太田述正コラム#2347(2008.2.5)
<岩国への空母艦載機移転をめぐって(その1)>(2008.3.20公開)

1 始めに

 米大統領予備選挙が山場のスーパー・チュースディを迎えていますが、日本の岩国でも市長選の真っ最中です。
 この市長選、在日米軍再編に伴う米海兵隊岩国基地への空母艦載機部隊移駐受け入れに反対する井原勝介氏(57歳。旧労働省キャリア出身)が容認派が多数を占める市議会との対立の末にの辞職したことに伴うものですが、井原氏と、受け入れに柔軟姿勢を示す前自民党衆院議員の福田良彦氏(37歳)と横一線で激しく競り合っていると報じられています。
 上記艦載機移駐計画については、最新の世論調査では「賛成」が15%、「地元の意見を反映して修正すれば賛成」が31%、「反対」が47%となっており、10日の投開票の結果が注目されます。
 (以上、
http://www.chugoku-np.co.jp/iwakuni/bakuon/2008010101.html
(2月4日アクセス)、及び
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20080205-OYT1T00033.htm?from=main3
(2月5日アクセス)による。)

 この選挙の告示(3日)前に、次期大阪府知事の橋下徹氏が、福田氏を応援するする立場から、2006年に井原氏が岩国市長として実施した住民投票を「防衛政策に自治体が異議を差し挟むべきではない」、「憲法が間接代表制をとっている以上、住民投票の対象も絞られるべきだ」、と発言したり、井原氏を「憲法を全く勉強していない」と批判したりして政治学者や憲法学者の顰蹙を買う、という出来事が起こり、話題になりました。(
http://www.asahi.com/politics/update/0201/OSK200802010112.html
(2月2日アクセス)、
http://www.asahi.com/politics/update/0202/SEB200802020019.html  
(2月3日アクセス))

 橋下氏のこのような言動は、以下の三点で遺憾であると言わざるをえません。
 第一に、橋下氏は自民党や公明党とは一線を画す形で大阪府知事選挙に立候補し、当選したはずなのに、最近、何事によらず、権力にすり寄る姿勢を鮮明にしていることです。
 第二に、橋下氏が、弁護士であり、かつ重要な首長戦に立候補し当選しながら、憲法についても地方自治についても半可通でしかないことが露呈されたことです。
 第三に、橋下氏が、日本の基地問題一般についても、岩国固有の基地問題についても、まるで分かっていないとしか思えないことです。

2 岩国における基地問題の経緯

 米海兵隊岩国基地は、海上自衛隊が共同使用していますが。ここに横須賀を母港とする米空母の艦載機部隊を移駐させる計画があります。
 この艦載機部隊の移駐に、騒音の増大を懸念して岩国市民の多くが反対しています。

 岩国基地の滑走路の沖合移設のきっかけは、1968年に九州大学に戦闘機が落ちたことに遡ります。同じ機種の戦闘機が岩国基地に配備されていることから、同様の事故が起きるのを回避したい岩国の人々の強い要望を受けて、20数年後の1992年になってようやく滑走路の沖合移設が決定し、1997年に着工、2008年度に完成する運びとなっています。(
http://miyagi.no-blog.jp/nago/2007/12/post_9f4f.html
。2月4日アクセス。以下同じ)
 この間、岩国基地沖210ヘクタールの広大な藻場や干潟の埋め立てが行われ、これに2,400億円もの巨額な思いやり予算が投入されています。
 なお、1992年6月の沖合移設決定時に、防衛施設庁(当時)と山口県、岩国市の三者の間で、「NLPについては将来とも受け入れざるを得ないと思慮」と記した文書を作成しています。
 (以上、
http://www.kokuminrengo.net/2005/200509-iwaguni.htm
http://isaonaka3.web.infoseek.co.jp/airlines3/nichibei200504-2.html
による。)

 2005年10月に、日米政府合意に基づく厚木基地(神奈川県)から岩国への空母艦載機部隊の移駐計画が公表されます。
 もともとは基地容認派であった井原市長は、岩国基地に配備される米軍機が将来、現在の2倍の約130機と沖縄の嘉手納基地を上回る規模になることから、これに反対の意向を表明します。
 二井山口県知事もこれに同調しました。
 井原市長が2006年3月に住民投票を岩国市(旧岩国市)で実施ししたところ、87%が艦載機部隊移駐に反対、という結果が出ました。
 これに対し国は、2008年度末で終わる岩国市の新庁舎工事への補助を凍結するという対抗措置をとります(注1)。(2008年度国家予算案では、補助金の計上そのものが行われませんでした。)
 (以上、
http://www.chugoku-np.co.jp/iwakuni/bakuon/bakuon1.html
http://www.chugoku-np.co.jp/iwakuni/bakuon/2008010301.html
による。)

 (注1)岩国市は、市庁舎本体工事費81億円のうち、これまでに得た14億円を含めて最終的49億円の補助金を見込んでいた。この補助金は、沖縄での少女暴行事件に端を発した1996年の日米特別行動委員会(SACO)に基づき、沖縄の普天間基地から空中給油機の受け入れを表明した見返りだった。艦載機移転が日米間で最終合意された2007年5月、米軍再編の閣議決定に伴って従来の日米安保の枠組みが変わったとして、空中給油機が来ることに変わりはないというのに、「SACO」の補助金は白紙に戻ったと国は主張するに至った。

 これは、カネの威力にモノを言わせるという防衛省の防衛庁時代からのお馴染みの手法であり、いかにも守屋がやりそうなことです。

(続く)