太田述正コラム#2612(2008.6.16)
<皆さんとディスカッション(続x166)>

<読者A>

http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/080616/crm0806160921004-n1.htm
 すでにご存じかと思いますが、台湾が巡視船10隻+抗議船1隻で尖閣諸島領海に進入、本島ぐるっと時計回りをした後(最近は島から1km?)で領海にでましたが、保安庁が警告と進路妨害だけにとどめたのは妥当でしょうか?
 さらに二日後には議員を乗せてキッド級駆逐艦まで出そうとしてるようです。
 領海侵犯があった場合も含めてどういう対応が適切かよろしければ教えてください。

<太田>

 「16日午前5時50分ごろ、沖縄県の尖閣諸島・魚釣島沖で、台湾の遊漁船「全家福(チェンチャーフー)6号」と巡視船5隻が相次いで日本の領海内に侵入した。海上保安庁の巡視船が領海外に退去するよう警告。遊漁船と巡視船3隻は同8時36分に領海外に出た。」(
http://www.asahi.com/national/update/0616/TKY200806160003.html
。6月16日アクセス(以下同じ))ということのようですね。
 日本の領海内であっても台湾の艦船には「無害通行権」が認められていますが、これは、沿岸国に脅威を及ぼさない限りにおいて認められているものです(海洋法条約17、19条)。
 すなわち、停船は遭難者を助けるなどの必要に迫られた場合だけに限られ、迅速に通過することが義務づけられている(同条約18条)ことからすると、3時間近く領海内とどまったことは無害通航とは言えそうもありません。

 (以上、海洋法条約については
http://www.soyokaze-law.jp/82.htm
による。)
 とはいえ、相手は公船であり、武器も搭載していると考えられることから軍艦とみなすことができ、日本は「国際紛争」を武力で解決することは憲法上禁止されており、武力の行使ができるところの侵略行為を受けたとまで言い難いことから、日本の巡視船が「マイクや電光掲示板で警告を続け」ただけにとどめたのは正解でしょう。
 将来の類似事案についても同様です。

 なお、この事案の直接の原因であるところの、10日、「尖閣<(釣魚台=Diaoyutai)>諸島・魚釣島沖で日本の巡視船と衝突した台湾の遊漁船が沈没した問題について、第11管区海上保安本部(那覇)の那須秀雄本部長は15日、同本部で記者会見し「巡視船にも過失があった」として、台湾側に謝罪の意を示した。那須本部長は「巡視船が船名を確認しようと遊漁船に近づいた行為は正当だったが、接近の仕方に過失があった。結果として遊漁船を沈没させ、船長にけがをさせたことは遺憾だ」と述べた。台湾側から求めがあれば、賠償する考えがあることも明らかにした。」(
http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20080616AT1E1500115062008.html
)こと、海上保安本部が遊漁船の船長を釈放した上で、日本の事実上の駐台湾大使が、台湾に帰国した同船長に対し、10日、彼の自宅を訪問して、衝突に遺憾の意を表するとともに、法に従って海上保安庁が賠償するであろう旨を伝えたことも適切であったと言えるでしょう。
 台湾の欧(の旧字)鴻●(金偏に東)(Francisco Ou)外相は、日本政府が正式に謝罪していないことになお不満の意を表しつつも、「本件に関する日本政府の反応には善意を感じる」と述べたところです。
 (以上、事実関係は
http://www.taipeitimes.com/News/front/archives/2008/06/16/2003414891
)による。
 なお、台湾政府は、事実上の駐日台湾大使を、史上初めて、日本政府に対する抗議の意思表示として本国に召還しましたが、野党に転じた民進党からやり過ぎだったとの批判を受けています(
http://www.taipeitimes.com/News/taiwan/archives/2008/06/16/2003414871
)。

