太田述正コラム#2391(2008.2.28)
<皆さんとディスカッション(続x75)>

<Pixy>

コラム#2389で自分が呼ばれた気がしたので、またコメントします(笑)

Is Kosovo Serbia? We ask a historian
http://www.guardian.co.uk/world/2008/feb/26/kosovo.serbia

 コソボ独立に関して、未だかつて「自治州たるコソボの独立はセルビアの主権侵害、国際法違反」という主張を覆すだけの説得力のある説明は聞いたことがなかったのですが、太田さんが紹介された、ガーディアンのこの歴史コラム、恐るべき破壊力ですね。
 歴史的事実が列挙されたこのコラムを素直に読むと「コソボは歴史的に今も昔も実質的にセルビアの一部であった事実はなく、名目上の自治州というよりは、ユーゴから独立した他の共和国と同じレベルで論じられるべき」「旧ユーゴを構成していた各共和国の独立と同様、事実上(セルビアでなく)ユーゴの一部であったコソボが独立するのは自然な流れ」となります。
 しかしながら、コラム中にて言及している歴史的事実は(概ねその通りだとは思いますが)コソボに都合の良い部分のみに偏っていますね。

>セルビア人にとって、歴史は彼らがバルカン半島に定着した7世紀初めに始まる。彼らがコソボを征服したのは13世紀初めになってからだ。・・オスマントルコからまずセルビアが独立し、そのセルビア王国が1912年にオスマントルコ領であったコソボを征服する。当時だってコソボの住民の少なくとも75%以上はアルバニア人(イスラム教徒)であり・・

 1389年にコソボの戦いでの敗退後の長年に渡るオスマントルコの支配下でセルビア人はコソボから追放されています。1912年時点でコソボの住民にセルビア人が少ないというのは当然でしょう。加えて住民の多数派であるアルバニア人はコソボの先住民でもなんでもなく、歴史的にセルビア人のずっと後にコソボ に住み始めたという事実も押さえるべきですね。

>1918年になってコソボの法的地位は定まったが、やはりセルビアの領土に編入されることなく、新生ユーゴスラビアの一部とされた。

 同コラムは概ねその通りだと思いますが、上記部分はさすがに疑問があります。セルビア人的にセルビア正教・王国の発祥の地であるコソボを数百年振りに奪還して、領土に編入しないというのは明らかに不自然です。コソボは最初からユーゴの一部という典拠が必要です。

>セルビアのミロシェヴィッチ(Milosevic)によってユーゴスラビア連邦が解体されるまで、コソボは二重の法的地位を維持した。すなわち、セルビアの一部であると同時に、セルビアと並ぶユーゴスラビア連邦の8つの単位のうちの一つだった。 しかし、後者が優位にあったと言ってよかろう。コソボは自前の議会と政府を持ち、セルビアとは連邦レベルにおいては対等だった。(チトー亡き後は、大統領職を上記の8つの単位の代表が順番に勤め、コソボの代表も大統領職を勤めた。(太田))

 コソボは事実上、最初からユーゴ連邦の一つの単位で(歴史的・民族構成等の特異性により)ユーゴ内で例外的な扱い・地位にあったという印象を与える記載で同コラムで一番いやらしいと思える部分です。
 コソボ自治州がユーゴ連邦内の6共和国と同等の地位を得るのは1974年の憲法ですので、コソボはユーゴ連邦樹立時からそれまでは他共和国と同等ではなかったことになりますが、同コラムは触れてません。加えて、セルビア北部のもう一つの自治州であるヴォイヴォディナ(半数はセルビア人、マジャール人等)にも同憲法にて同等の地位が与えられている事実も触れられてません。
 コソボ・ヴォイヴォディナの2つの自治州が、共に等しく他共和国と同等の地位が与えられたという事実を考慮すると、ユーゴ連邦内でコソボが独立を是とするに足る例外的扱いをされていたとはとても言えません。事実、コソボの代表が大統領職を勤める前は、ヴォイヴォディナの代表が務めていますし、同ガーディアンコラムの論法に従うと、ヴォイヴォディナ自治州も歴史的にハンガリーであり、ユーゴ連邦の一部だったのだから、独立するのが自然な流れということになります。

