太田述正コラム#2433(2008.3.19)
<チベット騒擾(続)>(2008.4.24公開)

1 始めに

 意外にチベット騒擾の英米での報道は盛り上がっていませんね。
 昨年のミャンマーの騒擾の時と違って、歴史を振り返りつつ、突っ込んだ分析をした論説やコラムにもまだお目にかかっていません。
 「経済大国」中共への遠慮もあるのでしょうが、英米では従来からチベットに対する関心が高く、今更チベットの歴史を振り返る必要はない、ということもあるのかもしれません。
 今回は、チベット騒擾に関し、2点とりあげたいと思います。
 「中共政府情宣のウソ」と「ダライラマの苦悩」です。最後にコメントを付しました。

2 中共政府情宣のウソ

 (1)中共官憲は発砲している

 「中国チベット自治区などの騒乱に関し、同自治区の人権、独立運動を支援する国際人権団体「フリー・チベット・キャンペーン」(本部・ロンドン)は18日、中国当局の治安部隊に射殺されたとする住民の写真を公開した。遺体には明確な銃創が残り、発砲を否定した中国当局の発表と食い違っている。写真は27枚で、中国四川(Sichuan)省北西部アバ(Aba (Ngawa))県のキルティ(Kirtii)僧院で16日と17日に撮影された。胸や首などを貫通した銃創を生々しく写し出しているものもある。逮捕者らの解放を求めて抗議活動を行ったチベット仏教僧ら数百人に対して中国当局の治安部隊が発砲したとする目撃者の証言を伝え、死者は13人と30人という両方の証言を紹介した。チベット自治区のシャンパ・プンツォク主席は 17日、騒乱の死者13人はいずれも暴徒による殺害や火事による焼死などで「治安部隊は発砲しておらず、戦車など人を殺害する武器は一切使っていない」と 説明。中国外務省の劉建超報道官も治安部隊は「実弾を使用していない」と主張した。」(
http://sankei.jp.msn.com/world/china/080319/chn0803191052003-n1.htm
による、但し()内は
http://commentisfree.guardian.co.uk/simon_tisdall/2008/03/the_three_monkeys_policy.html
による(どちらも3月19日アクセス。以下同じ))

 (2)人民解放軍が投入されている

 「中国に詳しいカナダの軍事評論家、平可夫氏は18日、香港のテレビ局がチベット自治区ラサ市内で撮った映像に中国軍の最新鋭装甲車が写っている、と指摘した。15、16日に香港の複数テレビ局がラサ市中心部に展開する多数の装甲車を撮影。同氏によると軍機械化歩兵師団の精鋭部隊に配備されている90式と92式の重装甲車で、映像では軍の所属を示す赤い星印を白い布で覆っていた。同自治区のシャンパ・プンツォク主席は17日の記者会見で「軍は鎮圧に加わっていない」と強調している。」(
http://www.asahi.com/international/update/0319/TKY200803190051.html
 「ラサは・・「事実上戒厳令の下にある」と先週来同市に滞在しているエコノミスト誌のジェームス・マイルズ特派員は言う。政府は軍隊はいないと主張しているが、軍隊がいることは間違いない。兵士の中には、ナンバープレートを隠したり取り去ったりした軍事車両に乗っている者もいる。兵士は数千人はいる。あらゆる所にいる。これは1989年の天安門事件直後の治安水準を彷彿とさせる。」(
http://www.guardian.co.uk/world/2008/mar/19/tibet.china

 (3)チベット人の間で下克上が起きている

 「温家宝・中共首相は、騒擾(sabotage)の陰謀を組織したとしてダライラマ及びその一味を非難したが、これは正鵠を射ていない。チベットの亡命精神的指導者は、かねてより中共からの独立ではなく自治で折り合いを付ける方針を追求してきた。この方針に疑問を投げかけ、もっと効果的な戦術をとるべきだとチベット内外のチベット人の若者達が求めているのだ。中国共産党の機関誌であるチベット日報(Tibet Daily)の論説はこの変化に気付いているように見える。それと同時に同紙は漢人の怒りの大きさも吐露している。・・これは敵とわれわれとの死ぬか生きるかの戦いである・・<と。>」(
http://commentisfree.guardian.co.uk/simon_tisdall/2008/03/the_three_monkeys_policy.html前掲)

3 ダライラマの苦悩

 「誰がダライラマになりたいだろうか。すべてのチベット人の半世紀にわたる苛立ち、怒り、絶望の重みを背負うことは、彼らの亡命精神的指導者にとって何もない時だって容易なことではない。しかし3月10日にチベットの内外で反中共デモが始まってからというもの、ダライラマは彼自身のコミュニティの中からの山のような反対と反抗的態度に直面させられている。その結果、彼は、北京がラサでの暴力的抗議活動の首謀者が彼であると決め付けていることに異議を唱えなければならず、かつ彼の亡命政府を受け入れてくれているインド当局と、このインド当局の中共との関係を活用しつつ、外交的綱渡りを演じなければならない一方で、彼は、チベット人の大義を挫折させることのないよう、チベット人の中の過激かつ挑発的な分子を抑え込むことに努めなければならないというわけだ。」(
http://www.time.com/time/world/article/0,8599,1723265,00.html

4 終わりに

 アフリカのダルフール問題でスピルバーグ(Steven Spielberg)とミア・ファロー(Mia Farrow)が中共を攻撃したのが、北京オリンピック開催をめぐる、非自由民主主義国家・中共と国際世論とのせめぎあいの第一陣だったとすれば、今回のチベット騒擾はその第二陣であると言ってよいでしょう。
 仮に今回の騒擾が収まっても・・現に収まりつつあるようですが・・オリンピックが始まるまでにはチベットでもう一騒動あるのは必至だろうと囁かれています。
 というのは、聖火がギリシャから北京に運ばれる途中チベット人地区を通ることになっているからです。
 (以上、
http://commentisfree.guardian.co.uk/simon_tisdall/2008/03/the_three_monkeys_policy.html前掲による。)
 ただでさえ、北京の大気汚染が話題になりオリンピック開催にケチがついているというのに、チベット問題にまで火が付き、中共政府は頭を抱えているに違いありません。