 このように日台関係はギクシャクしていますが、中台関係は進展を見せています。
 中台両「国」は、13日、北京の釣魚台迎賓館で、中台を結ぶ直行チャーター便の運航と、台湾への中国人観光客の受け入れ拡大に関する合意文書に署名しました。
 その結果様々な影響が出そうです。
 例えば、直行便の運航で夫の浮気を証明するのも容易になることから、台湾にいる本妻がいつでも中国を訪れることができるようになり、仕事で中国に住む台湾人が現地妻との縁切りを急いでいると報じられていみあす。
 また、これまで香港を経由して中台を往来していた顧客が素通りすることになるため、香港の航空、物流、金融業界は経済的な損失を懸念しているとも報じられています。
 (以上、
http://www.chosunonline.com/article/20080616000022
による。)

<コバ>

 日本で「中間管理職で窓際」の人たちは、民間企業では容赦なく再就職のあてもなく首切りされるのに、他方で官僚機構の人たちは官のあっせんで天下りして安定した生活を得られることが日本人の役人嫌悪感情を増大させているように思います。
 落ちこぼれの自分も安定した生活をしてる人たちには嫉妬、やっかみの気持ちを持ってますし…。

<友人TK>

 下掲の本日付のNikkei記事は、BIG NEWSですね。太田君は参加しないのですか?

 (引用始め)
官僚OBらが「脱藩官僚の会」、天下り全廃など提言
 霞が関OBらが「官僚国家日本を変える元官僚の会(脱藩官僚の会)」を設立する。霞が関や族議員主導が目立つ政治の改革が目的で、発起人代表は江田憲司衆院議員(無所属、元通商産業省)。高橋洋一東洋大教授(元財務省)、寺脇研京都造形芸術大教授(元文部科学省)らが名を連ねる。政党色をできるだけ排除し、天下り全面禁止と税金の無駄一掃など霞が関改革を打ち出す方針だ。発起人ら8人が近く記者会見して、中央省庁出身の参加者らを募り、臨時国会が召集される見込みの8月下旬から9月上旬に設立総会を開く予定だ。霞が関の手法を熟知した官僚出身者だからこそ追及できる法律・規制の問題点の指摘や、政策を提言。当面は官僚の抵抗が目立つ公務員制度改革や道州制・地方分権改革、消費者庁の設立問題などを中心に取り組む。
 (引用終わり)
http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20080616AT3S1501A15062008.html

<太田>

 朝日電子版に発起人全員の名前が出てますね(
http://www.asahi.com/politics/update/0616/TKY200806150214.html

 談合、とりわけ官製談合に対する規制がこれほど強化されてきたというのに、どうして依然官製談合が行われ得るのか(
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080616-OYT1T00140.htm?from=top
)、また、世論の動向に逆らって日銀が綱紀粛正や天下りにむしろ甘くなりつつあるのはどうしてなのか(
http://www.nikkei.co.jp/neteye5/ota/index.html
)、これに関連して、民主党が日銀OBを(前任者に引き続き)日銀総裁に据えることに同意した裏に何があったのか、等を同会がぜひ究明して欲しいものです。
 このままで行くと、来年の政権交代はほぼ必至なので、民主党を中心とする次期政権のが、天下り全廃や大幅な地方分権化を断行することが期待できますが、より大きな問題として、官僚バッシングの行きすぎに(恩給制度の復活等によって)どう歯止めをかけるか、そして、大幅な地方分権を断行した場合に中央政府に残る最重要な業務であるところの、外交・安全保障がどうあるべきか、についても同会に考えて欲しいところ、私に声がかかるかからない以前に、そもそも発起人の中に一人も外交・安全保障関係者が含まれていない(含めようとしていない)ことからして、この、より大きな問題については、同会に全く期待できそうにありません。
 私見によれば、外交・安全保障の米国への丸投げ、すなわち日本が米国の属国であることこそ、日本の政治と官僚機構を腐敗・堕落させ、政官業の三位一体的癒着構造をもたらした根本的原因なのですが、同会の発起人達のような、この癒着構造に比較的からめとられていない官僚OB諸氏にすら、このような問題意識が欠けているという事実を皆さん、しっかり見据えて下さいね。
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太田述正コラム#2613(2008.6.16)
<新著序文(改)>

→非公開