太田述正コラム#2424(2008.3.15)
<買春で辞職したNY州知事>(2008.4.17公開)

1 始めに

 その一週間前にニューヨークタイムスの特ダネで買春をしていたことを報じられた、米ニューヨーク州知事のスピッツァー(Eliot Spitzer)が12日、辞職しました。
 米国の世論調査では、85%が辞職は当然だと答え、64%はスピッツァーは刑事訴追されるべきだと答えました。
 (以上、
http://www.ft.com/cms/s/0/92891adc-f041-11dc-ba7c-0000779fd2ac.html
(3月13日アクセス)による。)
 彼が利用した高級売春クラブでは、通常一時間1,000から5,500米ドル料金がかかり、それ以上高いオプションもあったようです。料金の支払いはクレジットカードであり、このクラブに司直の手が入り、売春禁止法違反とマネーロンダリングで摘発中に顧客にスピッツァーがいることをニューヨークタイムスがつかみ、特ダネと相成ったわけです(
http://blogs.ft.com/gapperblog/
。3月11日アクセス)。
 2004年に米国政府は、「米国政府は売春を合法化する提案には断固反対する。売春は現代における奴隷貿易を直接的に促進するとともに本質的に品位に悖ることだからだ。」と声明を発しており、上記世論調査からも分かるようにスピッツァーが非難されるのは当たり前である、と言いたいところですが、その米国でネバダ州の相当部分で売春が合法化されているのですから、米国も面白い国です(
http://www.slate.com/id/2186243/
。3月11日アクセス)。

2 改めて交わされた売春論議

 (1)総論

 面白いと言えば、立場が立場だけに、ニューヨークタイムスこそ、売春は悪いことだというお手盛り記事を載せました(
http://www.nytimes.com/2008/03/12/opinion/12farley.html?ref=opinion&pagewanted=print
。3月12日アクセス)が、米国の新聞の多くが、この事件を踏まえて、売春合法化論を掲げていました。
 特にロサンゼルスタイムスが熱心に売春合法化論を展開していたので、同紙のコラム2篇の要旨をご紹介しましょう。

 (2)第一のコラム

 ここ15年というもの、それまで単婚的(monogamous)と思われていた動物の大部分が浮気(科学用語では、番(つがい)外性交=extra-pair copulations= EPCs)をすることが分かってきた。
 つまり、動物の殆どは社会的単婚・・雄と雌による番と子育て・・だが、性的単婚は希だということが判明したのだ。
 性的単婚を貫くひょっとして唯一の動物がDiplozoon paradoxumであり、これは魚の消化器官に宿る寄生虫だが、雄と雌が番になると物理的に一体化し、どちらかに死が訪れるまで性的単婚を続ける。
 精子の数は多く、親としての面倒をほとんど見なくてもよいので、大部分の種で雄は貪欲な性的冒険者であり、それが可能であれば複数のパートナーとセックスを行う。それに成功した雄は沢山の子孫を残すことができる。
 キッシンジャーが喝破したように、権力は究極の媚薬であり、大部分の哺乳類ではメスはボス的な雄と番おうとし、子分どもになぞ目もくれない。そして多くの場合ハレムが形成される。
 だから、欧米の植民地主義によって世界の文化の均質化が行われる以前は、人類社会の85%は複婚(polygamy)志向だった。
 (以上、
http://www.latimes.com/news/opinion/la-oe-barash12mar12,0,6338866,print.story
(3月12日アクセス)による。)

 (3)第二のコラム

 米国の成人男子の10人に1人は生涯のいつかの時点で買春をしている。そして米国では、2005年には約84,000人が売春がらみの犯罪で逮捕されている。
 他方、米国のお隣のメキシコでは、三分の一の州で売春は合法化されている。
 また、スウェーデンでは、買春やヒモ/女衒を非合法としつつ、売春を合法化するという新しい試みを行ったが、価格が低下し顧客は減ったものの、カネはもっと出してコンドーム無しでやらせろと言うようなアブナイ顧客が増えた一方で、逮捕されることを懼れてヒモ/女衒が顧客がアブナイかどうかを見極めることができなくなったという弊害が生じている。
 一番推奨されるのがニュージーランドでの取り組みだ。
 この国では、2003年に売春を合法化しただけでなく、売春婦の人権を守り彼女らを搾取から保護し、その福祉と職業的健康と安全性を確保することによって公衆衛生の改善を図るとともに18歳未満の売春婦を禁じた。
 (以上、
http://www.latimes.com/news/opinion/la-oe-kelly13mar13,0,7801341,print.story
(3月13日アクセス)による。)

 (3)ニューヨークタイムスまで売春合法化論のコラム!

 実は、ニューヨークタイムス自身、売春合法化論の以下のようなコラムを掲載しているのです。

 オランダは売春を合法化した。
 しかし、女性密輸入数は減らなかったし、公衆衛生の改善も大したことはなかった。
 推奨されるのはスウェーデンでの取り組みだ。売春を合法化したが買春は非合法とした。
 その結果、女性密輸入数は減り、強制売春も減った。
 売春を地下に追いやっただけだという意見もあるが、スウェーデンでの世論調査では、この実験は成功したという意見の人が多い。
 (以上、
http://kristof.blogs.nytimes.com/2008/03/10/prostitution-and-the-law/index.html?ref=opinion
(3月11日アクセス)による。

3 終わりに

 スウェーデンでの取り組みの評価については、色んな意見があるようですが、いずれにせよ、学者の間では、売買春の全面的禁止は愚策であるという点でコンセンサスが成立しているようです。
 日本でも、大麻やカジノや売買春の合法化論議がもっと起こってもいいですね。
 一律の取り組みは困難であるとしても、道州制の下で、これらの問題についても日本国内で多様な取り組みが見られるような時代が早く到来して欲しいものです。