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太田述正コラム#2488(2008.4.15)
<オバマ大頭領誕生へ?(続x5)>(2008.5.22公開)

1 タテマエ論が横行する米国? 

 このシリーズのコラムを前回書いたのは、2月7日(コラム#2351)でしたが、それから2ヶ月余り経過した現在、オバマの民主党予備選勝利と大統領戦勝利に黄信号が灯ってきました。
 3月中旬に、オバマが所属する教会の前首席牧師のライト(Jeremiah Wright)師の「反米的」説教がやり玉に挙げられた時もそう言われたのですが、オバマは、3月18日に行った雄弁極まる弁明演説で、見事なダメージコントロールをやってのけたことになっています。
 (以上、
http://www.ft.com/cms/s/0/ab26ee84-f762-11dc-ac40-000077b07658.html  
(3月22日アクセス)による。なお、演説そのものは、例えば、
http://www.huffingtonpost.com/2008/03/18/obama-race-speech-read-t_n_92077.html
参照。)
 もっとも、私自身は、このオバマの長々しい演説に大きな違和感を覚えました。
 それは、この演説に対し米国内で挙げられていた種々の、私に言わせれば些末な違和感(
http://www.ft.com/cms/s/0/0a8f4d04-f77b-11dc-ac40-000077b07658.html
。3月22日アクセス)のいずれとも違う違和感です。
 オバマが人となった、市民権運動以降の米国における黒人の境遇や黒人に対する差別の大部分は、これまでコラムで累次申し上げてきたように、平均的黒人のIQの低さと、このこととも関係した、黒人の貧困と黒人の犯罪率の高さが原因です。
 もちろん、こんなことをオバマが口にするわけにはいきませんが、黒人の血が入ってこそいても、奴隷の子孫ではなく、しかも白人の母親を持つIQの極めて高いオバマが、どうして奴隷の子孫たる黒人と仲間意識を持ち、イスラム教徒の父親とキリスト教徒の母親、しかもどちらも極めつきに世俗主義的な人物達の間に生まれ、再婚した母親とともに世俗主義的なイスラム教国たるインドネシアで少年時代を過ごした(以上、事実関係は
http://www.time.com/time/nation/article/0,8599,1729524,00.html  
(4月12日アクセス)による。)というのに、敬虔なキリスト教徒になることを選び、しかも奴隷の子孫たる黒人が集うキリスト教会を自分の教会として選び、その上念が入ったことに奴隷の子孫たる黒人女性を妻として選んだのか、不思議だと思いませんか。
 黒人の血が混じっていれば十把一絡げに差別されるところの原理主義的キリスト教的偏向の国たる米国では、彼にはそれら以外に選択の余地がなかったということなのではないでしょうか。
 ですから、ライト師の「反米的」説教にオバマは心から共感していた可能性が大なのであり、ライトに私淑はしているけれど、その考え方にはかねてより反対だったと上記弁明演説で述べたオバマはウソをついている、と思ったのです。
 こんなウソをつくオバマは困ったものだが、こんなミエミエのウソにだまされたフリをする米国の知識人達も呆れたものだ、米国は何とタテマエ論が横行する国であることか、というのが私の率直な感想でした。

2 ついにホンネを語ったオバマ

 そのオバマがついに4月13日、サンフランシスコでのオバマ選挙資金募金者達を前にして、ホンネをしゃべってしまったのです。
 小都市に住む米国人(small-town Americans)は自分達の経済的苦境について「苦々しく思うようになり、自分達のフラストレーションを紛らわせる手段として彼らが、銃に、宗教に、自分達と同じでない人々に対する敵意に、反移民感情に、あるいは反貿易感情にすがりつくようになるのは決して驚くべきことではない。(And it’s not surprising then they get bitter, they cling to guns or religion or antipathy to people who aren’t like them or anti-immigrant sentiment or anti-trade sentiment as a way to explain their frustrations.)」(
http://thepage.time.com/transcript-of-obamas-remarks-at-san-francisco-fundraiser-sunday/
。4月15日アクセス(以下同じ))と。
 これに対し、激しい批判が続々と投げかけられています。
 クリントン候補やマケイン候補による批判(
http://www.latimes.com/news/politics/la-na-campaign15apr15,1,3397907,print.story
は、ためにする批判に過ぎませんが、最も理論的かつ根底的な批判は、
http://www.nytimes.com/2008/04/14/opinion/14kristol.html?ref=opinion&pagewanted=print
http://www.slate.com/id/2188487/
の二つです。
 オバマのための必死の擁護論もないわけではありませんが、
http://www.slate.com/id/2189011/
は筆者自身が認めているように、詭弁に近いものですし、
http://www.nytimes.com/2008/04/14/opinion/14cohen.html?ref=opinion&pagewanted=print
は論点外しの懇願に近いシロモノであり、勝負は決した感があります。
 オバマ自身は、表現が適切でなかったかもしれないとしつつも、発言の撤回はしていません(ロサンゼルスタイムス前掲)。
 要するにオバマは、文化人類学者であった母親の息子として、また、アフリカや東南アジアも熟知している世界人として、弱者に厳しい米国のこれまでの歴代政権の経済政策を批判するとともに、米国に蔓延する銃フェチシズム、キリスト教原理主義的偏向、(自分自身もその対象となった)黒人差別、ヒスパニック差別、そして保護主義的傾向を同列に並べてばっさり切り捨てたのであり、かかる自分の発言を撤回しなかったということです。
 しかし、これは、上記理論的・根底的批判論者が指摘しているところの、オバマ自身が喧伝する敬虔なるキリスト教信仰は彼が世渡りをするための、そして上院議員になってからのオバマの保護主義的志向は票集めのためのパーフォーマンスにすぎなかったのか、という誹りを受けることを甘受するということでもあります。

3 終わりに

 オバマはこの発言により、米国民の大半の感情を逆撫でしたことは間違いないのであって、これで彼は、民主党の予備選に勝利するのも容易でなくなっただけでなく、マケインを破って大統領に当選する目はほとんどなくなったと思います。
 しかし、私自身は、一層オバマのファンになりました。
 そんな米国人が沢山出てきて、ひょっとしてオバマが米大統領になってくれたらいいのだが、となかなか諦めきれない私です。

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