太田述正コラム#2477(2008.4.10)
<皆さんとディスカッション(続x108)/マリネラの核武装問題:消印所沢通信25(その4)>

<読者SK>

 <送っていただいた>ご著書は大変素晴らしい内容でした。
 ほっとしたのは、あの岡崎久彦氏と太田さんが同根でなく対極ともいえる思想上の位置であったことです。集団的自衛権の考え方が似ていたので心配しておりました。日頃より岡崎氏の長いものにまかれろの論理には抵抗があったので溜飲がさがる思いでした。
 あらためて、太田さんの言論を支持させていただきたいと思います。

<コバ>

 中央日報(
http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=98533
) によれば、村上春樹氏は共同通信とのインタビューの中で、「日本人には、まだ戦争で犯したことに対して本当に反省する気持ちがない」と述べたそうです。氏は取材活動の中でそのように考えるようになったそうですが、このような意見は色んなメディアでよく見かけます。
 自分としては、過去に日本が他国に被害を与えたことは反省するにしても、経験もしていない戦争をどのように反省すべきなのかと悩んでしまいます(ダメ縄文人ゆえ?)。
 太田さんはどう考えますか?

<太田>

 小説家はフィクションを紡ぎ出すことを生業としている人々なのであり、彼らの言動を真面目に受け取って考え込んだりしたらバカを見るだけですよ。
 三島由紀夫が言うことも、大江健三郎が言うことも、村上春樹が言うこともすべてそうです。

 ところで、私が村上論として最も秀逸だと感じたのは、イギリスの詩人ヒル(Tobias Hill)による、村上の英訳短編集'Blind Willow, Sleeping Woman'の書評(
http://books.guardian.co.uk/departments/generalfiction/story/0,,1815022,00.html。2006年7月8日アクセス)です。
 ヒルは、村上のこの短編集に収録されている各短編における日本文化の完全な欠落を指摘した上で、
The lasting effect is not that of a Japanese writer trying to write about the west, but of a writer whose relationship with his own culture is as complex, strange and powerful as the stories he creates.
と締めくくっています。
 これを私の図式に置き換えると、村上は、意識の上では完全に弥生化(英米化)しているものの、どうしようもなく縄文人であり、彼が支那でも英米でもウケているのは、実は村上の縄文性・・ユニークさと普遍性を兼ね備える・・にある、ということになるのかも。

<風>

 太田さんに質問 。
最初に断わっておきますが、あまりにも場違いな質問ですいません。
 最近、テレビ、マスコミの間でキャンディーズが盛り上がってます。
 当時、麻布高校に居た宮台氏(東大社会学科?教授)が蘭ちゃんは本当に可愛かったと発言してました。
 さて、日比谷高校(当時東大生を日本一輩出した高校であり、長い間官僚派閥で最大派閥であった)在学中の太田さんにとってのアイドルって、どういう人でしたか?
 団塊世代だから、やっぱりビートルズ、ツイッギーのミニスカートなんですかね。
 私の場合、小学3年生当時、私にとっての唯一のアイドル山口百恵が引退して以来、全くアイドルも卒業してしまいました。8歳でアイドル卒業は相当オマセなそうですが・・・
 つまらん話題でしたら、無視して下さい。
 キャディーズの熱烈ファンだった防衛大臣石破さんの例もあるので、是非、生身の太田さんの青春時代を知りたくて、質問してみた次第です。

<太田>

 まだ小学校時代の1960年にテレビで中継された舞台演劇「敦煌」で初めて出会った、ヒロイン役を演じた八千草薫(1931年〜)が私にとって最初のアイドルだったと言えるかもしれません。
 「本格的」なヒロインは、高校時代の1965年の映画「赤ひげ」でデビューし、1966年にテレビで毎週放映された「氷点」でヒロインを演じた内藤洋子(1950年〜)です。「氷点」のテーマミュージックをピアノでよく弾き、部屋には週刊誌の表紙から切り抜いた彼女の写真を飾ってました。
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<マリネラの核武装問題:消印所沢通信25(その3)>

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 1945.4.30,チョビ髭の男が自殺して,ヨーロッパでの戦争は終わった.
 しかし「ドイツとの開発競争」だったはずの原爆開発は終わらなかった.
 開発の目的は対日戦での使用,そして戦後のソ連との対決に備えるためのものへと,開発目的は変化していった.

 科学者たちの多くは,原爆の実戦使用には反対だった.※1
 東京湾の真ん中に原爆を投下し,その威力をデモンストレーションするだけで,効果は十分すぎるだろうと彼らは考えた.
 レオ・シラードが始めた原爆実戦使用反対の嘆願書には,ロスアラモスの科学者のうちの実に74%が署名したという.

