太田述正コラム#2601(2008.6.10)
<オバマ熱の欧州とアングロサクソン論>(2008.8.5公開)

1 始めに

 イギリスはアングロサクソン文明、欧州諸国は欧州文明、米国はアングロサクソン文明を基調とし、それに欧州文明が加わったキメラ的文明、という文明観を抱くと、今回ご紹介する、欧州におけるオバマ熱に関する米国人の手になる二つのコラムが良く理解できる、というお話をしたいと思います。

2 二つのコラム

 (1)ニューヨークタイムス

 「フランス人から見て・・・この何十年というもの、良い米国人とされたのはケネディ大統領と(彼女のエレガンスに欧州人がしびれた)ジャクリーヌ夫人、(欧州的都会性と機知の持ち主)ウッディ・アレン、(イラク戦に反対する欧州的激情の持ち主)マイケル・ムーア、それに(欧州的環境主義者たる)アル・ゴアだった。
 しかし現時点において、フランス人から見て良い米国人と言えば、それは米民主党大統領候補になったバラク・オバマだ。彼の著書『希望の大胆さ』はベストセラーになっている。彼の顔にあらゆるところで出っくわす・・・。
 インターネット上にオバマ支援サイトが設けられているが、ファッションデザイナーのソニア・リキエル、バリ市長のベルトラン・ドゥラヌー、作家・哲学者のベルナール・アンリ・レヴィ、故イヴ・サン・ローランの共同経営者のピエール・ベルジュらが名を連ねている。<しかし、フランスの>都市郊外に大勢住んでいるアフリカ人やアラブ人達は、国会議員555名中黒人がたった1名しかいないという政治システムに対して広範な不信を念を抱いている。彼らからすれば、オバマは都市伝説といったところか。少なくともフランスでは、オバマにいかれている<多数の>人々とオバマを醒めた目で見ている<少数の>人々に分かれている。
 オバマ熱に取り憑かれているのはフランスだけではない。ドイツのオバマ熱だって優るとも劣らない。・・・」(
http://www.nytimes.com/2008/06/09/opinion/09cohen.html?ref=opinion&pagewanted=print
。6月10日アクセス)

 (2)スレート誌

 「ドイツでは、・・・現在オバマニア(Obamamania)とでも言うべき現象が起こっている。ドイツのメディアは、この米民主党大統領候補者を・・・あたかもジョン・F・ケネディとマーチン・ルーサー・キングの間に置かれたキリスト(cross)のように見ている。ドイツの外相は「<オバマ由来の>イエス・アイ・キャン」が口癖になってしまったし、ベルリンのヒッピー地区ではオバマTシャツを着た人が結構いる。このようなオバマに対する熱情は、ドイツだけでなく、英国、フランスでも見出すことができる。・・・
 <ここで忘れてはならないのは、>人種差別は米国だけの現象ではない<ということだ>。
 欧州とアジアにおいて、少数民族の置かれた状況は米国よりもはるかにひどい。そもそも、米国と<欧州と>では社会が色んな意味で全く違うのだ。
 欧州各国における非白人たる住民達は最近の移民であり、奴隷の子孫ではない。・・・ ・・・少なくとも言えることは、非白人たる政治家が欧州では<米国と違って>圧倒的に少ないということだ。・・・
 オバマに関する情熱的な見だしの裏に何が隠れているかについてのヒントが先週、オバマニアックなドイツで現れた。ベルリンの新聞のディー・ターゲスツァイトゥング(Die Tageszeitung)がホワイトハウスの写真を「バラクおじさんの小屋(=Uncle Barack's Cabin。ストウ(Harriet Beecher Stowe)著'Uncle Tom's Cabin'(1852年)をもじったもの(太田))という見だしとともに掲載したのだ。同紙編集部は風刺目的だとしているが、同じ新聞が現在の米国務長官を「トムおじさんのライス」とあてこすったことがあることから考えると、連中が「トムおじさん」の含意の汚さを百も承知していることは明らかだ。
 外国人達がオバマの外交経験の乏しさを心配し始めた時も注意した方がよい。一見これは全くもって正当な心配ではあるけれど、私はこの種の議論に人種差別的底意を感じ取ることがある。つまり。「黒人に欧州・中東・南アジアの政治が分かるものかねえ」と連中が言っているように見える時があるのだ。・・・」(
http://www.slate.com/id/2193219/
(6月10日アクセス。)

3 解説

 この二つのコラムは、要するに、アングロサクソンの中では最も人種差別的な米国を恥ずかしく思っている米国の有識者達が、欧州諸国はもっと人種差別的であることを指摘することで溜飲を下げているものである、と考えればよいのです。
 ちなみに、この二つのコラムに、フランスやドイツが人種差別的であるという話は出てきても、英国(イギリス)が人種差別的であるという話が出てくるわけがありません。
 元祖アングロサクソンたるイギリス人は、自分達の文明について絶対的な優越感を抱いているものの、アングロサクソン文明は人種を超越した文明であることから、彼らは人種的な優越感(その裏返しが人種差別感)など抱いてはいないからです。
 なるほどこの二つのコラムはそんな風に読めるな、と思われ始めていませんか。
 私のアングロサクソン論になじみのない方は、これを機会に私の過去のアングロサクソン論関係コラムにぜひ目を通してみてください。