太田述正コラム#2388(2008.2.26)
<米キリスト教原理主義退潮へ?(その1)>(2008.4.5公開)

1 始めに

 今度の米大統領予備選に関連して、キリスト教原理主義勢力(Evangelist)の退潮がささやかれています。
 それが本当かどうかをさぐってみましょう。

2 米宗教宗派別信者数の動向

 1980年代には米国民の5〜8%が特定の宗教の信者ではないと答えていましたが、昨年行われた調査によれば、子供の頃特定の宗教の信者でなかった割合は成人の7%であったところ、16%が成人になってから特定の宗教の信者ではなくなったと答えています。
 特定の宗教の信者でない人の多くは50歳未満でかつ男性であり、5人に1人近くが特定の宗教の信者ではないと答えたのに対し、女性では13%に過ぎませんでした。
 反面、プロテスタントは大幅に減り、1970年代には米国民の三分の二くらいがそうだったのに、約50%になってしまいました。うち原理主義者が過半数ちょっとを占めています。
 注意を要するのは、特定の宗教の信者でない人の増大が必ずしも米国社会の脱宗教化・・無神論者(atheist)や神不可知論者(agnostic)の増大・・を意味していないことです。
 このところ一番退潮がみられるのは、非個人的(impersonal)な宗教宗派であり、原理主義的なメガ教会が隆盛を極めているのは、メガ(巨大)だからではなく、それら教会が各個人の宗教的ニーズに応じたきめ細やかな対応をしているからであるというのです。
 ところで、カトリック信徒の割合は一貫して25%前後で安定的に推移してきていますが、米国生まれのカトリック信徒は大幅に減ってきているのであって、この減った分を海外から流入するカトリック信徒が埋めているのです。海外からの移民の半分近くはカトリック信徒であり、その大部分は中南米出身です。
 (以上、
http://www.nytimes.com/2008/02/26/us/26religion.html?_r=1&hp=&oref=slogin&pagewanted=print  
(2月26日アクセス)による。)

3 キリスト教原理主義者達の動向と共和党

 こうした中で、米国のキリスト教原理主義者達に変化が生まれてきていることは間違いありません。
 世論調査をしてみると、若い原理主義者達が彼らの属している教会が掲げる大義・・妊娠中絶反対とかホモ反対とか対イラク戦支持・・への関心を減じつつあることが分かります(
http://news.bbc.co.uk/2/hi/programmes/from_our_own_correspondent/7154551.stm  。12月23日アクセス)。
 もう少し精緻に見ていくと、妊娠中絶やホモには反対でもブッシュ政権下の対イラク戦争や拷問の嫌疑や地球温暖化放置政策には眉を顰めるキリスト教原理主義者達が増えているのです。
 この結果、原理主義と共和党との同盟関係にひびが入ってしまったと言ってよいでしょう(注1)。
 (以上、
http://www.latimes.com/news/opinion/la-oe-jenkins25jan25,0,6613708,print.story (1月26日アクセス)、及び
http://newsweek.washingtonpost.com/onfaith/guestvoices/2008/02/a_very_undead_christian_right.html  
(2月13日アクセス)による。)
 
 (注1)この同盟関係成立の経緯については2つの説がある。
    多数説は、1977年から1980年の民主党のカーター(Jimmy Carter)政権下の米国の国際的地位の低下と憂うべき経済・社会状況、すなわちイランの米大使館員人質事件の生起、インフレの亢進、暴力的犯罪の多発、都市の朽廃、性の価値観の急速な変容・崩壊は米国社会そのものが朽廃しつつある感があり、米国民の多くがこれは米国が神聖なる任務を裏切ったことで神に罰せられていると受け止めたことが契機になったとする説だ。
    これに対し、少数説は、1960年代に左翼が引き起こした騒動・・市民権(civil rights)運動、ベトナム戦争反対運動、フェミニズム/ゲイ権(gay rights)運動、に対する原理主義者達の反発が契機になったとする。すなわち、これに着目したのがニクソン(Richard Nixon)であり、彼は、伝道師のビリー・グラハム(Billy Graham)らと提携して、この米キリスト教原理主義者達と法王ヨハネ(John)23世が行ったカトリック改革に反発する米カトリック信徒を共和党に糾合することを試み始め、妊娠中絶を合法化した1973年の米最高裁判決へのこれら二者の拒絶反応が最後の一押しとなって、キリスト教原理主義者達(及びカトリック信徒)と共和党との同盟関係が成立したというのだ。

(続く)