太田述正コラム#2519(2008.4.30)
<オバマ大頭領誕生へ?(続x7)(その2)>(2008.6.3公開)

3 一日後の状況

 昨日のコラムでライトの発言を読まれてどう思われましたか。
 私自身は、おおむね共感を覚えましたね。
 おおむね、というのは、ライトが言及した事柄の細部について土地勘がないからつけたまでです。
 ところが、米英のメディアは・・私が参照しているのはリベラルなメディアが大部分ですが・・、その掲載記事・論説のほとんどがライト非難一色なのですね。
 こと有色人種問題(黒人や日本人)に歴史認識問題(奴隷制や「太平洋」戦争)がからむと、米英のリベラル(黒人を含む)の馬脚が顕れてしまう、ということでしょう。
 面白いのは、28日のワシントンでの米国記者クラブ(National Press Club)でのライトの発言の抜粋と、それを見せられた民主党支持者、無党派、共和党支持者の感情の起伏を同時に示すユーチューブ動画(
http://www.slatev.com/player.html?id=1527822628
。4月30日アクセス)です。
 この動画については、英語ができない方でも、感情起伏グラフをご覧になるだけでも一興かと存じます。
 英語ができる方には、ライトが、原爆投下を行った米国と9.11同時多発テロの下手人とをいずれもテロリストと括った上で、英国が(奴隷貿易について)アフリカに謝罪したように米国が奴隷制について黒人に謝罪しておらず、また、米国が原爆投下についても日本に謝罪していない以上、米国は9.11同時多発テロを喰らっても文句は言えないと主張しているくだりがお奨めです。
 上記感情起伏グラフで、頭の部分以外で一番反発が強かったのが、この発言のくだりであることにもご注目ください。
 ところで、民主党支持者と無党派の感情起伏はほぼ同じ動きをしており、全般的にライトの発言に対する反発は少ないのに対し、共和党支持者は大きく反発し続けています。
 これを見ると、ライト問題のオバマへの悪影響はそんなに大きくないのではないかという感じがする一方で、オバマが共和党支持者の一部を取り込むことはほとんど不可能になったのかな、と思います。
 なお、英語のできる方は、ライトが27日のデトロイトでの全米有色人地位向上協会(National Association for the Advancement of Colored People)の夕食会で行った「非政治的」な演説全文(
http://commentisfree.guardian.co.uk/jeremiah_wright/2008/04/different_not_deficient.html
。4月30日アクセス)も一読の価値があります。
 黒人は右脳的思考を行い白人は左脳的思考を行うという学説を引用して、黒人は白人的な意味では学習することが不得手であるけれど、違った形で学習をすることには白人より長けていると主張したり、黒人の英語がおかしいと言うのなら、ケネディ大統領やジョンソン大統領やエドワード・ケネディ上院議員の英語だって訛っていると指摘したり、私はオバマの人種問題についての演説より感心しましたね。
 
 (以下、
http://www.guardian.co.uk/world/2008/apr/29/barackobama.uselections20081
http://commentisfree.guardian.co.uk/michael_tomasky/2008/04/this_time_with_anger.html
http://blog.washingtonpost.com/the-trail/2008/04/29/obama_strikes_back_denouncing.html?hpid=topnews
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/04/28/AR2008042802102_pf.html
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/04/28/AR2008042802100_pf.html
http://newsweek.washingtonpost.com/onfaith/susan_jacoby/2008/04/white_ignorance_wrights_narcis.html
http://newsweek.washingtonpost.com/onfaith/guestvoices/2008/04/continuous_crisis_in_the_black.html
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/04/28/AR2008042802099_pf.html
http://www.nytimes.com/2008/04/30/us/politics/30obama.html?_r=1&hp=&oref=slogin&pagewanted=print
http://www.ft.com/cms/s/0/9a277fc6-161c-11dd-880a-0000779fd2ac.html
http://www.latimes.com/news/politics/la-na-campaign30apr30,0,2472328,print.story
http://www.latimes.com/news/opinion/la-oe-goldberg29apr29,0,2970165,print.column(いずれも4月30日アクセス)も参照した。)

4 ライトへの批判

 (1)リベラル(記者・論者)の批判

 ・ライトは黒人教会を代表しているようなことを言っているが、解放神学を唱える黒人教会は黒人教会中のほんの一部だし、そのほんの一部のうちのほんの一部しかライトは代表していない。大部分の黒人教会では、魂の救済だけを追求しているし、差別への不満を表明するのではなく白人黒人共通の夢について説いている。また、多くの黒人牧師達が、米国政府や白人がエイズの感染拡大について責任があるとの説を非難している。
 ・黒人教会には、黒人が他の黒人を従属せしめたり、黒人が白人におべっかを使ったりする役割を担ったという歴史もある。
 ・米国には、白人も黒人も、宗教者には一目を置くというばかげた風潮がある。ライトが単なる政治学者であったならば、こんな注目を浴びることはなかったろう。
 ・ライトは自己顕示欲にかられて露出を続けているだけなのだ。
 ・ライトはオバマが大統領になるのを妨害しようとしているのだ。彼にとっては米国は永久に黒人を差別し続ける存在でなければならないからだ。
 ・ライトが黒人差別を解消し黒人の地位向上を図りたいのなら、オバマが大統領になるのを妨げるようなことは控えるべきだ。
 ・ライトはオバマが自分を遠ざけようとしていることに反発したのだ。
 ・ライトがケネディとジョンソンの訛りに触れたのは非生産的だった。
 ・白人と黒人の学習能力が質的に異なるとの主張は、差別を正当化するものであって、奴隷所有者や、その後の白人黒人分離主義者達が用いた屁理屈を思い起こさせる。

→この点については、次のようなライト弁護を行う論者がいる。「バーナード・ショー(George Bernard Shaw)は、イギリスと米国は共通の言語で隔てられた二つの国だと述べた。リチャード・コーエン(Richard Cohen)は、米国の白人と黒人の関係も同じだと述べた。一方から見て無害な声明ももう一方から見ると不快な場合がありうる。何年か前にジョージタウン大学の言語学者のタンネン(Deborah Tannen)は『あなたは理解することができない--男女間の会話』というベストセラーを書いた。この本は、男と女な同じ言語を使っていても、聞こえ方が異なっていると指摘している。男女にあてはまることは、黒人と白人にもあてはまる。いや白人とあらゆる少数派(minorities)にあてはまるのではないか。」と。(太田)

 (2)黒人牧師の批判

 聖職者は直接政治に関わらない方がよい。そもそも、ライトは言葉ではなく行いによって語ることに徹するべきだ。

→ただし、黒人達の間では、ライトにむしろ熱烈なエールを送る者が多いように見える。ある黒人牧師は、ライトは不当にもリンチをくらっているが、彼の払った犠牲に触発されて立ち上がる人々が出てくることで、よりよい未来が招来されることだろう、と語っている。(太田)

5 オバマへの批判

 (1)最初に

 オバマは、1988年にライトの“The Audacity to Hope.”(後にオバマの著書のタイトルに使用)という説教を聞いてキリスト教に入信し、1992年に当時ライトが主宰していたTrinity United教会に入会したこと、このことによりオバマは黒人達との交流が始まったこと、また、ライトはアフリカをしばしば訪問しており、アフリカ的な儀式を教会での儀式に取り入れたりもしており、オバマに父親の出身地であるアフリカへの目を啓かせたこと、更に、オバマが録音したライトの説教集を携えてハーバード・ロースクールに赴いたこと、を念頭に置いて以下を読んでください。

(続く)