太田述正コラム#2208(2007.12.1)
<皆さんとディスカッション(続x10)>

<遠江人>

1.コラム#2203に関して

>ところで、「戦闘行為によって(軍隊にあらざる)自衛隊が人を殺すことも、自衛官が殺されることもありえません。」と書いたのに対し、日本が武力攻撃を受けた時にはそういうことがありうるのではないか、という問題意識を持った方はおられなかったですか。
 自衛隊が人を殺すことも、自衛官が殺されることもありえないなら、国民の税金を投入して維持している自衛隊の存在価値って何?という根源的な問いに行き着いてしまいますね。
 軍隊として認めるなら税金はかかっても国防という意味がある、国権による殺人を認めず自衛隊を解散するなら税金が浮く、軍隊として認めず解散もしない今の状態なら国防にも寄与しないし税金がかかるだけで、何で自衛隊なんて持ってるの?と言われても、まともに返事ができないですね。
 かたや見た目は軍隊、でも9条で殺さず殺されずの自衛隊、かたや国権の発動で文民が人を殺す死刑制度、世界の大半を占める国々と間逆ではありませんか。そんなねじれた状態を望んでいる、もしくは政治家に金だけ渡して我関せずなのは、もちろん他ならぬ国民なわけですが。
 敵が上陸してきても、自衛隊は敵を殺してくれないし、裁判所が敵を殺してくれるわけじゃない。易々と上陸してきた敵に撃たれても国民の誰が文句を言えるでしょうか。

(話半分ですが、仮に日本が武力攻撃を受けた場合、もし一部の自衛隊が覚悟を決めて禁を破り、反撃して敵を殺せば、国を守ったその自衛官が殺人犯となり、国権の発動によって死刑になる可能性があるという笑えない状況になるのでしょうか。)

2.コラム#2201に関して

>他方、世界で死刑廃止論が主流になりつつあることにも私は奇異な念を抱かざるをえません。
>死刑を廃止した地域(例えばEU)にせよ国にせよ、日本の憲法第9条と同趣旨の憲法条項を持つところが一つもないからです。
>人間の世界ではどうしてこんな偽善がまかり通るのでしょうか。
>(死刑に係る誤審の可能性が喧伝されますが、戦争が過誤によって起こることがめずらしくなく、しかも戦争の過程で同士討ちや民間人の死者・・いわゆるコラテラルダメッジ・・が生じることが避けられないことを思い出してください。)

 9条と死刑が同居する日本への逆の当てつけという意味と、死に対して平等であるという意味なら確かにその通りだと思いますが、平時と有事は状況が違うということと、有事の可能性がある以上軍事力は持たざるを得ないという理由で、普通の国が日本の憲法第9条と同趣旨の憲法条項を持つことはしたくてもできないと思います。そんな状況で、せめて平時における死刑は廃止したい、という気持ちは分からなくも無いのですが。
 ちなみに、Wikipedia - 死刑存廃問題のうち世界の現状の項
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%BB%E5%88%91%E5%BB%83%E6%AD%A2#.E4.B8.96.E7.95.8C.E3.81.AE.E7.8F.BE.E7.8A.B6
によれば、死刑を廃止している国は、国家有事以外の死刑は廃しているものの、国家の危機における死刑については対象としないことが通例、ということのようです。

3.護憲改憲論議

 日本における死の差別と欺瞞といえば、少し前に気になることがありました。
 今年の終戦記念日にNHKで放映された「日本の、これから」という番組の中での話です。
「日本の、これから」テーマ「考えてみませんか?憲法9条」
終戦の日に市民と論客激論▽護憲か?改憲か?▽日本は軍隊を持つべきか?
参照
http://kukkuri.jpn.org/boyakikukkuri2/log/eid350.html

