問いへの答えを求めて.
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<読者KMT>

 チャンネル桜の「**移民政策」をyoutubeで視聴しました。太田さんが他の論者と大きく対立しているにも拘らず、徴兵義務を移民受け入れの条件にされたのには驚きました。シナ、朝鮮人がノーベル賞に値する文化の多様性の貢献したり、戦前のように大日本帝国の徴兵に応ずると期待されているのでしょうか。
 村山事件への取組みやアングロサクソン論には敬意を表して購読させていただきます。よろしくお願いいたします。

<太田>

 私の移民論に抵抗感を覚える方は多いですねえ。
 「民族」の違いに敏感な方々が日本には多いということを痛感していますが、そのような立場に立つと、今回のグルジア「戦争」についても、南オセチアはグルジアとは民族的に異なる以上、その分離独立なり、ロシア内の北オセチアと合邦してのロシア内の自治共和国化なり、を支持しなければならない、という結論になるでしょうね。

<読者KY>

 太田述正コラム#2762を読みました。

≫3 欧米が反省すべき点? いくらロシアが度し難いとは言っても、もう少し欧米諸国、就中米国が対ロシア政策に配意すべきだったのではないか、という議論が米英で起きています。≪

 似た様な話ですが、こんなのもあります:
http://buchanan.org/blog/2008/08/pjb-blowback-from-bear-baiting/

 保守派のアメリカ人からこういう視点が提示されるのは非常に興味深いものがあ
ります。

<太田>

 パット・ブキャナン(Patrick Buchanan)は、コラム#2509で紹介されているように、米国にとって先の大戦もまた、必ずしも正戦ではないと主張している人物であり、そのグルジア{戦争」についての言にもまた、真剣に耳を傾ける必要があるでしょうね。
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太田述正コラム#2769(2008.9.3)
<読者によるコラム:硫黄島の戦いと黒人兵士>

→非公開