太田述正コラム#2330(2008.1.29)
<皆さんとディスカッション(続x51)>

<バグってハニー>

遠江人さんが(コラム#2325で)指摘している通り、日本には実質的に移民が存在していない。だから、外国籍の外国人の参政権を議論することには意味がない。
一方で、在日という例外がある。いろいろと軋轢を生んで、差別だ、逆差別だと騒がれている。ですから、在日という大きな問題の中に参政権という小さな問題が含まれているというのが私のスタンスなんですね。在日に日本国籍を付与すればすべての問題が一挙に片付くと。そういう感じの主張です。

次にUeyamaさん(コラム#2325)、

>二重国籍を(それらの人々だけにでも)認めることによって、在日(韓国・朝鮮人)の人も、台湾や朝鮮半島在住の方も、母国を(形式的にでも)捨てることなく、日本国籍を取得するという踏み絵さえ踏めば、参政権を得られるということです。
(中略)
※逆に、バグってハニーさんの主張のように、無条件に(強制的に)日本で生まれた外国人に日本国籍を与える、とした場合、在日(韓国・朝鮮人)の一部の人から反発をくらいそうです(あくまでイメージです)

反発されるからこそ、強制的に付与する、というのがミソなんですけどね。普通の日本人は日本人になることを選択してないでしょ。生まれたときから日本人なのであって、日本人であることにどれだけ反発しようが受け入れるしかない。
 ただし、Ueyamaさんの重国籍を認めるというのはいいアイデアのような気がします。
 帰化する際には重国籍が認められない、ということは書きましたけど、生まれたときから重国籍の人に対しては日本政府は実質的に重国籍を認めています。このような人は22歳になるときに国籍選択届けを出す必要があるのですが、これは日本国籍を選択する、と宣言するだけです。一応、役所の人から他方の国籍を離脱するように努力せよ、とは説明されますが、何か証明を出す必要はありません。特別永住者も生まれたときから重国籍の扱いにすればいいかもしれないです。日本国籍選択届けが最低限の「踏み絵」になります。それすりゃしない人は参政権なんて要らないんでしょう。

 また、太田先生、

>バグってハニーさんもやはり日本人だったのですね。(太田。コラム#2322)

自分では自分のことを日本人だと思ってますけどね。ただ、私のように「日本で生まれたら日本人にしろ」と主張する日本人は普通いないと思いますけど。
 徴兵制のことを指しているのでしたら、歴史的な意義はともかく現代では軍事的・技術的に徴兵制は意味がない、軍事にかまけている米英でさえ徴兵制が復活することは考えられない、いわんや平和主義の日本をや、ということです。
 日本が韓国や旧西ドイツのような分断国家になるか、戦前みたく大陸侵略でもしないかぎり、徴兵制を議論することに意味はないですよ。

>特にご議論の「2」の部分は、かつてないほど筆が粗いですね。(太田。同上)

いや、人のこと言えないですよ。外国人参政権に関して、先生もずっと雑駁な議論を続けていますよ。例えば

>検討したことがないので、アバウトな議論であることをお断りしておきます。(中略)フツーの国では、国政への参政権を得るということは、徴兵の義務を負うことと同値です。権利には義務が伴うということです。(太田。#2201)
>いずれにせよ、どれだけ米国や日米関係について知識をお持ちであろうと、最終的には、米国のために血を流せるのか、それとも日本のためになら血を流せるか、が「独立」か合邦かを選択するメルクマールだと思います。独立国の憲法で、市民の徴兵義務を免除しているものはないからです。(太田。コラム#2310)
>最後に、私が国政レベルの選挙権を与えるべきではないと考えるのは、普通の国では国政レベルで選挙権が与えられた外国人は徴兵の対象となるところ、日本では、外国人に義務抜きで権利を与えることになってしまうからです。典拠をつけなくてすみません・・。(コラム#2316)

というように、肝心の典拠がありません。というわけで、ちょっとだけ調べてみました。米国では徴兵制は形式的に存続していると書きましたが、それはSelective Service Systemのことです。
http://en.wikipedia.org/wiki/Selective_Service_System

18歳から25歳までの男子全員には、来るべき徴兵に備えて登録する義務があります。それで、こちらではどのような人が対象になるのかチャートになってます。
http://www.sss.gov/must.htm

これをみると参政権のない外国人も、永住者、不法移民を含めて、徴兵対象であることが分かります(ドキュメントのない不法移民も登録せよ、というのがアメリカらしい)。ですから

>フツーの国では、国政への参政権を得るということは、徴兵の義務を負うことと同値です。(太田)

というのは間違いです。米国では国政レベルの参政権がなくても徴兵され得るからです。フツーの国とは?とかいう定義は別にして。ただし、太田先生の主張は包含関係として「参政権を持つ人≦兵役対象者」(「同値」つまり必要十分条件ではなくて兵役は参政権を得るための必要条件であって、十分条件ではない)というようにも読めるので、それならまだ正しいです。

