太田述正コラム#2583(2008.6.1)
<クラスター爆弾報道に思う>(2008.7.3公開)

1 讀賣と産経の記事

 (1)讀賣

 「クラスター爆弾は、内蔵する多数の子爆弾を空中で散布し、広範囲に地上を攻撃する爆弾だ。費用対効果が大きい反面、海外では多くの民間人が不発弾の被害に遭っている。近年、禁止を求める国際世論が急速に高まった。・・・条約案は、「子爆弾9個以下」「自爆装置付き」「目標識別能力付き」などの条件を満たす最新型の爆弾を除き、禁止対象とした。全面禁止に近い内容だ。・・・米国、中国、ロシア、韓国、北朝鮮などは、ダブリン会議に参加しておらず、クラスター爆弾に関して何の規制も受けない。・・・条約案は、参加国の圧倒的多数が推進した。内容面で多少不満があっても、人道上や軍縮推進の立場から、日本が同意を決断したのは、妥当な判断だろう。日本は12月に条約案に署名する方針だ。これに伴い、条約が発効すれば、自衛隊の保有する4種類、総額276億円分の爆弾を8年以内に廃棄する義務を負う。廃棄と代替兵器導入には総額数百億円を要するとも見られている。・・・条約案の対象外となる目標識別能力付き最新型爆弾は、ピンポイント攻撃には適しているが、広い範囲を攻撃し、「面を制圧する」ことはできない。島国の日本にとって重要な、敵部隊の上陸を阻止する効果は小さいという。完全な代替兵器を探すのは簡単ではない。米軍との防衛協力を含め、戦術面の見直しなども検討する必要があるかも知れない。」(
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20080531-OYT1T00709.htm
。6月1日アクセス)

 要するに、讀賣はしぶしぶ賛成というわけです。

 (2)産経

 「・・・日本の平和と安全が確保できるのかどうか。日本はこれまで、侵攻してきた敵を海岸線で撃退する防御兵器として保有してきた。万一の場合、海岸線が長くて離島の多い日本にとってはほとんど唯一の有効な兵器だ。条約により自衛隊の保有分はすべて禁止の対象となるが、冷戦が色濃く残る北東アジアで、あらゆる事態に対処できる軍事的能力を日本だけが持たないという危うい構図が出現する。・・・ 一方で条約加盟国は非加盟国との「軍事協力・作戦に関与できる」との条文が追加された。米軍がクラスター爆弾を使用する可能性のある日米共同作戦への自衛隊の参加・協力は可能となる。米軍の抑止機能が一応確保される。・・・英国などが賛成に転じたことも日本の判断に影響を与えたようだが、日本が置かれている厳しい安全保障環境を考えれば、別の選択肢もあったはずだ。」(
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/080601/plc0806010332001-n1.htm
。6月1日アクセス)

 つまり、産経は反対しています。

2 事実関係の補足

・世界中で、子爆弾を含めれば数十億個のクラスター爆弾が、75カ国で保有されています。
・24カ国を調査した慈善団体の2006年の報告書によれば、これまで11,000人がクラスター爆弾で死傷しており、その98%が一般市民です。ここから、全世界では最大10万人の死傷者が出ていると推計されています。
 (ただし、米国の調査によれば、2006年に不発弾により15,000人の死傷者が出ているところ、そのうちせいぜい5%しかクラスター爆弾によるものではありません。)
・5月30日にダブリンでの国際会議で111カ国がクラスター爆弾禁止(=Cluster-Bomb Ban。8年間かけて保有数をゼロに持って行く)に賛成しました。
・合意形成の決定的契機となったのは、英国が28日に禁止賛成に転じたことです。
・米国、ロシア、中共、イスラエル、インド、パキスタン、といったクラスター爆弾の主要生産国ないし使用国は禁止に反対しています。
・このうち米国が同爆弾の最大の生産国であり、保有国であり、使用国であり、これまでユーゴスラビア、アフガニスタン、イラク等で同爆弾を使用してきました。ただし、この5年間米国は同爆弾を使用していません。
・このほか、同爆弾を使用してきた国・組織としては、英国、フランス、スーダン、NATO、イスラエル、ヒズボラがあります。
・しかしこの禁止は、1997年における地雷禁止同様、クラスター爆弾禁止に反対している国にも大きな影響を及ぼすと考えられています。
 実際、禁止議論が起こっただけで影響は生じています。米国は既にクラスター爆弾の輸出を停止しています。(子爆弾の99%以上が爆発するか無効化することができないクラスター爆弾の輸出を停止したが、現時点ではまだそのようなクラスター爆弾が存在しないので、事実上輸出は全面停止されている。)また、NATOはアフガニスタンでの同爆弾の使用を自粛しています。

3 英米の主要メディアの論調

 英米の主要メディアで日本の讀賣や産経のような寝ぼけたことを言っているところはありません。
 英ガーディアンは、かねてより、英国の9人の元英(統合)参謀長や司令官達がクラスター爆弾禁止を訴えてきたことを紹介しつつ、ブラウン政権に同爆弾禁止を呼びかけてきました。
 そして、同政権が、英国防省内の一部の反対を押し切って禁止に転じるや、この爆弾が兵士より一般市民をより多く殺害してきたこと、爆弾投下地域を何年も危険に晒すことを指摘しつつ、同政権の決断を褒め称えました。

 また、米ワシントンポストは、「111カ国マイナス米国、クラスター爆弾禁止に合意」と米国政府のスタンス批判を示唆する見出しの記事を掲載しました。
 米ニューヨークタイムスは明快です。
 同紙は、米大統領候補者達のこの条約に対する姿勢は明かではないが、誰が次の大統領になるにせよ、ブッシュのこの条約に署名に反対する姿勢を撤回すべきだ、という論説を掲げたのです。

 (以上、
http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2008/05/29/2003413191
http://commentisfree.guardian.co.uk/john_wilton/2008/05/our_terrible_legacy.html
http://www.guardian.co.uk/uk/2008/may/28/military.defence1
(いずれも5月29日アクセス)、
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-cluster29-2008may29,0,1651342,print.story
(5月30日アクセス)、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/05/28/AR2008052802011_pf.html
http://www.nytimes.com/2008/06/01/opinion/01sun1.html?ref=opinion&pagewanted=print 
(どちらも6月1日アクセス)による。)

4 感想

 日本の「右」を代表する主要メディアである讀賣と産経の主張は無惨としか言いようがありません。
 「島国の日本に・・・敵部隊の上陸」(讀賣)、あるいは「侵攻してきた敵を海岸線で撃退<しなければならないという>・・・万一の場合」(産経)などありえないことを、これらの社説や記事を書いた記者の諸君は知らないのでしょう。
 日本列島に対する本格的な武力侵攻の可能性あり、という大ウソを政府(防衛省(庁))がつき続けてきたことの罪は大きい、と改めて痛感します。
 それにしても戦後一貫して、日本は英国と軍事地政学的にほぼ同じ立場にある、ということくらい、上記2紙の記者諸君は、自分の頭で考えられないのでしょうか。