太田述正コラム#2136(2007.10.20)
<中台軍事バランスの変化をめぐって>(2007.11.23公開)

1 始めに

 中共が急速に台湾・米国との劣勢だった軍事バランスを改善しつつあります。
 ところが米国は腰の引けた対応をしています。

2 ライト発言

 9月の末に、在日米軍司令官のライト空軍中将(Bruce Wright)(注1)は、中共の防空能力が向上し、米国がアジアに配備しているF-15やF-16では中共を攻撃することがほとんど不可能になったと語りました。
 
 (注1)私が旧防衛施設庁で在日米軍との折衝の総括責任者になった時、その実質的カウンターパートたる在日米軍司令部第3部長だったのがライト大佐(当時)だった。彼はすぐ代わってしまったが、率直に言ってやや傲慢な印象を受けた。今度岩国で起きた、米海兵隊員による19歳の日本人女性集団暴行事件でも、彼には恐らく機敏な対応はできないだろうし、またその意思もなかろう。
 (注2)中共を攻撃するためには、ステルス能力(レーダーに探知されない能力)があるF-22かF-35が必要だが、F-35はまだ就役しておらず、12機のF-22が今年初めに沖縄に配備されたが、臨時配備に過ぎず、恒久的配備の計画はない。

 そして中将は、米軍のF-15の製造後の年数の平均は約24年、空中給油機のKC-135は46年であるのに対し、中共はロシア製のスホーイSu-27(フランカー)やSu-30、それに今年就役したばかりの国産のJ-10(コラム#1627)の新造機をどんどん配備しており、史上初めて、米国は他国、すなわち中共、に戦闘機の製造後年数で下回られてしまった、述べたのです。
 中将は言及しませんでしたが、中共の防空レーダー網の能力も最近、先進国のレベルにほぼ到達したと中共の空軍幹部が軍事雑誌に書いています。
 中共の防空ミサイルも充実してきています。

3 台湾の対応状況

 (1)概観

 米軍ですら中共を攻撃することがほとんど不可能になったのですから、台湾のフランス製のミラージュ2000-5や、同じく旧式の米国のF-16では、中共を攻撃することは全く不可能になりました。1990年代初期までは可能だったのに状況はすっかり変わってしまったわけです。
 しかも、昨年末までに中共は約900基の短距離弾道弾を台湾海峡の向こう側に配備しました。

 (2)巡航ミサイル

 そこで台湾は、400kgの弾頭が搭載でき、射程最高1,000kmの巡航ミサイル・雄風2E型(Hsiung Feng 2-E)を製造・開発中であり、将来このミサイルを最大500基、移動式発射機や艦艇、航空機に装備する構想があります。
 いざとなったら、戦闘機の代わりにこの巡航ミサイルで中共を攻撃しようというのです。
 現在具体化されている計画は、8年以内にこのミサイルを最大100基製造しようというものであり、既に何基かは配備済みであるとされています。
 なお、製造済の雄風2E型は、ターボジェット・エンジンで射程公称600km、実用的には約500km・・上海や香港などの都市や中共南東部の空港やミサイル基地を攻撃できる・・ですが、現在ターボファン・エンジンのものを開発中であり、開発に成功すると、射程が延びるだけでなく、命中精度も上がります。
 ところが、ブッシュ政権が、台湾海峡両岸の双方とも、攻撃的ミサイルの配備は行うべきではないとしているところ、米国が上記開発のために必要不可欠な部品の台湾への輸出認可をこの半年間大幅にしぼってきており、台湾当局は疑心暗鬼になっています。
 このままでは、上記開発だけでなく、台湾の他の国産ミサイルである、対艦ミサイル・雄風2や超音速対艦ミサイル・雄風3やミサイル迎撃ミサイル・天弓3型(Tien Kung 3)等の製造にまで影響が生じかねないからです。
 その上、陳水扁政権が、1991年来、対中配慮で実施してこなかった、10月10日の双十節(建国記念日)での軍事パレードを本年復活し、このパレードに雄風2Eを参加させようとしたところ、米ブッシュ政権が強い懸念を表明し、参加断念に追い込まれたのです。
 そこで台湾当局は、米国から部品を輸入しなくても済むよう、部品の国産化や第三国からの輸入を検討しています。

 (以上、
http://www.taipeitimes.com/News/front/archives/2007/09/30/2003381007
(10月1日アクセス)、
http://www.nytimes.com/2007/10/11/world/asia/11china.html?ref=world&pagewanted=print
http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/7036957.stm 
(どちらも10月11日アクセス)、
http://www.taipeitimes.com/News/front/archives/2007/10/18/2003383640
(10月19日アクセス)
http://www.afpbb.com/article/life-culture/life/2295866/2227991
http://www.cistec.or.jp/open/info/other/newsletter/2007anpo_pdf/0705anpo.pdf
(どちらも10月20日アクセス)

 (3)新型F-16

 ブッシュ政権は、中東やアフガニスタンに関心を集中させており、東アジアでは中共に配慮せざるをえない立場にあるだけに、台湾名での国連加盟申請を行うことの是非を問う国民投票の実施を唱えている最近の陳水扁政権への不快感を隠そうとしていません。
 そのことと、雄風2E型をめぐる米国の姿勢とは関係があると見られています。
 同様この関連で懸念されるのが、新型のF-16を何十機か台湾に売却する話が進んでいたというのに、先般、ブッシュ政権がこのF-16に関する価格や運用情報の台湾への提供を止めるという、事実上売却話を凍結する意志決定を行ったことです。
 (以上、
http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2007/10/19/2003383827
(10月19日アクセス)による。

4 終わりに

 中台軍事バランスの変化や、このところの米国の台湾の安全保障に係る腰が引けた姿勢が、日本のメディアの電子版ではほとんど報じられていないので、日本の皆さんに警鐘を鳴らすつもりで本篇を執筆しました。