<太田>

 米国は(日本とは対蹠的な意味で)必ずしも「フツーの国」ではありません。
 それはともかく、あなたご自身が示唆されているように、その米国では徴兵に応じたり、軍隊に自ら志願した場合、永住権や国籍付与に便宜が図られることになっているはずです。
 つまり、米国は、「兵役は参政権を得るための必要条件であって、十分条件ではない」国の一つ(唯一の国?)・・ただし、この「国」の中には日本は含まれません・・なのです。
 いずれにせよ、米国を含む(日本を除く)どの国でも徴兵(兵役志願を含む)と参政権はリンクしているということは認めていただけるのではありませんか。

<バグってハニー>

「日本では徴兵は憲法で禁じられている」という主張の根拠も見当たらなかったので調べてみたらこんなのが出てきました。
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/093/0020/09310300020006c.html

ずっとスクロールして最後のほうです。徴兵制に対する内閣法制局の見解

「一般に、徴兵制度とは、国民をして兵役に服する義務を強制的に負わせる国民皆兵制度であって、軍隊を常設し、これに要する兵員を毎年徴集し、一定期間訓練して、新陳交代させ、戦時編制の要員として備えるものをいうと理解している。このように徴兵制度は、我が憲法の秩序の下では、社会の構成員が社会生活を営むについて、公共の福祉に照らし当然に負担すべきものとして社会的に認められるようなものでないのに、兵役といわれる役務の提供を義務として課されるという点にその本質があり、平時であると有事であるとを問わず、憲法第十三条、第十八条などの規定の趣旨からみて、許容されるものではないと考える。」

 憲法で徴兵を禁じるというのは間抜けな国だとは思いますが、矢山委員が噛み付いているように、一律全面的に禁止しているのではなくて、「もし公共の福祉に照らして、当然負担すべきものだと社会的に認められるようになったら、これは容認される」というようにも読めます。多くの国で平時徴兵が廃れたのは、市民による多大な負担に比べて軍事的メリットつまり公共の福祉がほとんどないからであって、憲法云々を別にすれば、徴兵制がとても受け入れられそうにない米英の議会でも、似たような答弁が返ってきそうな気がします。

<太田>

 法律論と政策論を混同するな、と何度言ったら理解していただけるのでしょうね。

>「もし公共の福祉に照らして、当然負担すべきものだと社会的に認められるようになったら、これは容認される」というようにも読めます。

 読めるわけがないでしょ!

<ueyama>

>そもそも、「阪神淡路大震災時に・・強姦・略奪等が行われた」ことはありうるとしても、それが極めて少なかったからでしょう、ほとんど報道されなかったことも事実であり、そのことが国際的に称賛されたことを記憶しています(典拠失念)。

 私もそのような(国際的に賞賛された)記憶がありますが、これはその通りで、「関東大震災の際の出来事の異常さが際だってくる」(コラム#2327)というよりむしろ、阪神淡路大震災は様々な理由から(国際的に賞賛されたことからもわかるとおり)特別に穏便に事が収束したと見るべきではないでしょうか。「日本は地震のおかげでようやくアジア並みになってきたのである」(神戸難民日誌/津村喬/1995年)とにわか難民気分で馬鹿発言ができるほどには平和だったのです。翻って、関東大震災時には甘粕事件(憲兵隊による日本人アナキスト殺害事件
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%98%E7%B2%95%E4%BA%8B%E4%BB%B6
)や亀戸事件(軍部による日本人自警団員および社会主義者殺害事件
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%80%E6%88%B8%E4%BA%8B%E4%BB%B6
)といった朝鮮人とは関係のない事件も起こっています。ですから、「「火事場殺人」という言葉がない以上、関東大震災時の朝鮮人虐殺は「混乱期に起こる想定の範囲内のもの」とは言えない」(コラム#2327)とは思いませんし、朝鮮人虐殺が起こってしまった理由は、「当時、日本本土に働きに来ていた朝鮮人の殆どは日本語が不自由であり、仕事に困り罪を犯す者もいたため日頃から日本人の印象は悪かった」(
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%96%A2%E6%9D%B1%E5%A4%A7%E9%9C%87%E7%81%BD
)からで、これはその当時の現実としての朝鮮人観によるものであり、やはり縄文人のルサンチマンは関係ない、少なくともその主要因ではないのではないかと思います。

 同様に、現在の日本人による外国人移民拒否感情は、現在の現実としての外国人観(前に述べたとおり、誤解も含んだ在日韓国・朝鮮人優遇政策や、在日・来日外国人の犯罪率が高い(多くはデータには基づかない印象、あるいは不充分な検証による結論)、また、その印象から治安悪化(これまた印象)の原因を在日・来日外国人に求めてしまう
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%96%E5%9B%BD%E4%BA%BA%E7%8A%AF%E7%BD%AA
http://www.mars.dti.ne.jp/~saitota/hitori040506.htm
http://d.hatena.ne.jp/napsucks/20071202/1197098450
)によるものであり、やはり縄文人のルサンチマンは関係ない、少なくともその主要因ではないのではないかと思います。

<太田>

>阪神淡路大震災は様々な理由から・・特別に穏便に事が収束したと見るべきではないでしょうか。

 そうでしょうか。
 日本では、戦災、敗戦、累次の大地震等の大災害時において、こそ泥こそあっても、掠奪・強姦なんてほとんど起こった試しがないのではないですか。
 いや、関東大震災の時だって掠奪・強姦の話はほとんど伝わっていないのでは?

