太田述正コラム#2537(2008.5.9)
<韓国の親日ぶりチェック(その2)>(2008.6.14公開)

3 日本と同期するに至った対外政策?

 (1)李明博政権の対外政策

 李明博政権になったから、韓国の対外政策は180度様変わりし、とりわけ対北朝鮮、対中共政策は、日本とほとんど同じになったと言えるでしょう。
 同政権の対北朝鮮政策について言えば、2月25日の政権発足後一ヶ月経った3月26日に、韓国統一相が、北朝鮮との経済協力は核問題の進展とリンクさせて行う、また、北朝鮮の人権問題を注視していく、と表明しました。
 これに反発した北朝鮮は、ただちにその翌日、北朝鮮内の韓国の工業団地に駐在していた11名の韓国政府の役人を退去させました。
 しかし李明博政権は、同じ週内に、国連人権委員会(U.N. Human Rights Council) において、韓国政府としては初めて、北朝鮮人権侵害非難決議に賛成票を投じました。
 (以上、
http://www.nytimes.com/2008/03/27/world/asia/27korea.html?ref=world&pagewanted=print  
(3月27日アクセス)による。)
 また、同政権は、食糧と化学肥料の北朝鮮への援助は、軍部への横流しを防止するための北朝鮮内での配給の監視を認めることが条件である、との意向も表明しました(
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/04/29/AR2008042902713_pf.html
。5月1日アクセス)。
 更に、「・・・韓国統一省関連機関の統一教育院が<5月>6日発刊した参考図書「北韓(北朝鮮)理解2008」の中で、金正日国防委員長(党総書記)の肩書を外し、呼び捨てで表記した。・・・07年版では、金総書記に国防委員長の肩書を付けていたほか、金総書記と金大中元大統領による首脳会談の成果を称賛する記述を盛り込んでいた。だが、08年版はこの部分を削除。南北の和解、不可侵、交流・協力をうたった南北基本合意書を重視する観点に立ち戻った。」(
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20080508-OYT1T00037.htm
。5月8日アクセス)ことも記憶に新しいところです。
 この間、北朝鮮は、黄海に向けてミサイル発射訓練を行ったり、韓国を灰燼に帰すぞとか、李明博政権の対北朝鮮政策は傲慢でファシスト的であると罵ったりしてきましたが、李政権は馬耳東風です。

 対中共政策についても、ソウルでの北京五輪聖火リレーの際の支那人学生による警官への暴行事件に関し、韓国の外交通商省の次官補が駐韓中共大使を呼びつけて4月28日に強硬な抗議を行ったことを(コラム#2516で)ご紹介したところです。

 (2)そのキリスト教的背景

 しかし、われわれが心しなくてはならないのは、以上のような李明博政権による対北朝鮮政策等の転換が、李明博大統領がキリスト教徒(プロテスタント)である(コラム#2338)からこそなされた面がある、という点です。
 どういうことなのか、ご説明しましょう。
 韓国の北朝鮮拉致者・難民人権市民連盟(Citizen's Coalition for Human Rights of Abductees and North Korean Refugees)の創設者の一人が、韓国プレスビテリアン教会のキム・ドンシク(Kim Dong-shik)牧師は、脱北者支援および北朝鮮にキリスト教聖書を送り込む活動をしていました。
 これに怒った金正日の指示に基づき、2000年、中共の北朝鮮国境近くの延吉で、北朝鮮国家安全保衛部所属の中共籍朝鮮族たる工作員らによって北朝鮮に拉致されたことが、2004年、韓国政府による脱北者達からの調査で明らかになりました。同牧師は、北朝鮮の収容所内において、拷問と飢餓により死亡したのではないかと考えられています。
 同牧師は、脱北者救援活動中に拉致されており、同牧師は、中共政府による国連難民協約違反、すなわち脱北者弾圧、強制送還政策の犠牲者という側面も持っています。
 また、同牧師は米国の永住権保持者であり、彼の家族はイリノイ州に在住しており、子供は米国籍です。この関連で、2005年1月、バラック・オバマ等のイリノイ州選出連邦上下院議員団は、キム・ドンシク拉致事件が解決しない限り、テロ支援国リストからの北朝鮮の削除に賛成しないとする、北朝鮮国連大使宛て書簡に署名しています。
 ところが、金大中政権もその後のノムヒョン政権も、この拉致事件を北朝鮮に提起することなく、そして、北朝鮮における人権問題をほとんど批判することなく、太陽政策を推進し続けたのです。
 韓国の上記市民連盟等の北朝鮮絡みの人権団体は、韓国政府の政策転換に大喜びしています。また、これら団体は、この10年来資金不足にも悩まされてきたのですが、新政権は、資金援助を行う意向も示しています。

 (以上、ワシントンポスト上掲、及び、
http://www.chosunonline.com/article/20041214000059
http://www.seisaku-center.net/modules/wordpress/index.php?paged=2
(どちらも5月9日アクセス)による。)

 私には、李明博政権の対外政策、とりわけ対北朝鮮政策と対中共政策は、李大統領のキリスト教徒(プロテスタント)としての、キム・ドンシク牧師を拉致し、恐らく殺害したところの金正日、及び、こんな北朝鮮を庇護し、中共国内で脱北者を保護せず、北朝鮮工作員の跳梁を許す中当局に対する怒りに導かれているように思えてならないのです。

 (3)蛇足的感想

 理由がどうであれ、結果的に韓国の対北朝鮮政策や対中共政策が日本と同期するに至ったことは結構なことかもしれません。
 しかし、首脳の個人的な宗教的思い込みで一国の対外政策が推進されるというのは、ある意味恐ろしいことです。
 柔軟性なしにつっぱしったりする懼れなしとしないからです。
 ブッシュ米大統領も相当神がかっているし、ブレア前英首相も、首相を辞めてからカトリックに改宗したかと思ったら、いかに彼の首相在任中の諸政策が、敬虔なキリスト教徒としての使命感から推進されたものであったかを熱く語ったりしています。
 (ただし、首相在任中から既に隠れカトリック信徒であったブレアが、妊娠中絶、同性どうしの結婚、幹細胞(stem cell)研究、安楽死的施療、といったカトリック教会の教えに反する政策を推進した、という支離滅裂さは、一体どうなっているのでしょうね。)
 (以上、ブレアについては、
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-blair30apr30,1,2810381,print.story
(5月1日アクセス)による。)
 日本にとって最も重要な与国である米韓英三カ国の首脳や前首脳が敬虔どころか盲信的キリスト教徒ばかりであるとは、何ともはや心細い限りです。

(完)