太田述正コラム#2380(2008.2.22)
<衝突事故でのフジテレビ録画取材>(2008.2.23公開)

 (本篇は、明日昼まで公開しません。)

1 始めに

 イージス艦のあたごと漁船の清徳丸の衝突事故に関し、本日フジテレビの録画取材を受けました。
 その際に私がしゃべったことの要点を、言葉を補いつつご紹介しましょう。

2 しゃべったこと

 これは放映してもらっては困るが、深夜、横断が禁止されていない通りを歩行者が横断しようとしてダンプカーにはねられたとします。
 もちろんはねたダンプカーの運転手の方が悪いのですが、歩行者の方がより注意すべきは当然です。事故が起こったら歩行者はひとたまりもないけれど、ダンプカーの方はバンパーがちょっとへこむ程度に過ぎないからです。今回の事故では、清徳丸はまことにお気の毒だったけれど、もう少し注意して欲しかったと切に思います。

 ついでに申し上げておきますが、清徳丸の存在に衝突するまで気がつかなかった可能性が高いという体たらくでは、あたごは舟艇による自爆テロ攻撃を受けたらひとたまりもなかったということになります。海幕は猛省が必要です。(コラム#2379参照)

 さて、今回の事故に関し防衛省が情報を隠そうとしているのではないか、小出しに情報を出してくるところを見るとそう思えてならないというご質問についてです。
 こういうことは、戦後一貫して自衛隊が日陰者の存在であったという哀しい事実を抜きに論じることはできません。

 1988年の潜水艦なだしおの衝突事故の時は私は英国に滞在中でしたが、航海日誌の改竄まで行われた。
 情報をありのまま開示しても、最初から自衛隊に対しては色眼鏡で見られるのだから、改竄した情報を出してやれ、という気持ちがどこかにあったのではないでしょうか。
 当時に比べれば、国民の自衛隊に対する理解は深まってはきていると思いますが、現在でも状況は本質的は変わっていません。

 それはそれとして、今回の事故に関して言えば、防衛省や海幕が情報を隠そう、ごまかそうとしているとは私は思いません。
 これも自衛隊が日陰者の存在であることと関連しているのですが、自衛隊は実戦経験が全くないし、近い将来においても実戦に従事する可能性もありません。国民がそれを認めないからです。
 これが問題であることをまず頭に入れてください。

 このため、制服組には、この情報は敵に知られては絶対にマズイので開示すべきではないとか、この情報なら開示しても一向に差し支えないといった具合に、情報を仕分けする感覚が身に付いていないのです。
 米軍を訪問すると分かるのですが、こんなものまで見せてくれて良いのか、こんな説明まで聞かせてくれて良いのかといつもびっくりします。これに対し、自衛隊では何でもかんでも秘に指定して部外者にはオフリミットにしています。にもかかわらず、というよりだからこそ、絶対に開示すべきでない情報が漏れてしまうこともよくあります。
 仕分けする感覚がないからこんなことになるわけです。

 実戦を行うことがないことはもう一つの問題を引き起こします。
 現代では実戦においては、ドンパチやるだけでなく、軍の行動についてどのように広報宣伝をするかが極めて重要です。
 ですから、まともな国の軍隊では、将校はインタビューの受け方、記者会見の仕方等の教育訓練を受けます。私も1988年の英国の国防大学留学時にそのための陸軍の施設があると聞いて、この施設を訪問し、教育訓練のまねごとを実地に体験させてもらったことがあります。
 しかし、自衛隊ではこんなことは全くやっていません。
 自衛隊は見せかけだけの軍隊ですから、本来軍隊に必要なものが一杯欠落しています。これもその一つの例です。

 何を秘匿すべきかの感覚がない上、情報開示の方法も分からないときているのですから、今回の事故に関し、情報を小出しにしてきて、何か隠そう隠そうとしているような印象を与えてしまったのは決して不思議ではないと言うべきでしょう。

 日本の場合は、もう一つ問題があります。
 背広組がいわゆるシビリアンコントロールを文官統制とはき違えて制服組の上に君臨していることです。
 この背広組も制服組同様、何を秘匿すべきかの感覚がなく、情報開示の方法も分からないのはもちろんですが、これに加えて自衛隊の装備や運用についてほとんど無知である上、秘匿事項の取り扱いの教育すら受けていません。
 最後の点ですが、背広組は政治家やマスコミの記者に秘匿事項であろうがなかろうが、リークすることによって政治家についての情報や防衛省に係る人事情報をとろうとしてきました。
 こんな背広組を通さなければ、制服組は情報を防衛大臣や官邸に上げることができないのですから、制服組がいかなる情報をどの程度上げるべきか思案に暮れたり、その挙げ句情報を上げるべきタイミングを失したりすることが起こるのは当然です。
 最近では、制服組が直接大臣に情報を上げることができるケースが出てきているようですが、直接と言っても、相手は背広組の大臣秘書官ですから、同じことです。

 ではどうすべきか。
 一つには、背広組に秘匿事項の取り扱いの教育を施すとともに、背広組キャリアや制服組幹部向けに情報開示の方法についてみっちり教育訓練を行うことです。
 二つには、防衛省内外の抵抗勢力を押し切って、背広組と制服組が機能分担しつつ対等な立場で防衛大臣を補佐する態勢を構築することです。この関連で、自衛隊の運用事項(事故を含む)は制服組の担当とし、情報を背広組が全く関与しない形で大臣に上げられるようにすべきです。
 三つには、最も困難なことですが、国民が、政治家を通じて自衛隊に実戦を伴う具体的任務を与えることです。そのためには少なくとも憲法第9条の政府解釈の変更が必要になります。

 (23日(土)1000〜1130に録画の一部を放映するということでしたが、番組を見落としてしまいました。放映されたのかなあ。)