 さて、私がコラム#2325で、「仮定する」、「可能性がある」、「気がする」といった言葉を連発したように、

1 移民問題
 一、敗戦を境に日本は移民許容社会から移民拒否社会へと180度変わった。
 二、その背後に日本社会の縄文モード化があった。
 三、関東大震災の際の朝鮮人虐殺は、その前兆の一つであった。

という三つの命題は、いずれも呱々の声を挙げたばかりの仮説的命題にすぎない一方、

2 軍事問題
 一、敗戦を境に日本は軍事を尊ぶ社会から軍事を放擲した社会へと180度変わった。
 二、その背後に日本社会の縄文モード化があった。

という軍事問題の二つの命題については、一は争い得ない事実であり、二は仮説的命題ではあっても、これまで長期にわたって読者の方々から全くご批判を受けなかったところを見ると、(自分で言うのもおかしいけれど)結構説得力のある命題なのではないでしょうか。
 いずれにせよ、移民問題の三つの命題の方は、そのいずれについても、一層の議論が必要だと思います。ご批判は望むところです。

 ところで、危機においては、往々にして個人やグループの深層心理が露呈するものですが、関東大震災時における自警団等による朝鮮人虐殺は、縄文人の末裔たる大衆の深層心理の病理的な噴出であったのに対し、ご指摘の甘粕事件や亀戸事件は、弥生人の末裔たる支配層の深層心理の露呈であった、ととらえることも可能なのではないでしょうか。
 つまり後者については、日露戦争を戦ってロシアに辛勝したばかりの当時の日本の支配層が抱いていた、ロシアに由来するアナキズムやマルクス・レーニン主義に対する安全保障上の警戒心が病理的な形をとって噴出した、と見るわけです。
 もっとも、警察や軍が行った朝鮮人虐殺もあるわけですが、これは警察や軍の末端、すなわち縄文人の末裔が、上層部の意向に反して行ったと解することになります。

<Yoshu>

 我々が、在日外国人参政権特に特別永住者について、いろいろ議論する前提に、彼らの本音・言い分を聞くのも必要ではないかと、思いますので。
視点ー参政権問題について考える
http://yeoseong.korea-htr.com/porappi/P205/205-5.htm

に(、戦争問題に絡められたりして嫌な気は起こりますが)、興味ある方はアクセスしてみてください。
 植民地時代にも参政権は与えられていたけれど、選挙なんて彼らの生活実態からかけ離れていたものであったことや、現在は、参政権(選挙権、被選挙権)がないという制限のために住民として声をあげることの出来ない実態であることなどの問題があげられています。

<rotbelle>

 どうも、有料会員の端くれですが初投稿です。
 「読者とのディスカッション」を読んでいてふと思ったのですが、日本人・日本政府の移民に対する態度は、日本が属国の立場であることと関係があるのではないでしょうか? 移民のもたらす利益なども、日本の現状から遥か遠い自主的存在である世界帝国の事例よりは、仏領インドシナにおける華僑の移民、フィジーにおけるインド系移民、満洲国における漢人の移民あたりと比較して論じた方が良いのではないかと感じます。

<FUKO>

 島国であり昔から(現在に至るまで)日本人以外の民族とのコミュニケーションに乏しい日本人にとって、移民は到底受け入れられないものではないでしょうか。現在でさえも在日外国人とのトラブルはよく耳にします。もちろん日本も世界の一員だから貢献しなければならないということは分かりますが、単に感情論から言って移民受け入れは非現実的だと言わざるをえないと思います。
 それに、(これはあくまでも私の体験に基づくものですが)日本の青少年の大部分が韓国にたいして「申し訳ない」という感情を持っていると推測されます。
 小学校ー中学校ー高校と、ほとんど洗脳に近いような情報を叩き込まれました。教育における教師、教科書の嘘についてはまた掲示板に書き込みたいと思いますが、少なくとも私の周辺、ネット上でコミュニケーションをとっている友人はそういう感情を持っています。また、このことは大部分の国民にも当てはまるかもしれません。
 このような異常な感情の中に移民が入ってくるのは日本人に少なくとも利益をもたらすことはないと思うのです。

<太田>

 私は、移民受入は日本の利益になるし、それは先進国である日本にとって義務でもある、と主張しているのであって、感情論を展開しているわけではありません。
 ご自身お分かりになっておられるようにも思いますが、移民受入に反対されるのであれば、典拠に基づいた議論をしていただく必要があります。
 典拠に基づかない議論だと、それこそ単なる感情論であると受け止めざるをえません。
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太田述正コラム#2331(2008.1.30)
<新裁判雑記(その3)>

→非公開