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太田述正コラム#2250(2007.12.22)
<バグってハニー氏久しぶりに登場(その2)>

<バグってハニー>

最初に最近のコラムで話題に上った911陰謀論(コラム#2218)ですけど、太田先生は英米の一流紙で陰謀論を目にしたことがないから無視すればよい、と言ってましたけど、私が知ってる範囲で一度はあります。しかも、ガーディアン。
http://www.guardian.co.uk/comment/story/0,3604,1036571,00.html
 これを書いたマイケル・ミーチャー(Michael Meacher)は前ブレア政権で環境大臣まで務めた政治家で、ブレア政権を去った後に911陰謀論をぶち上げたわけで、にわかに信憑性が出てきたような 気がしますが、もちろん陰謀論は陰謀論です。その三日後には、デビッド・アーロノビッチ(David Aaronovitch)という記者に同じガーディアン紙上で完膚なきまで 反論されています。
http://politics.guardian.co.uk/comment/story/0,9115,1038478,00.html
 こういうのを読み比べてみると、太田先生がなぜいつもガーディアンを熱心に薦めるのかがよく分かると思うのですが。

<太田>

 よくこんな昔(2003年)の論考を見つけ出しましたね。
 面白いのは、ミーチャーがローズベルトによる真珠湾攻撃黙認論(私の言う消極的陰謀論)を援用したことにまずアーロノビッチが反論しているところ、真珠湾攻撃黙認論をとる歴史家がいることは認めていることです。
 いずれにせよ、ブッシュによる9.11同時多発テロ黙認論をとる歴史家など、今後とも出現することなどおよそありえないことは、このアーロノビッチの反論を読めば誰しもが納得することでしょう。

<バグってハニー>

 さらに、前回(日英空軍対決)の補足ですが、さらに独仏まで加えると航空自衛隊の装備が制空戦闘機に偏重していることがとてもよく分かります(この段落の数値はすべて2007年版ミリタリー・バランスから)。この四カ国は人員では日:英:独:仏で45,900人:45,210人:60,580人: 63,600人、戦闘用航空機では280機:278機:295機:303機というように空軍の規模が似通っているのですが、戦闘用航空機のうち制空戦闘機 (FTR)の数を比べると、同じく日:英:独:仏で260機:100機:99機:97機となります。日本以外の国では制空戦闘機は100機以下しかなく、 戦闘用航空機の約三分の一しか占めていません。その代わり、攻撃機・爆撃機などいろいろとバラエティに富んでいます。日本の場合、戦闘用航空機の残りの20機も制空戦闘機F-4EJの偵察機派生型RF-EJなので、日本の空軍には実質的に制空戦闘機しか存在していません。ミリタリー・バランスの分類に従わず、支援戦闘機F-2を制空戦闘機から除外するとしても、これは40機しかないので大勢はかわらず、日本は制空戦闘機が占める割合が空軍の規模が同等の 英独仏と比べて倍以上あることになります。まあ、ですから日本はやたらめったら打たれ強い代わりに打って出ることができないということで、これも専守防衛の一端がよく現れていると思います。もちろん、攻撃的役割は在日米空軍が肩代わりしているんですけどね。

 さて、ここからが本題で、今回は日英陸軍対決です。といっても攻撃ヘリに限った話です。例によって『防衛庁再生宣言』には「まず陸上装備だが、対戦車機動攻撃力で見ると、戦車の数こそ日本が上回っているが、攻撃ヘリコプターは英国の3分の1しかない。(同書の表によると日:英で90機:269 機)」という記述があるのですが、これに軍事愛好家が激しく噛み付きました。曰く、英国の攻撃ヘリは水増しされていると。特に、基本的に武装のない観測ヘ リ・ガゼルSA-341が攻撃ヘリとしてカウントされているのはおかしいと。それで、またもや議論は拡散、太田先生も「俺はミリタリー・バランスを基にし ただけだ。文句があるんだったらミリタリー・バランスに言ってくれ」と開き直るという事態に至りました。私も何とか火消ししようと太田先生に助太刀しましたが、微力も及ばず掲示板は大炎上しました。

