太田述正コラム#2587(2008.6.3)
<凋落した米国>(2008.7.5公開))

1 始めに

 ここのところの米国の凋落ぶりは痛々しいほどです。
 しかし、凋落しつつあるのは米国だけではありません。
 先進自由民主主義諸国全体が凋落しつつある、と考えるべきではないでしょうか。
 
2 米国の凋落ぶり

 (1)米アフリカ軍構想の蹉跌

 石油等の資源の豊富さ、中共の進出、イスラム原理主義テロリストの跳梁から、アフリカは世界の戦略的要衝になりつつあります。
 そこで、米国は、太平洋軍や中央軍と並ぶ地域統合軍であるアフリカ軍を10月1日付で創設することとしました(コラム#1683)。
 しかも、米国は一大実験を試みようとしました。
 主として国防省と国務省、そして他の全省庁の要員を網羅した統合軍をつくって、米国のハードパワーとソフトパワーを総合的に駆使しつつ、アフリカの平和を確保し開発を推進し人道的支援にあたらせようとしたのです。
 米国が、新しいコンセプトを生み出す力は衰えていないし、覇権国としての矜持を依然抱いていることがよく分かります。
 しかし、御多分に洩れず、米国は外国のことがさっぱり分かっていません。
 案の定、南アフリカとナイジェリアを双璧とするアフリカ諸国から、新植民地主義であると大反発を受けました。
 これまでだと、それでも強引に企画したことは実施に移すことができたのが米国だったのですが、本件では蹉跌してしまいました。
 まず、司令部をアフリカに設けることを断念せざるをえなくなりました。(2月にブッシュ大統領がアフリカ諸国を訪問して根回しをしたにもかかわらず、事前に内々司令部受け入れの感触を得ていたリベリアにまで逃げられてしまいました。)
 また、米国の資金が入っている援助諸団体は、米軍がアフリカ諸国軍の訓練や連絡調整業務以外に開発や人道的支援に携わることに拒否反応を示しました。
 結局、これまで設立準備作業を行ってきたドイツのシュトゥッツガルト(Stuttgart)を司令部として、司令部要員も予定の1,300人どころか、国防省要員以外の要員を圧縮することとし、しかも当面たった50人でアフリカ軍は発足することになってしまいました。アフリカ軍は、アフリカに5箇所拠点を設ける計画ですが、これも目途が立っていません(注1)。
 (以上、
http://www.csmonitor.com/2008/0516/p03s03-usmi.html  
(5月16日アクセス)、及び
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/05/31/AR2008053102055_pf.html  
(6月1日アクセス)による。)

 (注1)過去7年間にわたって、ブッシュ政権は、アフリカ諸国への援助を3倍以上に増やし、年90億米ドルにした。その半分近くはエイズの予防と治療にあてられている。
米軍によるアフリカ諸国の軍隊の訓練も拡大されてきている。米軍は人道的支援も行っており、井戸を掘ったり、学校を建設したり医療サービスを提供したりしてきた。アフリカ軍の初年度予算要求額は約4億米ドルだ。 なお、福田首相が、横浜で開催された第4回アフリカ開発会議(TICAD4)で5月30日、アフリカ向け政府開発援助(ODA)と日本の民間直接投資の倍増等を打ち出した(
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/080530/plc0805301110010-n1.htm
。6月3日アクセス)のは、宗主国米国のご意向に従ったということだろう。

 (2)中東でお呼びでなくなった米国

 ブッシュ政権は、発足以来パレスティナ和平を7年近くほったらかしていましたし、イスラエルがシリアと(2000年に行われた)平和交渉を再開することにも異を唱えてきました。
 その一方で同政権は、リビアとは交渉して交渉が妥結し、北朝鮮とも交渉しています。イランとも接触を試みています。
 いわば、米国はやりたい放題のことをやってきたのであり、特に中東ではそれが通ったわけです。
 しかし、最近に来て、中東で米国はすっかり蚊帳の外に置かれるようになっています。 例えば、5月21日には、カタール(Qatar)が仲介して内戦直前だったレバノンで、政府とヒズボラの間で(ヒズボラが閣議決定に拒否権を持つという条件で)話がまとまりましたし、トルコが仲介してイスラエルはシリアと平和交渉を始めていますし、エジプトが仲介してイスラエルは間接的にハマスと交渉を行い始めているのです。

 (3)どうしてそんなことになったのか?

 どうしてそんなことになったのでしょうか。
 米国がイラクに足を取られていることに加えてブッシュ政権が任期切れ近くになっていることが挙げられますが、より根本的な原因は、米国の国力の相対的な減衰にある、と考えられています。

 (以上、
http://www.nytimes.com/2008/05/23/opinion/23fri1.html?ref=opinion&pagewanted=print 
(5月23日アクセス)、及び
http://www.csmonitor.com/2008/0603/p01s07-usfp.html
(6月3日アクセス)による。)

3 先進自由民主主義諸国の凋落

 米国は、戦後一貫して世界の覇権国であったわけですが、その担保となっていたのは米国の国力だけではなく、米国を筆頭とする先進自由民主主義諸国全体の国力でした。
 ところが、この先進自由民主主義国全体の国力が、相対的に急速に減衰しつつあるのです。
 しかも、先進自由民主主義国以外で最も急速に国力を伸張させつつあるのが、非自由民主主義国たる中共であることから、米国を筆頭とする自由民主主義諸国の自由民主主義の持つソフトパワーにも陰りが生じているのです。
 若干の数字を挙げましょう。
 昨年の経済成長率は、米・日・ユーロ圏で1.3%であったのに対し、高度経済成長発展途上諸国(=emerging markets。
http://en.wikipedia.org/wiki/Emerging_markets
(6月3日アクセス))は6.7%でした。
 主として発展途上国で産出される天然資源の価格が急速に上昇していることがその一因です。
 また、高度経済成長発展途上諸国による企業合併や買収は昨年17%増えて2,180億米ドルとなり、残りのすべての国のそれは43%減って9,910億米ドルになりました。
 (以上、
http://www.csmonitor.com/2008/0603/p01s07-usfp.html
http://www.nytimes.com/2008/06/02/opinion/l02cohen.html?ref=opinion&pagewanted=print
(どちらも6月3日アクセス)による。)

4 コメント

 どうやら世界は、米国の覇権国時代を経て、再び19世紀末から20世紀中頃までの、戦前の時代に戻りつつあるようです。
 すなわち、当時は、自由民主主義国たる英国が覇権国の座から降りる一方で、もう一つの自由民主主義国たる米国はいまだ覇権国たりえておらず、様々な国体の列強が競い合う時代であったところ、世界は再び列強が競い合う時代を迎えようとしているのではないでしょうか。(クリスチャンサイエンスモニター上掲を参考にした。)
 戦前は、自由民主主義列強が、米英と日本に分裂するに至ったため、非自由民主主義列強の逸脱行動が制御されず、その結果、全世界が悲劇に見舞われました。
 今度はこんな愚を繰り返してはならないのであって、米英と日本、そしてインド、更にはブラジルといった(現在及び近未来の)自由民主主義列強が中心となって、国連を補完する自由民主主義連合的な機構を構築することによって、非自由民主主義列強の逸脱行動を制御するとともに、世界の平和と繁栄を確保することが望まれます。
 米国の国力の相対的減衰のスピードは速く、米国一国ではどうしようもなくなる時期が迫っています。
 ですから日本は、これ以上米国の属国として惰眠を貪っていることは許されません。
 日本の一刻も早い自立が求められているのです。