太田述正コラム#2349(2008.2.6)
<岩国への空母艦載機移転をめぐって(その2)>(2008.3.21公開)

 井原市長等が艦載機部隊の岩国移駐に反対している(注2)のは、単に機数の問題だけではありません。

 (注2)昨年10月、広島市で岩国基地の海兵隊員による女性集団暴行事件も起きた(コラム#2136)が、米兵の数が増えれば、米兵絡みの犯罪も増えることになる。

 岩国でのNLPは2000年以来実施されていません(注3)が、岩国市がもともとNLPの実施について政府に一筆入れていることもあり、艦載機のNLPがもっぱら岩国基地で行われることになるのではないかと懸念しているのです。

 (注3)2000年に全国各地でNLPが行われた経緯は、「NLPで役人を辞めた私」シリーズ(コラム#2247、2249、2251、2255)に詳しい。

 この懸念に基づき、岩国市は昨年11月末、「<岩国基地以外での>NLPの恒久施設の明確化」の要請を防衛省に行ったところ、中国四国防衛局の月橋晴信局長は「岩国に空母艦載機着陸訓練の専用施設は整備しない」と回答をしています。
 しかし、NLP恒久施設を岩国基地から比較的近い所に確保することは容易なことではありません。
 米軍再編が決まる前の2003年に、旧広島県沖美町(現江田島市)が岩国に近い大黒神島への誘致を表明したことがありますが、住民の猛反発や県、周辺自治体の反対で一週間足らずで誘致表明を撤回した(コラム#99)経緯があります。

 また、種子島の西之表港の12キロ沖の馬毛島がNLPの候補地になったとの情報が昨年2月に表面化し、12月17日には開発業者が西之表市議会で誘致を正式に表明しましたが、 同市や周辺自治体、議会は相次いで反対を表明しています。
 (以上、
http://www.chugoku-np.co.jp/iwakuni/bakuon/2008010901.html
による。)

 他方、当初艦載機部隊の移駐に反対した山口県の二井知事は少しずつ姿勢を軟化させ、在日米軍再編が閣議決定された昨年5月以降は、事あるごとに移転を前提に国と協議する必要があると唱え始めています。
 その背景を、中国新聞の記事(
http://www.chugoku-np.co.jp/iwakuni/bakuon/bakuon3.html
)は、以下のように分析しています。

 「県と市が共同で進めてきた102ヘクタールに及ぶ「愛宕山地域開発事業」。岩国基地の滑走路の沖合移設工事と連動して1998年に着工した。基地を見下ろす愛宕山を切り開いて埋め立て用の土を搬出。住宅団地に造成し、人口増と地域活性化の夢を実現させる・・。だが、地価下落がこの構想を覆す。251億円の赤字が予想される事態にこの6月、事業中止決定に追い込まれた。覚書では、赤字のうち県が三分の二、市が三分の一をかぶる。借入金のうち80億円の返済期限は来年度末。対策を講じなければ、財政難の県と市は危機的状況に陥る。艦載機部隊の岩国移転が浮上したのは、県にとってもまさに渡りに船だった。将来の艦載機移転と米軍住宅への転用を念頭に愛宕山の用地の大半を国に売り渡す―。巨額の赤字負担の回避に向けて、県は明言しないが、内部ではこんなシナリオがささやかれている。防衛省も、約3800人に及ぶ艦載機部隊の軍人・家族らの住み場所を確保しなければならない。「買い手は防衛省以外にない。のどから手が出るほど欲しい土地だろう」と県幹部はみる。こうして移転容認を迫る国と、赤字負担を回避したい県の思惑が一致。愛宕山問題は国の切り札的な存在に浮上した。同じく赤字負担のリスクを負う井原市長も「米軍住宅は容認できない」としながら、国への跡地売却には合意する。」