 しかし、今回は違います。自信があります。ガゼル論争に完璧に終止符を打つという。なぜ、ガゼルが攻撃ヘリとしてカウントされているのかという謎を解明する上で、JSFさん(軍事愛好家の一人)のブログにあったコメントが大変役立ちました。まず、2000年版のミリタリー・バランスにはこう書いて あります(英陸軍の装備一覧)。
ATTACK HEL 269(249):144 SA-341, 110 Lynx AH-1/-7/-9
 なにやら暗号のようですが、ATTACK HELは攻撃ヘリのことであり、その総数は269機ということで、とにかく2000年版のミリタリー・バランスでは『防衛庁再生宣言』にあるとおり英陸軍 の攻撃ヘリは269機と書いてあるのです。SA-341というのが今話題になっているガゼルのことで144機、リンクスにはAH-1/-7/-9という三 つの派生型があり全部で110機という意味です。それで、まず第一にガゼルとリンクスを足しても254機しかなくて総数の269機に足らない、というの と、第二に括弧内の数値は何なのか、というのが気になります。とりあえず一点目は無視します。括弧の数値に関しては
Figures in () were reported to CFE on 1 Jan 2000
と但し書きがあります。CFEとはTreaty on Conventional Armed Forces in Europe、つまり欧州通常戦力条約のことです。これは冷戦期の東西陣営の通常戦力を制限するためにあったのですが、発効したのが冷戦の終結と同時期に なってしまったという、やや不遇な軍縮条約です。CFEの付属議定書を見ると
http://www.dod.mil/acq/acic/treaties/cfe/protocols/exist_equip.htm
 どの装備が同条約で制限されるのか、制限されないのか、細かく分類されています。攻撃ヘリに関しては、(A) Specialised Attack Helicoptersと(B) Multi-Purpose Attack
Helicoptersという二種類があって、ガゼル(Gazelle)とリンクス(Lynx)はこのうちの(B)に分類されています。陸上自衛隊の攻撃ヘリはAH-1S約90機ですが、これは(A)に分類されています。さらに、付属議定書にはこう書いてあります。

Subject to the provisions in Section I, paragraphs 4 and 5 of the Protocol
on Helicopter Recategorisation, all models or versions of an existing type
of multi-purpose attack helicopter listed above shall be deemed to be
multi-purpose attack helicopters of that type.

 すなわち、条約の条項に従い、上記多用途攻撃ヘリのすべての派生型は、多用途攻撃ヘリとして取り扱われる、ということです。何を言っているのかというと、ガゼルには対戦車攻撃能力もあるモデル(仏陸軍のガゼル)など、いくつもの派生型があるのですが、基本的に武装のない英陸軍のガゼルもすべてひっくるめて攻撃ヘリとみなす、ということです。これは、CFEが東西のブロックごとに兵力を規制するためにあるので必然的にそうなるわけです。

 英陸軍のガゼルに相当する陸上自衛隊の観測ヘリはOH-6D約160機ですが、CFE付属議定書で相当するのはヒューズ社のモデル500/OH-6(Hughes 500/OH-6)であり、これは規制対象外の戦闘支援ヘリとされています(ただし、OH-6には米陸軍特殊部隊向けの武装型MH-6も一部存在します)。つまり、ミリタリー・バランスは単にCFEの分類に従っているだけなんですねえ。

 さて、冷戦が終わってこのCFEは時代遅れとなり、CFE適合条約(CFE-II)へと改訂されます。ブロックごとの規制に意味がなくなり、その代わりに国・地域別に兵力は規制されることになりました。当たり前ですが。
http://en.wikipedia.org/wiki/Adapted_Conventional_Armed_Forces_in_Europe_Treaty
 対象となる装備も見直しされ、以下のようになりました。
http://www.dod.mil/acq/acic/treaties/cfe/protocols/poet_update.htm
 ガゼル一般は依然攻撃ヘリのままですが、規制対象外の戦闘支援ヘリが増えて、英軍に関しては陸軍のガゼルがどうなったかは分からないのですが、少なくとも海軍と空軍のモデル(それぞれHT2とHT3)は規制から外れることになりました。このような流れを受けて2002年版以降のミリタリー・バランスでは英陸軍のガゼルは支援ヘリ(SPT HELICOPTERS)に分類されています。

 結論としては、日英の戦力比較を行う上でCFEのブロックごとの分類に従う必要はないので、攻撃ヘリは日本がAH-1S約90機に対して英国がリンクス110機ということで、数の上では英国がやや優勢、攻撃ヘリは観測ヘリと組み合わせて運用されることを考慮すると日本はAH-1S約90機+OH- 6D約160機=約250機に対して英国はリンクス+ガゼルで269機(2000年版のATTACK HEL総数)ということで、英国がこれもやや優勢、ということになると思います。差はほとんどないですが。

 とりあえず、ここいらのことを踏まえて表だけでも早急に改定してみます。

 それでは。

<太田>

 まことにご苦労様です。
 しかし、

>陸軍のガゼルがどうなったかは分からない

のでは、「ガゼル論争に完璧に終止符を打」ったとは言えないのではないでしょうか。
 いずれにせよ、ミリバラ自らが欠缺を認めていない限りはミリバラの記述に従う、という私の拙著での日英比較の箇所の執筆方針に従えば、2000〜2001年版ミリバラの記述に従い、日英の攻撃ヘリ(拙著で対戦車ヘリと記したのは不適切)の数を比較すべきだと思います。
 せっかく詳細調べていただいたことは、脚注で記すことが望ましいでしょう。
 いずれにせよ、最後ででもよろしいのでぜひやっていただきたいのは、2000〜2001年版ミリバラに従い、(このミリバラが自ら欠缺を認めているので、これを他の資料で補いつつ、)日英の戦闘用航空機(拙著で戦闘機と記したのは不適切)の数を比較していただくことです。
 まことに厚かましい限りですが、何卒よろしくお願いします。
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太田述正コラム#2251(2007.12.22)
<NLPで役人を辞めた私(その3)>

→非公開

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