 小林よしのり氏の発言(抜粋)
 「で、パール判事が尊敬してるのはガンジーですよ。ガンジー主義ですよ。ガンジー主義というのはね、日本の平和主義者の方たちが思っておられるような平和主義ではありません。ガンジーの非暴力による抵抗主義っていうのは、これはもし、当時のインドはイギリス側の植民地だったんですけどね、もし他国の軍隊が攻めてきたら、非暴力によって徹底的に抵抗せよ、それで自分の国の独立を守るっていう、そういう精神です。だからほんと横一列に並んで、敵の銃弾火器を浴びて、バタバタバタバタ倒れていっても、それでも非暴力で行くという恐ろしい、これはイデオロギーなんです。わしはこれに賛成です。やってもいいです、わしは。恐ろしく勇気がいるんです。それを日本国民がやれますか?平和主義者の方がやれますか?ってことをわしは問います」

 この発言に対して左寄りの出演者の人から、賛成です、という発言があり、会場から拍手がわきました。平和のためなら命をかける覚悟があるのか?という問いに左の人達がそのためなら死んでもいいというわけです。
 その少し後、他国から攻められたら若者の7割は逃げると言っているがそれでいいのか、という声があり、それに対して、逃げて何が悪いんだという声があがりました。それを受けて沖縄の方が以下のような発言をします。

 照屋(男)67才 平和ガイド【1】
 「私はですね、やっぱりもともと武力というのは原則に戻るべきだと思いますね。それは何かといったら、私はやっぱり、ヌチドゥタカラだと思います、命こそ宝だと思います。これをなくしてね、何を……。国を守るために、またこう、卑怯者とかおっしゃっておりましたけれどもね、どうして国を守るために人が死ななければならないんですか。私はやっぱりそういう意味ではですね、小林よしのりさんの本にもあったんですが、『戦争論3』、その最後の章は、生命より尊い価値になってますよ。私はそれはおかしいと思います。生命より尊い価値なんて何でしょう。その締めの所は天皇の歌があり、そして特攻隊の歌があり、それで締まってますよ(小林よしのり氏が反論しようとするが)。ちょっと待って下さいよ。私はそれこそが日本が誤ってきた問題で、やっぱり私はそのもとになる国家の権力というものは、軍隊があると使用するわけですよ、権力を。そういう選択肢を封ずるべきだと思います(拍手)」

 人間は命が一番の価値であり、そのうえで戦争放棄をして軍隊はいらない、というスタンスです。

(略)
 それに対しての小林よしのり氏の発言
 「ちょっと待って、わしのことで言ってるからさ……。命より大切なものがあるか?と。それだったらガンジー主義はやれませんよ。ね。ガンジー主義はやれませんよ。命が一番大切ならば、逃げるしかありません(拍手)。つまり要するに植民地の民になるしかありません。ガンジーを否定してるわけですよ。ね。インドはイギリスの植民地だったわけです。ね。で、植民地の民でいることが嫌だから、ガンジーは命を投げ出してでも無抵抗を貫いたんですよ?命が大切だったら、ね、ガンジー主義はできないんです(拍手と反論の声)」

 命が一番大事、戦争放棄で軍隊はいらない、敵が来ても逃げればいい、とする一方で、小林氏のいうガンジー主義をしてもいいと、イデオロギーで死ぬことを否定しない。これは左の人達だけの例ですが、一足飛びに戦争の無い世界を実現しようとしていて1か0かの世界だから、その過程で、ものすごい死の差別と欺瞞が巻き起こっているように感じます。こんな感じだから死刑廃止と9条の関係についても欺瞞だらけで当然なのでしょう。

 全編ちゃんと知りたい人は以下を参照してください。

「日本の、これから」第二部(1)
http://kukkuri.jpn.org/boyakikukkuri2/log/eid353.html
「日本の、これから」第二部(2)
http://kukkuri.jpn.org/boyakikukkuri2/log/eid354.html