と。

 いずれにせよ、カネの威力は大きく、2006年3月の旧岩国市における住民投票の時に投票者数の87%が艦載機部隊移駐に反対し、1市7町村の合併に伴う翌月の市長選で井原氏が今度はこの新しい岩国市の市長に当選した頃の熱気は今や薄らぎつつあります。
 市議会の多数が移駐賛成に転じた中、昨年12月26日、市議会本会議で市庁舎建設費に合併特例債などを充てる予算案を提案した井原市長は、突然「このクビと引き換えに市民のために(補正予算案を)通してほしい」と発言しました。
 これに対し、市議会の多数派は、特例債を(国が支出を拒否しているところの)国の補助金に振り替える修正予算案を議員提案し、市議会はこの修正案を可決しました。井原市長に対する事実上の不信任決議と言えるでしょう。
 (以上、
http://www.chugoku-np.co.jp/iwakuni/bakuon/2007122801.html
による。)
 こうして井原市長は辞職し、今回の市長選となったわけです。

3 終わりに

 基地容認派が一貫して多数を占めてきた岩国基地周辺の住民達が、基地機能の強化に一斉に反発したのは、決して地域エゴなどではありません。
 どうして岩国基地に艦載機部隊を移駐させなければならないか、政府は納得のできる説明をしていないからです。
 いや、納得のできる説明などできるわけがありません。
 岩国周辺は工業地帯であり、近くには世界遺産の宮島を抱え、もうちょっと足を延ばせば広島という大都会もあります。
 こんな所に艦載機部隊を持ってこなくても、日本には艦載機部隊に内心来て欲しい過疎地がいくらでもあるのです。
 その一例として、私は以前青森県の三沢市を挙げた(「NLPで役人を辞めた私」シリーズ)ところです。
 米軍がアメニティーの充実した大都会に駐留したい気持ちは分からないでもありません。とりわけ、米軍の家族にとってはそうでしょう。
 奥さん達の英語教師のアルバイト先だって大都会ならいくらでもあるからです。
 しかし、米国はその国益上米軍を前方展開する必要があるから日本に駐留しているのであって、しかも日本政府がその駐留費の相当部分を負担している以上は、我が儘を通してもらっては困ります(注4)。

 (注4)それにそもそも、艦載機の岩国移駐計画は中途半端だ。艦載機の整備部隊は厚木に残すことになっているからだ。それに、艦載機は空母が出港する時期が近づくと陸上のNLPに続いて相模湾に浮かぶ空母上で離発着訓練を行う。空母が横須賀を母港とする限り、艦載機は岩国から厚木を経由して訓練場所に通うのではないのか、結局、米軍は厚木と岩国との間をひっきりなしに行き来し、二つの基地を自由に使うつもりではないか、という懸念の声が上がっている。(
http://www.chugoku-np.co.jp/iwakuni/bakuon/2008011001.html

 そもそも、空母の母港だって、首都圏の真っ只中の横須賀からテコでも動かさないというのはいかがなものでしょうか。第一、次の空母は原子力空母なのです。

 しかし何と言っても一番悪いのは日本政府です。
 日本が安全保障を米国にぶん投げているというのに、日本政府は決して、その米国の軍隊が日本に駐留しやすくするための抜本的な措置を講じようとはしてきませんでした。
 そんな日本政府に米軍が反発すると、NLPのケースで言えば、日本列島から遠く離れた硫黄島にNLPの訓練場を設けたり、そのために米軍に余分にかかる燃料代を負担したりして、カネの力で反発をなだめてきました。
 その一方で日本政府は、米軍受け入れをしぶる自治体や地域住民に対し、やはりカネの力で封殺して言うことを聞かせてきました。
 その結果、米軍の対日感情も、日本国民の対米軍感情も、長期的には次第に悪化しつつ現在に至っているのです。
 こんなことをいつまで続けているつもりなのでしょうか。
 もはや日本にはこれまでのように大盤振る舞いを続けるカネなどないというのに・・。 岩国市民の皆さん、ここは歯を食いしばって井原市長を勝たせましょう。
 そして、政府・自民党を狼狽させましょう。
 日本の覚醒、日本の米国からの自立は、こうした異議申し立てを重ねることなしには不可能だからです。