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太田述正コラム#2412(2008.3.9)
<先の大戦正戦論から脱する米国?(その2)>(2008.4.15公開)

 日本は早くも1934年の時点でローズベルトが意図的に日本を挑発していることに苦情を申し立てていた。1940年にはローズベルトは、支那を攻撃してはいたけれど米国とは戦争状態になかった日本に対し、支那の空軍基地から米国の航空機を用い、必要に応じて米国の操縦士を乗せて、爆撃する計画策定に乗り出していた。1941年には日本政府は米国のハワイにおける軍備強化に抗議している。当時グルー(Joseph Grew)駐日米大使は、このような状況を受け、真珠湾に奇襲をかけるという噂が日本で流れていることを本国に報告している。
 ちなみに、ローズベルトは、基本的に木と紙で出来ている日本の住宅が火がつけばよく燃えることから、日本の都市を焼夷弾で爆撃することを考えていたのに対し、真珠湾は純粋に軍事的な標的だ。
 にもかかわらず、米国は眠りこけていて全く戦争に対する備えができていなくて、卑怯極まる攻撃を受けて仰天した、という神話が創作された。
 ローズベルトには日本と交渉するつもりなどさらさらなかった。
 1941年の10月、彼は航空機だけで1000億米ドルにのぼる新軍備拡張計画について、情報のリークを始めた。
 グルー大使は再びローズベルトに対し、日本を米国との戦争へと追い詰めていると警告を発したが、ローズベルトは戦争準備を継続した。
 真珠湾攻撃が行われる前日、ローズベルトは天皇に交渉を呼びかけるメッセージを送ったが、彼はそれを中華民国の駐米大使に向かって読み上げ、「記録に残すものとしては悪くない」と思うと伝えている。

3 ベーカー本の波紋

 ロサンゼルスタイムスの書評子は、「ベーカーは、自分達が大好きな先の大戦を批判したと米国民を激怒させるだろう。しかし、ベーカーは風聞をもとにこの本を書いたわけではない。それどころか、この本は典拠に基づいており、脚注や参照文献だらけだ。・・読者は自分で判断するほかない。とにかくこのHuman Smokeを読んで欲しい。この本はあなたが自分の生涯で読むもののうち、最も重要な本の一つになるかもしれないからだ。」と記しています。
 今後の米国における波紋に注目したいと思います。

4 私のコメント

 ベーカーは、前衛的な作品を多数モノしているところのシリアスなベストセラー作家です。
 その作家が、もっぱら資料をして語らしめる自己禁欲的なノンフィクションを書いたところに、私は彼の意気込みを感じます。
 ただし、私が違和感を覚える部分がないわけではありません。
 ベーカーが、熱心な戦争反対論者達と積極的にユダヤ人等の難民に手を差し伸べた人々とがおおむね重なり合っていると指摘しているらしい点は、事実その通りなのでしょうが、ナチスドイツに対する正しい対応はガンジーの平和主義だと示唆しているらしい点には私は全く同意できません。
 またベーカーが、戦前の英米をalliesと表現している点についても、当時英国が依然米国の潜在敵国ナンバーワンであった史実に照らせば、(ベーカーはこのことを知らないのでしょうが、)呆れてしまいます。
 これらのマイナーな点を除けば、ベーカーがこの本で訴えたいことは私のかねてからの持論と全く同じです。
 さて、ベーカーの本の内容のかくも断片的な紹介だけからもお分かりのように、戦前の米国は、有色人種やユダヤ人に対する人種差別意識に凝り固まると同時に共産主義には大甘という度し難い国であったのに対し、戦前の英国は、というか少なくともチャーチルの世界観は、人種差別意識がなかった点といい、共産主義に対する厳しい見方といい、ファシズムを共産主義に対抗するより小さい悪(lesser evil)とみなしていた点といい、戦前の日本の朝野が抱いていた世界観と瓜二つです。
 だから、日英が提携し、これに更に米国が加わる形で自由民主主義陣営の結集が図られ、ファシズムの暴走を押さえこみつつ、ファシズムを利用しながら、ソ連や国際共産主義に対抗して行くというというシナリオが実現する可能性が理論的にはあったのです。
 このシナリオが実現しなかった最大の原因は、米国の指導層が、共産主義に対し大甘であった上、支那の蒋介石政権にのめり込み、しかるがゆえに日本を敵視したためです。
 そして副次的な原因は、ヒットラーがチャーチルや日本の指導層の理解を超える悪魔的かつ非合理な人間であったことです。
 米国に追い詰められた日本が1940年9月にヒットラーのドイツと同盟関係を結んだのは、今にして思えば大変な愚行でしたが、チャーチルだって、当時日本の首相であったなら、同じことをしていたことでしょう。

(完)

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