 補足します。
 ユーゴの74年の憲法改正にてセルビア内のコソボ・ヴォイヴォディナの2つの自治州に対し、連邦レベルでの拒否権等の他の共和国と対等の地位・権利が与えられた背景としてはコソボのアルバニア人の自治権拡大要求があったかもしれませんが、各共和国及び自治州での自治権拡大は、そもそもが多民族国家であり民族共存がその存続に必須となるユーゴ連邦にとっては当然の成り行きでしょう。
 しかし、ガーディアンコラムは、この褒められこそすれ、非難する人は誰もいないであろう(ユーゴの歴史の中で74年〜90年の16年間に過ぎない限られた期間の)自治権拡大の事実を逆手に取り、コソボのみ抜き出して巧妙にコソボの特異性をアピール(コソボ自治州は最初!?から他の共和国と対等だったのだから独立も自然だ)しているように思えます。
 私も別に、何でもかんでも無理やり難癖を付けてコソボの独立はおかしいと言うつもりはないんですが、そもそもの疑問としては、他の国の分離独立は一切認めない一方でコソボのみ例外ケースとして欧米が一方的に無理やり独立させるだけの「例外的」な理由が、一体コソボのどこにあるのか?ということです。もし 米・英が、台湾もカタルーニャもキプロスもケベックもボスニア内のセルビア人共和国も全て、大多数の住民がそう望むのなら例外なく独立を支援すると言うのなら、筋は通りますのでコソボ独立も理解できますが。

<太田>
 
 最初に終わりの箇所ですが、一般読者の方のため二点。
 「欧米が」とあるところ、スペインはバスクやカタロニア(カタルーニャ)問題、スロバキアはハンガリー人地域問題、ギリシャとキプロスはキプロス北部のトルコ人地域(北キプロス・トルコ共和国)問題、ルーマニアは隣接する兄弟国モルドバのロシア人地域(沿ドニエストル共和国)問題を抱えることから、コソボ独立を承認しようとしていないことに留意が必要です(
http://www.iht.com/articles/ap/2008/02/18/europe/EU-Kosovo.php
(2月28日アクセス)等)。
 また、台湾は国際法的には中華人民共和国(中共)の一部ではないので、台湾の中共からの独立はありえませんが、支那をも領土としている中華民国からの台湾の「独立」の是非は議論になっているところです。

>>1918年になってコソボの法的地位は定まったが、やはりセルビアの領土に編入されることなく、新生ユーゴスラビアの一部とされた。
>同コラムは概ねその通りだと思いますが、上記部分はさすがに疑問があります。

 私の引用したガーディアン・コラムの筆者マルコーム(Noel Malcolm)はオックスフォード大学の上級研究員であり、'Kosovo: A Short History’という本を出しているらしいので、直接この本にあたってみてください。

>コソボ自治州がユーゴ連邦内の6共和国と同等の地位を得るのは1974年の憲法ですので、コソボはユーゴ連邦樹立時からそれまでは他共和国と同等ではなかったことになりますが、同コラムは触れてません。加えて、セルビア北部のもう一つの自治州であるヴォイヴォディナ(半数はセルビア人、マジャール人等)にも同憲法にて同等の地位が与えられている事実も触れられてません。

 前段は知りませんでした。
 後段については、マルコーム自身が、「コソボ以外のほとんどすべての単位は現在独立国家となっている」と「ほとんど」と言っているのでまあよろしいのでは・・。
 いずれにせよ、ヴォイヴォディナではセルビア人が65.5%も占めており(
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%B4%E3%82%A9%E3%82%A4%E3%83%B4%E3%82%A9%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%8A
)、コソボとは事情が決定的に異なります。

<Pixy>

The Kosovo precedent
http://commentisfree.guardian.co.uk/irina_filatova/2008/02/the_kosovo_precedent.html
 
 ガーディアンの上記コラム、ロシアが何故コソボ独立に反対しているのかの説明があり、面白かったです。
 ロシアのコソボ独立反対は、大国復活を目指すロシアの外交上のいやがらせに過ぎず、内心はどうでもいいと思ってるんじゃ?と思ってましたが、記憶を頼りに勝手にまとめると、連邦国家が崩壊して、かつて自分の庭と思っていた場所が欧米に好き勝手に蹂躙されているという喪失感、欧米の方針一つで国境が変わってしまうのなら、自国の領土は誰がどうやって守ればいいのか、明日は我が身という危機感がロシアにあり、コソボ独立反対は、右派、左派問わず一致するとのことです

<太田>

 セルビア外相の主張が、ニューヨークタイムス(
http://www.nytimes.com/2008/02/27/opinion/27jeremic.html?ref=opinion&pagewanted=print
。2月27日アクセス)に載っています。
 コソボ独立は国際法違反であり、コソボの独立を承認する国の数は40か国程度以上には増えないだろうろうし、そもそも、独裁者ミロシェビッチが1990年代にコソボで悪行を重ねたことで、この独裁者を2000年に平和裏に権力の座から引きずり下ろした民主主義セルビアが罰せられるのはおかしい、という内容です。ご参考まで。

<ぱるっく>

はじめまして。いつもコラムを楽しみにさせてもらっています。
 コラム#2026<ホロコーストの真相>を読みました。
 全体的には概ね理解できる内容だったのですが、一点だけ指摘させてもらいます。

>ユダヤ人を欧州から、そして究極的には世界から駆逐しようというのは、ドイツ人だけが生み出したドイツ人固有のイデオロギーだ。

 ユダヤ人を駆逐しようとしたのはドイツだけではありません。
 ロシアや東欧ではポグロム(
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%82%B0%E3%83%AD%E3%83%A0
)と言われるユダヤ人殺戮が行われていました。

<太田>

 ポグロムは、特定の国ないし地域におけるユダヤ人への迫害であり、「欧州(全体)から、そして究極的には世界から駆逐しよう」、すなわち文字通りユダヤ人を絶滅させよう、としたわけではありません。

<Master>

 あたごはなんで自動操舵なんて使ったんだろうか?