 そしてヒギンズ3世も反対者の一人であり,彼はこう提案したくらいだった.
「アラモゴルドでの原爆実験に,天皇を招けばいい.※2
 原爆の爆発を見れば,彼は自分の国がもはや勝ち目がないと悟るだろう」


 前掲『シラードの証言』 によれば,彼は実際に招待状を書いたらしい.
 マリネラ王国は中立国であり,日本の皇室との王族同士の親交もそこそこあったので,そのコネで天皇へ手紙を出そうとしたようだ.
 けれども実際に王国の政治実務をとりしきっているのは当時も今も国王付の武官たちであり,18人の王子王女のうちの一人に過ぎず,しかもまだ未成年のヒギンズ3世の話に,武官たちが耳を傾けるはずがなかった.


 次に彼は,もう少し回り道になるやり方を試した.
 当時,戦時情報局の海軍大佐だったエリス・ザカライアスによれば,彼はレオ・シラードを通じ,同じくハンガリー出身の対日諜報専門家,ラディスラス・ファラゴーに話をしたという.
 ファラゴーは上司のザカライアスに話を伝えた.
 ザカライアスはその話に大いに乗り気だった.
 彼も原爆投下は不要なことを確信していた.
 彼の見るところ,アメリカ側が講和条件として「無条件降伏」の「無条件」を撤回するならば,日本は明日にでも講和会議のテーブルに着くことは明らかだった.
 また,仮に「無条件」を撤回しなくとも,12月になれば日本は餓死者が続出して降伏を余儀なくされる可能性が確信的に高かった.

 だが,国交を断絶している日米間でどうやって手紙を伝えるかが問題だった.
 ヒギンズ3世は,「ユダヤ人コネクションを使ったらどう?」と言った.
 満州や上海にはユダヤ人コミュニティが1945年になっても存在しており,アメリカのユダヤ人コミュニティとの間にコネクションがあった.
 そこで
ハルビンのユダヤ人実業家レフ・ジクマン
⇒安江仙弘大佐
⇒関東軍参謀長・飯村穣中将
というルートで日本に書簡を送る計画が練られた.

 しかし日本本土爆撃が激化するにつれ,日本・満州での外国人排斥機運は急速に悪化,ユダヤ人ルートは事実上絶たれたも同然の状態になった.
 満州で,上海で,ユダヤ人社会も日本の官憲の迫害を受けるようになり,安江大佐は予備役になって軍務から遠ざけられた.※3
 ユダヤ人に限らず,日本人とは見かけの異なる「ガイジン」は,等しく迫害を受けた.
 日本国内ではドイツ人さえ時として石を投げられた.
 そのため,計画は断念された.

 他にも様々なアイディアをヒギンズ3世は出した形跡があるが,それらは上記2計画以上に奇抜すぎて,検討すらされなかったようだ.
 マリネラ王室に保管されている,当時の彼のノートを見ると,次のような走り書きが読み取れる.


「たとえ天皇が乗り気でなくとも,本人の意思がどうあろうと実験を見せたなら


 気球で吊り下げる一人乗りゴンドラ


             天皇のそっくりさんを用意
             日系アメリカ人特殊部隊



西


太平洋を横断


   長いワイヤを天皇にくくりつけ.開けた場所に座らせる
       ワイヤは気球で高く高く吊り上げる

特別な装置
を機首につけた航空機が
ワイヤをひっかけて


ワームホールを利用した"anywhere door"※4


 実験を見ることさえできればいい
身体全部を日本から移動させる必要はない


天皇の


首から上だけ


を生かしておく装置」


※1
前掲『オッペンハイマー』より.

※2
ザカライアス著『日本との秘密戦』(朝日ソノラマ)より

※3
安江弘夫著『大連特務機関と幻のユダヤ国家』(八幡書店,1989/8)
H. E. マウル著『日本はなぜユダヤ人を迫害しなかったのか』
(芙蓉書房出版,2004/1/20)
山本尚志著「日本を愛したユダヤ人ピアニスト レオ・シロタ」
(毎日新聞社,2004.11.20),
阪東宏著『日本のユダヤ人政策1931-1945 外交史料館文書
「ユダヤ人問題」から』(未来社,2002.5)より

※4
 anywhere=どこでも
  『オッペンハイマー』によれば,ロバート・オッペンハイマーはブラックホールの発見のヒントになるような着想を,すでに1938年にノートに遺している.
 しかしロバートは天文物理学には興味はなく,その着想はそのまま埋もれた.
 ヒギンズはそのノートを見た可能性がある.
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太田述正コラム#2478(2008.4.10)
<英米軍事トピックス(その3)>

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