太田述正コラム#2555(2008.5.18)
<ミヤンマーに人道的介入?(続)(その2)>(2008.6.22公開)

3 人道的介入反対論

 もちろん、ミャンマーに対する人道的介入に反対する意見もあります。

 ガーディアン掲載のコラムで、ティスドール(Simon Tisdall)は、人道的介入に関するブレア首相(当時)のいわゆるシカゴ・ドクトリン(1999年4月23日)に言及しつつ、ブレアがこのドクトリンに基づき、シエラレオネと東チモールに介入したところまではよかったけれど、コソボ介入には問題があり、スーダン介入は成功したとは言えず、(人道的目的だけではなかった)イラクでは大失敗だったと指摘します。
 しかも、人道的介入とは全く言えないけれど、イスラエルによるシリアの「核」施設の爆撃や米国によるソマリアのイスラム系戦闘員の爆撃が、米国によるイラン攻撃の前触れとして懸念されている昨今、国際世論は人道的介入と言えども、武力介入には懐疑的たらざるをえないし、そのことをミャンマーの軍政当局も熟知しているからこそ平気で頑なな態度をとっているのだと彼は続けます。
 (以上、
http://www.number-10.gov.uk/output/Page1297.asp
(5月18日アクセス)、及び
http://commentisfree.guardian.co.uk/simon_tisdall/2008/05/the_uses_and_abuses_of_intervention.html
(5月13日アクセス)による。)

 同じくガーディアン掲載コラムで、リーチ(Kirk Leech)は、ミャンマーが隣接する中共、インド、タイ、シンガポールの援助をもっぱら受け入れているのは、中共とインドとは港湾の整備や天然ガスの輸出で、またタイとは材木の輸出等で、更にシンガポールとは軍政当局の幹部のための銀行業務等で協力関係にあるのに対し、欧米諸国(その援助団体を含む)の多くが援助に様々な条件を付けることで、ミャンマーの体制変革をねらっているのがミエミエだからだ、と指摘しています(
http://commentisfree.guardian.co.uk/kirk_leech/2008/05/aid_with_strings.html
http://www.nytimes.com/2008/05/14/opinion/14kaplan.html?ref=opinion&pagewanted=print 
(どちらも5月15日アクセス))。

 更に、ニューヨークタイムス掲載コラムで、カプラン(ROBERT D. KAPLAN)は、人道的介入の結果、万一ミャンマーの体制変革がもたらされた場合、その後の面倒を見なければならない羽目に陥るので避けるべきだと主張しています(NYタイムス上掲)。

 そして、またもやガーディアンですが、掲載コラムでジェンキンス(Simon Jenkins)は、米国や英国は、人道的介入にせよ単なる介入にせよ、石油、麻薬、イスラム教、果てには「体制変革」と称して腕っ節を見せびらかす目的では、国連のお墨付きが得られない場合でも、あらゆる国際法的理屈をこねてこれらを正当化するというのに、何十万人もの人命を救う段になると、突然、人道的介入はジェノサイドとか民族浄化といった「人道に対する罪」の場合にのみ許されると言い出す連中が続出するとし、それなら、やはり昔に戻って、国家主権を侵すところの、内政干渉目的の軍事介入は一切認められないとことにした方がよかろう、と皮肉たっぷりな指摘を行っています(
http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2008/05/16/2003412069
。5月16日アクセス)。

4 悪化する状況

 しかし、この間もミャンマーの状況は悪化の一途を辿っています。
 サイクロン・ナルギス(Nargis)が5月2日にミャンマー沿海地方を襲ってから2週間経ちましたが、16日現在の軍政当局の発表によっても、死者は77,738人、行方不明は55,917人に上っており(
http://www.guardian.co.uk/world/2008/may/17/cyclonenargis.burma2
。5月18日アクセス)、約160万人が飢餓と伝染病の危険に直面しています。
 これらの三分の一は子供達です。
 しかも生き残ったこの約50万人の子供達は、ブローカーによって(場合によっては10歳くらいでも)軍に強制入隊させられたり、売春婦にされたりする懼れが囁かれています。
 (以上、
http://www.nytimes.com/2008/05/17/world/asia/17burmese.html?ref=world&pagewanted=print
(5月17日アクセス)による。)

 それなのに、軍政当局は、国連や欧米諸国からの援助はほんの少ししか受け入れようとせず、しかも受け入れた援助は横流ししたり軍にだけ配分したりしています。
 援助物資中、高価な欧米製の蚊帳や毛布は中共南部で売りに出され、軍部や軍部関係者はほくほく顔だといいます。
 しかも軍政当局は、ミャンマーの国民による援助活動すら、軍を通して行わせようとしています。 
 そういう中で、昨年9月の僧侶等のデモの際にデモ隊側に立って活躍した俳優(Kyaw Thu)やコメディアン(Zaganar)や、僧侶達が援助活動に尽力しています。
 軍部は、人道的危機ではなく安全保障上の危機に直面しているという認識であり、被災者は囚人のように扱われていて、にわか仕立ての収容所に収容され、外出も外部者との面会も許されていません。
 しかも、仏教徒たるビルマ族が優先的な援助対象とされており、他宗教の信徒や他民族は後回しであり、とりわけイラワジ河デルタ地帯で大きな割合を占めているカレン族を迫害する意図が見られます。
 (以上、
http://www.atimes.com/atimes/Southeast_Asia/JE17Ae01.html
(5月17日アクセス)、及び
http://www.time.com/time/world/article/0,8599,1807334,00.html
(5月18日アクセス)による。)

5 再び高まる人道的介入論

 当然と言うべきか、再び人道的介入論が高まっています。

 これまで慎重だったブラウン英首相も、17日、「これは非人道的だ。われわれは自然災害によって生み出された耐え難い状況に直面している。不作為によってそれは人的惨禍へと転化させられた。作為を怠り、国際社会が行おうとしていることを拒否する軍政当局によってミャンマーの人々は放置され非人間的扱いを受けている。全責任は軍政当局にあり、彼らはその責めを負わなければならない」と述べ、いかなる手段も排除しないとし、空中からの援助物資投下を示唆しました。
 (以上、
http://www.guardian.co.uk/world/2008/may/18/cyclonenargis.burma
(5月18日アクセス)、及び
http://www.guardian.co.uk/world/2008/may/17/cyclonenargis.burma2
前掲による。)

 また、フランスの国連大使は、軍政当局が、被災者に援助物資を届けることを拒否しているのは「人道に対する真の罪を構成することになるかもしれない」と警告しました(
http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/7405998.stm
。5月18日アクセス)。

 一貫して人道的介入を訴えているアジアタイムスは、米国がその軍事力を人道的介入に用いるべき機会があるとすれば、それはまさに今、ミャンマーに対してだ、と改めて論説で訴えました(
http://www.atimes.com/atimes/Southeast_Asia/JE17Ae01.html
前掲)。

 ミャンマーに対して米英仏が協調的に人道的介入を行う時が刻々と迫ってきています。

(完)