<バグってハニー>

事故当時、仮眠をとっていたあたご艦長の更迭を石破長官もとい大臣が示唆したなんて報道されてますね。「寝てるなんてたるんでる証拠!」ということなんでしょう。
 結局どんな重大事故が起きても行き着くところは精神論なんですよねえ。なんか太平洋戦争が終わって価値観がすごく変わったようでいてあんまり変わってない。

<太田>

 私だってそう言いたいのはやまやまなのですが、TVを見ていたら、艦長が記者会見で「あそこが漁船の多い海域だとは思わなかった」といった趣旨の発言を行っていました。
 あたごの定係港は舞鶴だし、たまたまこの艦長はこれまで横須賀出入港の経験がほとんどなかったのかもしれないけれど、ちょっとあれでは救いようがないですね。
 仮眠をとっていたとかいなかったとかいう以前の話です。
 事故が起きる直前まで自動操舵にしていたことや、見張り員やレーダー員のぶったるみ方等を見るにつけ、艦長の甘い認識が艦全体を覆っていたということでしょう。
 昔から軍艦は運命共同体であり、乗員は全員艦長の手足に過ぎません。
 更に厳しいことをあえて言います。
 艦長は、記者の様々な質問に対し、捜査の対象なのでと言って大部分口を濁していましたが、それなら上記のような発言こそ控えるべきでした、これで事故原因が艦長にあることがはっきりした感があります。もう捜査の必要などないのでは・・。

<庶民>

 --自衛官の資質--

 昨日から船渡健艦長と海上幕僚長の映像が流れていますね。
 石破大臣も結局隠蔽体質だったことはさて置き、このお二方のトホホなご様子を見て感じるのは、頼りなさしかありません。
 艦長のナイーブさ、海上幕僚長の枯れたような顔色・・・。
 己の怠慢を反省するにしても、もう少し毅然とした雰囲気をトップは持っていると思い込んでいました。
 実戦も海上保安庁の方が積んでいますが、海自って本当に大丈夫なんでしょうか?
 他国からは優秀な海軍だと評価されているようですが・・・。
 第三国に付け入る隙を見せているだけですね。

<太田>

 おおむね同感です。
 災害派遣や対領空侵犯措置、とりわけPKOへの派遣やイラク派遣で、生命を危険に晒す緊張感ある勤務経験を積み重ねてきた陸自や空自と、そのような経験を与えられなかった海自の差が出た、ということなのかもしれません。
 (体を張った)TVゲーム(訓練・演習)の腕とゴマスリの巧みさだけで出世の程度が決まる世界に生き、その勝者が海幕長であるのに対し、ゴマスリの方がイマイチだと52歳で海自の最優秀艦の艦長ではあるけれどまだ1佐、という違いとなって現れたということでしょうか。
 海上自衛隊が、旧帝国海軍の良い意味での遺産を完全に食いつぶしてしまっているとすれば、これはちょっと大げさに言えば、世界にとっての損失であり、まことに哀しいことです。

<コバ>

 北朝鮮と中東諸国との間の「危険な結びつき」(
http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20080226AT2M2600U26022008.html
)とは、核兵器開発が念頭にあるのでしょうか。
 また、日本とイスラエルが北朝鮮と中東諸国との軍事協力情報を共有する仕組みを持つそうですが、日本にそうした情報を得るための能力はあるのでしょうか。安全保障を放棄している国の集めた情報など、イスラエルが肩を落としてしまいそうな・・。

<太田>

 ミサイルと核兵器・・核兵器が搭載できるミサイルの問題もある・・がイスラエルの最大関心事でしょう。
 日本と違ってイスラエルはイランと国交がないし、民間企業も進出していません。軍事/核情報以外で日本がイスラエルに提供できる情報はたくさんあると思いますよ。わが外務省だって全く仕事をしていないわけではありません。

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 たかじんのそこまで言って委員会で、太田さんのことを知り、非常に興味を持ちました。
 著書を購入しようとしていますが、中々見つけれない時にメルマガを知り、読まさせていただいております。
 無休、色々な誹謗中傷に暴力等々にも屈せず頑張って居られ、支えれることがあれば、と思い、申込させていただきました。
 これからも、健康にご留意され、日本のために頑張っていただくことを願っています。
 私も微力ながら、子供たちのために!

<太田>

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太田述正コラム#2392(2008.2.28)
<米キリスト教原理主義退潮へ?(その3)>

→非公開