<太田>
1 について

>敵が上陸してきても、自衛隊は敵を殺してくれない・・

は誤解です。
 敵が日本に上陸してくるようなことがあれば、自衛隊はもちろん敵を殺してくれます。
 私がかねてから申し上げているのは、簡単に言うとこういうことです。
 憲法第9条を「押しつけた」米国は、日本に対する侵攻については、米軍が日本に駐留していればもちろんのこと、駐留していなくても、侵攻の予兆をつかんだ時点で日本に米軍を送り込めば対処できると判断していました。
 ところが、朝鮮戦争が起こり、米国は朝鮮半島向けの予備兵力として警察予備隊(後に自衛隊)をつくりますが、その朝鮮戦争が終わり、戦争以前には駐留していなかった米軍が韓国にも駐留することとなり、やがて韓国軍も整備されていくと、自衛隊の存在根拠はなくなってしまいます。
 こうして自衛隊の存在根拠はなくなったまま、現在に至っている、ということなのです。
 そうである以上、テロリスト的攻撃に対処するための警察力に毛が生えた程度の自衛隊を残し、自衛隊は大幅に削減すべきなのです。
 そうではなくて、現行の自衛隊の兵力を維持したいというのであれば、日本の領域防衛以外のミッションを自衛隊に与えるべきなのに、そうしないから、防衛省は論理必然的に退廃し、腐敗することになるのです。
 
2 について

>死刑を廃止している国は、国家有事以外の死刑は廃しているものの、国家の危機における死刑については対象としないことが通例

 おっしゃるとおりであり、実は本当に死刑を全廃している国などほとんど存在しないのですよ。

3 について

 小林よしのり氏が分かっていなさそうなのは、第一に、ガンジー主義はインドの独立に何の役割も果たさなかったということであり、第二に、ガンジー主義は「敵」の軍隊に対しては完全に無力であることです。この場合、非暴力的抵抗をすれば通常はリーダー格の人々は皆殺しにされ、残りの人々は逃げまどってジ・エンドです。宗主国英国がガンジー達に対してそうしなかったのは、アングロサクソンだからです。(日本がインドの宗主国であったとすれば、やはり非暴力的抵抗を大目に見たでしょうが・・。)
 なお、ガンジーについては、コラム#176、778、1250、1251、1992、2008を参照してください。

<田吾作>

 河野太郎、早川忠孝<両衆議院議員は、自民党ですが、外務省や社会保険庁を厳しく追及してきました。>
http://ameblo.jp/gusya-h/entry-10055070734.html

<okano>

 ブログ上の自民党 kn議員、hk議員の事を褒めていますが、気持ちは分かりますが。
 行政いろいろ不祥事の続出ですが、本来それらを指示し決めているのは、政治家の仕事なのですから。
 公務員をしかり、それを手柄のように公表するということは政治家として、それも政権政党でありながら、あまり褒められたことではないのですよ。
 それに自ブログで 自国の省庁を”害務省”などと呼ぶkn 氏、国会議員としての資質はどうかと思います。

<太田>

 その通りです。
 だまされてはいけません。
 「改革」を叫んだ小泉さんや「官僚批判」に努める河野さん、早川さんらは、退廃し腐敗しきった自民党政権を延命させるために、善玉役を巧妙に演じているだけである、と心得ましょう。

<内海>

 中国海軍のイージス艦視察計画が中止になりましたが、自衛隊の機密保持の姿勢についてどうお考えでしょうか。

<太田>

 その話はこの記事に出ていますね。
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20071130i101.htm
。11月30日アクセス
 この問題については、コラム#2034、2036、2038を参照してください。

<コバ>

http://portable.blog.ocn.ne.jp/t/typecast/195358/0/9769163

 上記携帯?サイト(アングラサイトですが)でロシア極東について書かれていますが、このままロシア極東の人口減が続いていくと、長期的には中国がロシア極東まで領土を広げる可能性はあるのでしょうか?韓国と同じように、中国やロシアと友邦として信頼関係を結べればいいのですが…。それ以前に同盟国の米国が友邦じゃなくて宗主国でしたね(がっくり)。

<太田>

 この問題については、コラム#1261、1265を参照してください。
 その後、ロシアは外国人追放政策に転じており(典拠失念)、状況が変化している可能性がありますが・・。
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太田述正コラム#2209(2007.12.1)
<「太田総理・・」3回連続出演(その1)>
 
1 始めに

 日テレの「太田総理・・」のご案内が一部間違っていたので、訂正します。
 12月中に私が出演する第一回目は12月3日収録で14日放送、第二回目は10日収録で21日放送、第三回目は17日収録で25日放送です。
 (ですから、来週中に私の出演する番組で放送されるのは、生出演するラジオ局JーWAVEの「JAM THE WORLD」の2055頃からだけです。)

<この後の部分は、12月14日夜まで非公開にします。)>