太田述正コラム#2297(2008.1.13)
<台湾立法院選挙>(2008.2.18公開)

1 台湾の立法院選挙についての新聞記事

 (1)選挙結果

 台湾の国会にあたる立法院の選挙が12日、投開票され、野党国民党が3分の2を超える81議席を獲得しました。国民党にとって単独過半数は1998年選挙以来。他方、与党民進党は27議席にとどまり、諸派・無所属が5議席でした。
 民進党の議席割合は約24%にとどまり、初めて完全直接選挙となった1992年の選挙で161議席のうち50議席(約31%)を得たときを更に下回りました。
 なお、投票率は小選挙区で前回選挙の約59%をやや下回る58.5%、比例区で58.3%でした。
 この選挙は、2005年の選挙制度改革で今回から定数が半減、小選挙区73議席と政党比例区34議席、先住民区6議席の計113議席を争ったものです。
 立法院では3分の2の賛成があれば、総統の罷免案を提案して住民投票で賛否を問うことができますし、国民党と協力関係にある諸派・無所属の当選議員5人も加えると、合計で4分の3を超えます。4分の3の賛成を得れば憲法改正などの提案が可能です。
 陳水扁総統は選挙敗北の責任をとって民進党党首を辞任しました。
 (以上、
http://www.asahi.com/international/update/0112/TKY200801120211.html
(1月13日アクセス)による。以下特に断らない限り同じ。)

 以上は朝日の電子版の記事を要約したものですが、これだけ読むと、与党の民進党は大敗北を喫した、よって3月22日に予定されている総統選挙でも民進党候補の当選はおぼつかない、と誰でも思うことでしょう。

 (2)民進党敗北原因は経済失政?

 東京新聞の記事も同じようなことを記した上で、民進党敗北原因について、以下のように分析しています。

 「台湾紙・聯合報が昨年末に実施した世論調査では、<台湾市民の>83%が「不景気」と答え、貧富の格差が広がったと感じる人は9割近くに上った。07年の消費者物価指数は前年比1.8%上昇するなど、物価高も家計を直撃している。3月の総統選候補となる<国民党党首の>馬英九氏は、総統に就任すれば▽中国と統一問題を話し合わない▽台湾独立を支持しない▽ 中国側が武力で台湾問題を処理することに反対する−とし、対中政策を「経済・貿易関係の正常化協議から始める」と述べた。そのうえで「大陸観光客の受け入れ開放は、年間600億台湾元(約2100億円)のビジネスチャンスと4万人分の就業機会を生む」とアピールした。大陸で働く台湾人ビジネスマンが家族も含め約100万人とされ、07年の貿易統計では輸出先の4割を中国が占め、増加率は前年比12%といった現実を踏まえると、その主張には説得力があ<った>。」(
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2008011390070847.html

 あの英ファイナンシャルタイムスも、「伸びない賃金、高騰する物価と失業率の高さ」が民進党敗北をもたらしたとしています(
http://www.ft.com/cms/s/0/4a0148ca-c139-11dc-814e-0000779fd2ac.html)。

 台北タイムスも同じ趣旨のことを言っています(
http://www.taipeitimes.com/News/taiwan/archives/2008/01/13/2003396940)。

 (3)民進党敗北原因は「独立」にこだわりすぎ?

 民進党政権が台湾「独立」にこだわりすぎたことに選挙民が嫌気が差したからだとするのがワシントンポストの記事です。
 台湾の安全保障にとって不可欠な存在である米国のブッシュ政権が、このところ民進党政権の台湾「独立」志向に不快感を示していることが選挙民に影響を与えたというのです。
 (以上、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/01/12/AR2008011200862_pf.html
による。)

2 新聞批判

 しかし、これらの記事は、誤解を与えるものです。
 先に周辺的な問題から始めましょう。
 経済に言及する記事についてですが、東京新聞の上記記事自身、「台湾の2006年の経済成長率は4.89%、2007年は5.46%に達する。失業率もここ数年は低下傾向にあり、2007年1〜11月の平均では3.92%」であることを認めており、自家撞着を起こしています。
 もちろん、最近の(日本を除く)アジア経済の高度成長、就中「隣国」中共の高度成長に比べれば、台湾のこのような成長率は遜色があることは確かですが・・。

 また、「独立」志向に言及するワシントンポストの上記記事も、台湾の民意の最近の大きな変化について、誤解を与えかねないものです。
 というのは、自らを支那人であると同時に台湾人でもあると思う台湾の人の割合は2007年に45%であったところ、自らをもっぱら台湾人であると思う台湾の人の割合は2003年には17%だったのが2007年には45%に増えたのに対し、自らをもっぱら支那人であると思う人の割合は2003年には26%であったのが2007年にはわずか6%に減っているからです。
 ちなみに、台湾はただちに中共と統一すべきだとする人は2%しかおらず、13%は将来とも統一すべきではないと考えています。
 (以上、
http://www.ft.com/cms/s/0/ecd17520-bcb6-11dc-bcf9-0000779fd2ac.html
(1月12日アクセス)による。)
 つまり、台湾の民意はどんどん「独立」志向になっているということです。

 より深刻な問題は、これらの記事は事実と全く反対のイメージを読者に与えるという点です。
 実は、民進党は前回の立法院選挙より健闘したからです。
 というのは、民進党の議席の全議席に占める割合は減ったけれど、民進党の得票率は増えたからです。
 すなわち、民主党の得票率は4年前の立法院選挙の時に比べて35.7%から38.17%に増えているのです。(今回導入された比例区の方では36.91%ですが、これだって35.7%を上回っています。)(
http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2008/01/13/2003396944

 では、民進党の議席の割合が減った原因は何だったのでしょうか。
 それは大部分、中選挙区制を小選挙区制を基軸とした選挙制度へと変えるなどという自ら墓穴を掘るようなことを陳水扁民進党政権がやってしまったからであり、部分的には、国民党が野党系の諸派と選挙協力を行ったのに、民進党は与党系の台湾団結連盟(李登輝前総統を精神的指導者とする)と選挙協力ができなかったからです(台北タイムス上掲)。

4 蛇足

 以上を踏まえれば、ガーディアンが電子版で本件を載せなかったことは一つの見識だと思いますが、産経新聞が電子版で本件を載せなかったことは、台湾が隣国であるところの旧植民地であることを考えれば、まことに困ったことです。