太田述正コラム#2539(2008.5.10)
<ミヤンマーに人道的介入?(その1)>(2008.6.16公開)

1 始めに

 ミャンマーのサイクロン被害の話が、日本のメディアでは余り扱われていませんが、欧米では大きな話題になっています。
 しかし、これはおかしい。
 日本人はもっと他国の人々の不幸に心を痛めるべきであるし、今回、人道的介入に向けての議論が高まっていることにも注目すべきだからです。

 (以下、
http://www.cnn.co.jp/world/CNN200805100020.html
http://www.nytimes.com/2008/05/10/opinion/10ghosh.html?ref=opinion&pagewanted=print
http://www.ft.com/cms/s/0/d58b2ee2-1e09-11dd-983a-000077b07658.html
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-port10-2008may10,0,4171562,print.story
http://www.atimes.com/atimes/Southeast_Asia/JE10Ae01.html
http://www.time.com/time/world/article/0,8599,1739053,00.html
http://www.economist.com/opinion/PrinterFriendly.cfm?story_id=11332156
(いずれも5月10日アクセス)による。)
 
2 サイクロン小話

 その前に、サイクロン(cyclone)そのものについて、復習しておきましょう。
 サイクロンは、インド洋における、台風(太平洋)であり、ハリケーン(カリブ海)に相当します。
 そう名付けられたのは、1840年代であり、名付け親はイギリス人のピディントン(Henry Piddington)です。ぴったりくる現地語がなかったということなのでしょうか。
 被害者の数が明らかになっているサイクロンの大きなものは、ベンガル河下流域で、それぞれ30万人以上の死者を出した1876年と1970年のサイクロンです。
 最近では、1991年にバングラデシュで10万人以上の死者を出したサイクロンがあります。

3 ミヤンマーでの今回のサイクロンについて

 (1)人道援助をうけるのをしぶる軍政当局

 今回、5月2日にミャンマー南部を襲ったサイクロン「ナルギス」がもたらした死者は、軍政当局の発表でも既に6万人前後に達しており、駐ミャンマー米国代理公使は、最終的に10万人を超える可能性があると言っています。
 しかも、150万人前後が高潮の被害で孤立しているとされており、このままでは餓死者が続出したり伝染病が大流行したりする懼れがあります。
 今回、問題になっているのは、軍政当局が、国際社会の人道援助の申し出を受け入れるのをしぶっていることです。
 それどころか、被災地で配給すべき米を、軍政当局は依然、稲作地域であるところの被災地の中にある港からも輸出を続けており、被災地の人々には、サイクロンによって被害を受けた倉庫に補完してあった腐った米を配給しているという有様です。
 軍政当局は、米の輸出を独占しており、米の価格が高騰している折から、輸出を止めてたまるか、というところでしょう。
 しかも、救援作業を優先して延期すべきであるとの国際社会の声を無視して、軍政当局は、(被災地では2週間延期したものの、)新憲法案の是非を問う国民投票を予定通り10日からミャンマー全国で開始しました。(この新憲法案については、国会議席の25%を軍に割いて軍部の影響力の保持を図っている等から、アウン・サン・スー・チー率いる国民民主連盟(NLD)など野党勢力は反対票を投じることを呼び掛けている。)
 軍政当局は、9日、米軍のC-130輸送機の受け入れを含む、若干の救援物資の受け入れと、若干の外国援助要員の受け入れを受諾しましたが、焼け石に水と言うべきでしょう。

 (2)人道的介入の声の高まり

 米国は、かねてより軍政当局に経済制裁を行ってきました。しかも、最近、軍政当局のメンバーとその家族や関係会社に対する金融制裁まで導入しました。更に、上記新憲法案の国民投票を非難した決議を米議会が採択し、同じ日に米議会がアウンサースーチー女史を表彰する法案に大統領が署名したところです。
 その米国のブッシュ政権が最も声高にミャンマー救援を叫んでいることが、一層ミャンマー軍政当局の疑心暗鬼を生んでいるきらいがありますが、人道援助を受けることをしぶる軍政当局に対し、ブッシュのローラ夫人は、真っ先に、インドから警告を受けていたのに住民にサイクロン到来について警報を発しなかったとして軍政当局を無能よばわりしました。
 その後、米国内から米国はミャンマーに、軍政当局の同意不同意にかかわらず、救難物資の空中投下等の人道的介入を行うべきだとする声が出てきました。
 ゲーツ米国防長官は、8日、その考えはないと表明しましたが、米国には、ボスニアやスーダン等で、それぞれの政府の同意なしに人道援助を行ったという先例があります。
 米国が中共に圧力をかけ、軍政当局の後見人とも言うべき中共当局に軍政当局を説得してもらい、タイ軍やインドネシア軍によるミャンマー内での人道援助活動を認めさせる、という方法を提唱する声もあります。経費も修理部品も提供し、更には必要に応じてC-130も貸与してそれにタイやインドネシア国旗をペンキで塗らして救援物資を運び入れればよい、というわけです。
 (次善の策としては、欧米諸国がミャンマーの隣国である中共、インド、タイに軍政当局を説得させ、これら諸国経由での人道支援の受け入れを受諾させるという手があります。)
 もちろん、一番すっきりしているのは、国連安保理決議で軍政当局に人道援助受け入れを義務づけることです。フランスの外相が、このオプションに言及しています。
 しかし、中共やロシアが、このような決議の採択には拒否権を発動する可能性が大です。昨年の初め、米国が安全保障理事会がミャンマーの人権問題を取り上げることを提案したけれど、中共とロシアが拒否権を発動してこの米国の動きを封じています。
 (国連が関与する方法が他にもないわけではありません。安全保障理事会で、間接強制的決議を採択することです。例えば、軍政当局の資産を凍結したり、軍政当局のメンバーが外国に出た場合の逮捕状を発出したりするわけです。この種の国連安保理決議が採択された結果、2002年にコートジアボールの政府が人道援助要員を受け入れたという先例があります。)

(続く)